※本稿は、森生明『会社の値段[新版]』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。
■「フジテレビを助けたのは間違いだった」
ライブドアとの争いから20年後の2024年末、アジアへの長期投資を得意とする米国ファンド、ダルトン・インベストメンツ(ダルトン)が5%超の大量保有株主として登場します。PBR0.5倍に低迷するフジMHDのガバナンス改革と保有不動産(サンケイビル)価値の顕在化を求めました。
2025年、フジテレビは、大物タレントと女性アナウンサーのトラブル対応の不適切さをきっかけに広告スポンサー離れの経営問題を引き起こし株価が2000円付近まで暴落。ダルトンは株を買い増すとともに要求を強め、2025年6月、定時株主総会での取締役候補者12名の株主提案を行いました。
候補者の中には20年前にライブドアからの買収防衛策をアドバイスしたSBIホールディングス北尾吉孝会長が含まれ「あの時フジテレビを助けたのは間違いだった」といわれる始末でした。
フジMHDは電通をはじめとする同業仲間・取引先の安定株主を総動員し株主総会で北尾氏らの取締役選任を阻止しましたが、その後もダルトンは株式保有を続けています。村上氏と娘である野村絢(のむらあや)氏のファンドもこれに参戦、16%の株式を握った上で、放送法上限の33.3%まで買い増す意向表明を行いました。
フジMHDは20年前と同様に防衛策を導入しますが、その対応をダルトンは7月のレターでこう揶揄しています。
■暴走する「フジ」と投資家の攻防
FMH(フジメディアHD)は認定放送持株会社ですので、放送法上1人の株主が保有する議決権割合は3分の1を超えることができません(放送法164条)。それにもかかわらず、何を慌てているのでしょうか。
村上世彰氏が33.3%まで買い進めることを示唆したということですが、それだけで、多額の弁護士費用をかけて、15%の株主に対して買収防衛策を導入するなど、みっともない話です。
(中略)FMHの取締役会はこんなことに時間と労力と費用をかけずに、改革アクションプランの実行に注力すべきです。
旧村上ファンド(以下、村上ファンド)はFMHの不動産事業のスピンオフを要求しているということですが、これは私たちが2024年から再三、FMHに要求していることです。FMHは、今回の買収防衛策導入の理由の中で、不動産事業のスピンオフが実施されるとFMHの株主共同の利益が毀損されるおそれがあるとしていますが、そんなことは全くありません。
村上ファンドに不動産事業のスピンオフを主導されることが嫌なのであれば、FMHが主導して不動産事業のスピンオフを実施すればよいだけのことです。そして、株主共同の利益のためには、不動産事業は今スピンオフすべきです。
その後の2025年12月、村上ファンドの33.3%を上限とするTOB趣旨説明書の公表を受け、フジMHDの株価は4000円近くまで上昇しました。
■変わらぬ村上ファンドの出口戦略
両者は水面下で交渉し、翌年2月、1株3839円、総額2350億円の自社株買いに村上ファンドが応じ、持ち株を売却するとともに不動産事業スピンオフ提案取り下げに合意、この一件は「落着」します。
この発表を受けて株価は3400円に下がりました。フジの不動産やコンテンツ制作の価値が株価に反映していない点に着目して経営陣を揺さぶる、という村上ファンドの手法は、大阪の不動産含み益や阪神タイガースの価値に着目して阪神電鉄の株式を大量取得した20年前から相変わらず、の感を否めません。
村上ファンドはこの取引で推定400億~500億円儲けた計算になりますが、奇しくもその金額まで20年前と同じでした。そのカネはどこからでてきたのでしょう? 阪神電鉄のケースでは村上ファンド持ち株の買い主は阪急でしたから、阪急の株主が出し手だということになり、阪急株主は怒りの矛先を村上ファンドではなく阪急経営陣に向けるしかない、と説明しました。
■株主を無視した身勝手な決断
今回の場合、自社株買いですから買い手はフジMHD自身、そのカネの出し手はフジMHDの既存株主です。
つまり、昔からフジを支えてきた株主の富が横から突然入ってきた強面ファンドに流れる、という理不尽なことを会社経営陣・取締役会が率先してやったことになります。
もちろんこれは、自社株買いの株価が高すぎた場合ですが、他の株主が入ってきにくい立ち会い外買付(ToSTNeT)取引の形をとり、取引後に株価が下がったという意味で、株主平等原則に反する行為だという疑念はぬぐえません。
標的企業の株式を買い集め高値で買い取らせる行為は米国で「グリーンメール」と呼ばれますが、これは1980年代に廃れた手法で、米国なら他の株主が損害賠償請求の株主代表訴訟を起こすことでしょう。この一件は、日本では相変わらず、一般投資家の利益保護の視点に欠けた会社対応がまかり通ることを露呈しました。
■「失われた30年」を象徴するフジの姿
そして同時に、ガバナンス改革の先導者的役割を果たしてきたと自負する村上氏も、実は自分さえ儲かれば他の株主にはお構い無しの「濫用的買収者」「反市場的投資家」の側面を併せ持っていることを露呈したといえます。
公共性を盾に進化・変革を怠ってきたオールドメディア業界には外圧が必要で、業界再編M&Aが起こるべき業界だとファンドの目に映ったのは理解できます。彼らに多額の「手切れ金」を支払ってお引き取りいただくという発想は、昭和の総会屋対応を彷彿させます。
コムキャストの買収提案を退けると同時にアイズナー会長を退任させた後のディズニーが20年間で大きく躍進し、同じ時期にドラマや音楽で韓国勢がグローバル進出しました。
これに比べ、フジMHDが、20年前のライブドア、今回の村上ファンド撃退のために数千億円を費やす保守的・内向き姿勢は際立ってみえます。これが失われた30年間を象徴する、日本企業の1つの姿だといえるのかもしれません。
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森生 明(もりお・あきら)
経営コンサルタント
1959年大阪府生まれ。
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(経営コンサルタント 森生 明)

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