開業1年で「廃墟フードコート」と呼ばれたタイムアウトマーケット大阪。その現状を報じた前回記事は大きな反響を呼んだ。
一方、同じ大阪駅直結でありながら、60年以上営業を続け、行列が絶えない“デパ地下”フードコートがある。阪神百貨店梅田本店・地下1階にある「スナックパーク」だ。2つの施設の明暗を分けた理由は何か。フリーライターの宮武和多哉さんが、価格差では説明できない「集客力の差」を探った――。
■同じ「駅直結」なのに明暗が歴然
2025年、大阪駅直結のグラングリーン大阪に鳴り物入りでオープンしたフードコートが、開業1年で「廃墟」と呼ばれるようになった。その一方で、60年以上にわたり行列が絶えない駅直結のフードコートが、同じ梅田エリアに存在する。なぜ、これほどの差が生まれたのか。
両者はとにかく対照的だ。どの時間帯も人でいっぱいのフードコート「スナックパーク」と、平日ランチタイムが“駅チカ廃墟”と呼ばれる状態の「タイムアウトマーケット」(以下タイムアウト)との集客力の違いが、SNSでよく話題にのぼる。
スナックパークは阪神百貨店の地下、タイムアウトはグラングリーン大阪の地下と、どちらも立地条件は良い。なぜ、賑わいに差がつくのか? 要因は圧倒的な価格差だけでなく「飲食店としての“食体験の演出”不足」、「高額商品を買わせない“店舗の個性”不足」にあるようだ。
さっそく、現地をじっくり観察してみよう。

■比較される「スナックパーク」と「タイムアウト」
両者のおもなフードの価格差は、以下の通りだ。
〈タイムアウトマーケット〉

「シャトーブリアンサンド」(1万円)
「プレミアムビフカツカリー」(3800円)
「ラムのスペイン風煮込み」(2400円)
「かけうどん」(850円)
※2026年3月に17店中7店が閉店、5月以降に順次新店オープン予定
〈スナックパーク〉

「オムライス」(580円)
「醤油ラーメン」(390円)
「イカ焼き」(250円)
「海老天丼」(600円)
※計13店

4月22日にタイムアウトの閑散ぶりを記事として配信した際には、この価格差を挙げて「タイムアウトに行くくらいなら、スナックパークに行く」といった意見が相次いだ。なかには「シャトーブリアンサンド1個分(1万円)=スナックパークのラーメン25杯(390円)分」といった、さして意味がない比較さえ見られたほどだ。
ただ、両者はおなじ「大阪駅・梅田」エリアでも、別の街と言っていいほど徒歩移動がややこしく、タイムアウトに行きそうな顧客が、スナックパークに流れるようなケースは、まずない。
だいたい、関西国際空港から電車1本でアクセスできるインバウンド観光客・富裕層向けエリアと、周辺の地下街と一体化した“巨大な一杯呑み屋街”エリアで、どちらに行こうか悩むシチュエーションがあるのだろうか?
にもかかわらず、両者はなにかと比較対象にあがる。スナックパーク13店、タイムアウト12店すべて(2026年5月現在)の料理・サービスを堪能したうえで、違いを検証してみた。すると、価格以外の差がある……というより、フードコートとしての“ツッコミどころ”が、いくつか垣間見えた。
■1000円以下で体験できる「シズル感」
スナックパークにあってタイムアウトにないもの。それは、フードコートとしての臨場感による「“食体験”演出」、どんなフードメニューを販売しているかという「“食”に対する情報量」だ。
スナックパークでは敷地内の通路を歩くだけでも、ラーメンの湯気だったり、肉を焼く音だったり、イカ焼きの鉄板が「ジュッ!」と音を立てたり。全体的に狭いから調理音・環境音が丸聞こえになっているだけなのだが、ここで発生する「シズル感」(五感に訴える情報)が、苦痛な行列待ちを「テーマパークのような食体験」に変えてしまう。さらに、今から食べる商品がどのようなものか、分かりやすい情報提供で可視化されるというメリットもあるだろう。

60年以上も営業を続けているスナックパークならではの、店員の熟練の手さばきも見ものだ。特に「たまご丸」での、フライパンでオムライスを包み続ける達人技は、店員さんの存在自体がアトラクションと言っていいだろう。たまに来店するインバウンド観光客への商品説明も、たこ焼きの説明が「ルック! オクトパスとレッドジンジャーがインのファイヤーボール、OK?」(そういった場面を実際に目にした)と、慣れたものだ。
もちろん料理は価格以上に美味ではあるが、そこに環境音・達人技という臨場感と、13店舗が個性あふれるスタイルであるが故の多様性が加わり、フロア全体で「そこに立っているだけでも楽しい!」と感じる空間を作り上げている。もともと駅に近く(阪神本線・地下鉄御堂筋線など)敷地の通り抜けを楽しむ人もいるような「駅チカフードコート」ならではの好循環だ。
■活気を左右する厨房と客の距離感
一方でタイムアウトは、広すぎる厨房の奥に調理スペースがある上に、五感をくすぐるシズル感も、活気も生まれない。そういった要素がなくても味は変わらないのだが、2mほど奥の薄暗い店内で焼き上げられるステーキと、20cmほどの目の前でパリパリ揚がる海老天・ふわっと丸くなる明石焼き。パッと見てワクワクするのは、どちらだろうか?
目につくような視覚の演出が少ないと、「この商品はプレミアムなのか! だから買う」といったPOP・商品写真・説明書きなどの情報提供がなければ、わざわざ高額商品を頼んでくれない。しかし、全店で統一された重厚なデザインのカウンターはそういったツールが少なく(動線上から見えず、カウンター前に立たないと分からない)購買に繋がる「食材・調理法・どんな層に人気があるか」といった情報を、ほぼ得られないのだ。
視覚も情報も少ないとなると、店員とのコミュニケーションが頼みの綱となるが、試しに外国の方をお連れして試してみても、「原材料の産地はどこですか?」「このスイーツと合うドリンクはどれですか」「アレルギー表示は?」といった踏み込んだ会話が、なかなか成立しない。
タイムアウトがリピーターを掴めなかった要因は、商品が高額だから、というより「その高額に見合う演出・情報提供ができていない」といった原因があるように見える。カウンターでのコミュニケーションが円滑でないのも、利用者の少なさ故の悪循環のようにも見えるのは、気のせいだろうか?
■「高すぎる→客が来ない」は通用しない
比較してみると、スナックパークが「低単価+分かりやすいカウンター+活気ある食体験を提供」、タイムアウトが「高単価+見合った情報を提供できないカウンター+食体験を提供できていない」というところか。

この状態で低価格商品を発売すればよい、という訳でもなく、タイムアウトでスナックパークの390円のラーメンを販売したところで、見合った売り上げも食体験も生じないだろう。
なお、おなじ建物(グラングリーン南館)の2階にあるうなぎ店・ステーキハウス・寿司店などは単価5000円、1万円を越えてくるため、「タイムアウト」が高単価過ぎて客足が離れている、という言い訳は成立しない。このエリアは「関西人はケチ」という一般的な常識が通用しない、と言っていいだろう。
要はタイムアウトが価格なりのプレミアム感を演出できていないだけで、フードコートとして閑散としている理由は「存在を知られていない」か「意図的に選ばれていない」かの二択、ということになる。
「知られていない」状態からの脱出は、先日の記事公開後に開設されたX公式アカウントに期待するとして、タイムアウトが意図的に選ばれない“廃墟化”と呼ばれる状況に繋がった「閉店後の空きスペースへの対応」を、スナックパークと比べてみよう。
■7店が一斉撤退、空きスペースを1カ月放置した代償
フードコートとして営業する以上、どうしても「不振店の退店・新規出店」といった事態は付きまとう。次に入る店舗を見つけられないフードコートも多い中、両者の実際の対応から「廃墟化させる・させない」ための経営姿勢を比べてみよう。
タイムアウトの閑散ぶりがSNSで取り沙汰され始めたのは、17店あった店舗のうち7店が2026年3月に一斉に撤退したのがきっかけであり、空きスぺ―スを埋める別のテナントも入居しなかった。
一般的なフードコートだと、店舗を移動・集約したうえで、デッドスペースを「イベント時のみ開放」扱いにするという手もあったが、タイムアウトは対策を講じることなく、「次の店舗が入店予定」といった張り紙さえないままに、このスペースを1カ月以上も放置。結果、「廃墟」として取り沙汰されるようになった。
このあと5月1日にラーメン店が開店。その後もイギリス料理店、タイ料理店などがテナント入居する予定であり、現状では賑わいを取り戻しつつある。
タイムアウトの場合は7店が退店したエリアで週末にライブ・DJイベントを開催していたとはいえ、ここまで入りづらいフードコートのデッドスペースを野放しにした事例は、あまり聞かない。
■スナックパークが「廃墟化」しない経営哲学
スナックパークでも2018年の再オープン後に、撤退・閉店が発生しているが、短期間で新店が入るか「イベントスペース」として期間限定の店舗が入ることで、活気をそのままキープしている。現に2026年5月現在も、期間限定扱いで丼物を扱う店が長らく「イベント出店」扱いのまま営業しており、「空きスペースをガラガラのまま放置しない」意図は、はっきりしている。
入居する店舗もタイムアウトのような「その街を代表する料理人」「非・チェーン店」のような制約はなく、まだ関西・関東に本格進出していなかったチェーン店「資さんうどん」が2023年8月~9月に限定出店したこともある。
この前後には「資さん」公式アカウントや佐藤崇史社長(当時)の積極的なSNS発信で「まだ見ぬ北九州のソウルフード」としての「資さん」が知れ渡っていたこともあり、期間中は見たこともない行列が建物の外まで延々と伸びることに。さらに、「数時間待ってうどん一杯」で足りる訳もない人々が他店に流れたため、スナックパークは収集がつかなくなるほどの大盛況となった。
■チェーン店なのに長い行列ができる
歴史も活気もあるスナックパークへの出店は、店を構えただけで話題となり、出店したい業者も数多くいる。くわえて、かなりの店舗が長らく営業しているため空き物件が生じず、“廃墟化”状態になりようがないのだ。
なお、上記の「資さん」の場合は、当時は毎日放送に所属していた北九州市出身の野嶋紗己子アナ(現在は退社)がミラクル級の食レポを連発したことから、ネットを見ない層にまで「資さん」の存在が知れ渡るという幸運もあった。
この勢いは3カ月後に開店した関西1号店(今福鶴見店)でも維持され、この高評価のままに全国進出を果たし……今さらだが、「資さん」は全国進出成功の立役者である「スナックパーク」関係者ならびに野嶋アナに、「肉ごぼ天うどん」五十杯くらい奢っても良いくらいの恩義があるのではないか。
■「リアル大阪」vs.「編集者が切り取った大阪」
4月22日にプレジデントオンラインで記事を配信した後、在阪テレビ局・新聞などでタイムアウトに関する報道が相次いだ。なかには「1等地であっても、誰にどんな体験、そしてどのように売るかっていう設計がミスマッチだと、このようにガラガラになってしまう」といった、専門家の指摘があったのも興味深い。
(関西テレビ「newsランナー」 2026年4月23日放送分)
実はタイムアウトは飲食業ではなくタウン誌が祖業であり、店舗の選定はタイムアウトならびに、同社が選定したキュレーターによって行われるという。直近のプレスリリースでも「タイムアウトマーケット大阪は“編集し続けるメディア”です」と語られており、この空間はいわば「メディア目利きで切り取った大阪」の凝縮だ。
一方でスナックパークは、多くの人々が「食べたい!」と思うメニューを並べて売っており、恣意的な編集がいっさい介在しない「リアルな大阪」といえる。この「メディアが切り取った大阪」「リアル大阪」の目線の違いが、価格もコンセプトもまったく違うスナックパークとタイムアウトが比べられる一因ではないかと推測する。
メディアの信用度が低いいまの時代、「キュレーターである私の推薦だ!」と“上から目線”で勧められたセレクションよりも、放っておいてもSNSで自然にバズるスナックパークの方が、“食”という体験を求めるいまの消費者には響く。当然の話であるとともに、タイムアウト不調の理由にも繋がってくる話だろう。
■「廃墟」を塗り替えられるか
これで世界中のタイムアウトが同様であるならともかく、市場のリノベーション物件を活かしてパステル・デ・ナタなど現地の名物を安く売るリスボン(1号店)など、他国のタイムアウトと日本のそれは全く違う、というインバウンド観光客の指摘も多い。
いまのタイムアウトの不調は、大阪の街を切り取れていない「日本版タイムアウトマーケットの不調」と割り切って、今後の集客策を考えた方が良いのかもしれない。
ただ、タイムアウトの今後の展望は明るい。今年秋にはグラングリーン南館から北側の空きスペースに「うめきたの森」が開業する予定であり、大阪駅からグラングリーン南館、「うめきた公園」「うめきたの森」への動線の途中にあるタイムアウトの客足は、現状の問題を放置していても、自然と増加に転じるはずだ。
また、大阪・北新地の「ラチェルバ」、奈良「#肉といえば松田」などの人気店の料理が予約もなく味わえるのは、関西の食事情を知る人々にとっては驚異でしかない。ここまでポテンシャルのある店が集結しているなら、開設したばかりの公式Xでも、どんどん発信していくべきだろう。

「キュレーター・編集者お勧め」といった作り物のブランドではなく、「各店でいま提供している料理の素晴らしさ」が知れ渡り、SNSで「廃墟」と呼ばれたイメージを、大阪の人々に愛される味として塗り替えられるか。すでに「新店開業」「公式X開設」など矢継ぎ早に集客策を打っており、今年秋に控える秋の「うめきたの森」開業を前にして、「タイムアウトマーケット」の真価が問われ始めている。

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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)

フリーライター

大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。

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(フリーライター 宮武 和多哉)
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