脳科学者の中野信子先生が子どもの「感情のコントロール」について教えます。「怒りの使い方を教えるために、夫婦げんかも子どもに見せましょう」
「怒りはよくない感情だから、できるだけ出させないほうがいい」
 そう考える親御さんは少なくありません。
でも私は、怒らないことが正解だとは思っていません。むしろ、怒りを表現することはとても大切です。理不尽な目に遭ったり、不当な扱いをされたりしたときに、正しく怒れなければ、つらい状況を変えることができません。
 大人は、怒りを抑えられる子を「いい子」と思いがちですが、そういう子は、穏やかに見えても、内側にため込んでいる場合があります。怒りが爆発したときには、手がつけられなくなることも。あるいは、自分を傷つける方向に向かうこともありますので、要注意です。
 怒りをゼロにするのがいいのではなく、怒りの感情を出すべきときにどう表現するか、「怒りをどう使うか」を教える視点が必要です。
 怒りの感情は「包丁」のようなもの。調理には欠かせない道具ですが、使い方を知らない人が持つと大けがをしますし、人をあやめる道具にもなります。いつ使うか、どう使うかを教えてください。
「怒り方」を学ぶ場所として、家の中は絶好の環境です。きょうだいげんか、大いによし。
夫婦げんかも子どもに見せてみましょう。親も人間ですから、けんかもします。価値観が違う2人が一緒に暮らせば、意見が割れるのは自然なこと。むしろ、感情を出す親は失格だ、と考える親のほうが危険です。自分を殺している大人の姿を見て、子どもは何を学ぶでしょうか。感情を持つこと自体が悪い、と受け取るかもしれません。それよりも、感情が動いた後、どう整えるかを見せるほうが役に立ちます。
 夫婦げんかをした後、仲直りのプロセスを必ず見せてください。どう折り合いをつけたのか、どこを認めたのか、どう妥協したのか。その場面を子どもに見せることで、「衝突しても関係は修復できる」と伝えられます。
 夫婦で対立しても二つの価値観があることは、子どもにとってプラスになります。父と母が違う意見を持っている。
それでも一緒にいる。互いにないものを認め合っている。これは大事なモデルです。
 ネガティブな感情は「持ってはいけない」ものではなく、成長には大事なものだということをまず伝えて、うまく付き合っていく姿勢を見せてほしいと思います。
※本稿は、『プレジデントFamily2026春号』の一部を再編集したものです。

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中野 信子(なかの・のぶこ)

脳科学者、医学博士、認知科学者

東京都生まれ。脳科学者、医学博士。東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授、森美術館理事。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。著書に『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『毒親』(ポプラ社)、『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)、『エレガントな毒の吐き方』(日経BP)、『脳科学で解き明かすあの人の頭のなか』(プレジデント社)など。

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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子 大島七々三=構成 深川 優=イラストレーション)
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