5月22日、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のトップが交代し、トランプ大統領が指名したケビン・ウォーシュ氏(元FRB理事)が新議長に就任した。8年間続いたパウエル体制は幕を閉じ、米国の金融政策は大きな転換点を迎える。
今回の交代劇の背景には、FRBを「自分の言うことを聞かない巨大組織」とみなし、パウエル前議長を強く批判してきたトランプ氏の存在がある。これに呼応するように、ウォーシュ氏も「現在のFRBは権限を拡大し過ぎている」などと厳しく批判してきた。
トランプ氏の「FRBを思い通りに動かしたい」という思惑と、ウォーシュ氏の「肥大化したFRBの役割を元に戻したい」という方向性が一致したことが、今回の指名に繋がったといえる。トランプ氏は約40年ぶりにホワイトハウスで新議長の就任宣誓式を催し、「金融政策はウォーシュ氏に任せる」と述べるなど、異例の厚遇ぶりを見せている。
パウエル体制から何が変わり、何が変わらないのか。ウォーシュ氏は前任者との違いを示すために、大きく三つの政策・改革方針を打ち出してきた。
■「AIによる生産性向上」を利下げの理論的支柱に
第一の変化は、金融政策の理論的支柱だ。ウォーシュ氏がトランプ政権の「利下げ要求」に応えるためのロジックとして持ち出してきたのが、「AI(人工知能)による生産性向上」である。AI革命が企業の生産性を飛躍的に高め、供給力が需要を上回ることでインフレが抑制され、FRBは利下げが可能になるという主張だ。これはベッセント財務長官ら政権高官とも完全に歩調を合わせている。
しかし、この「AI利下げ論」という新たなアプローチに対しては、経済の現実から矛盾が指摘されている。
第一に、AI革命が進む過程では、データセンターや電力網への巨大な投資需要が先行するため、短期的にはモノやサービスの価格を押し上げるインフレ要因として作用する可能性が高い。
第二に、AIによって経済の成長力が高まれば、投資の期待収益率が上がり、資金需要も強まる。その結果、経済を熱しも冷ましもしない「中立金利」は構造的に上昇するとの見方がある。インフレを抑制するために、FRBは最終的に政策金利を高めに据え置かなければならないことを意味する。
ウォーシュ氏自身も、議会での承認に向けた公聴会では「AIとインフレについてはより調査が必要だ」と主張のトーンを弱めており、新体制のもとでAI利下げ論がどこまで実践されるかが注視される。
■量的緩和への強い拒否感と金融市場の壁
第二の変化は、市場に大量に資金を供給する「量的緩和(QE)」に対する強い拒否感である。パウエルFRBでは、コロナ禍の際に国債等を大量に購入しバランスシートを膨らませることで、大規模なQEが実施された(図表1)。ウォーシュ氏はこれが政府の拡張的な財政政策を助長してきたと批判し、FRBが業務領域を過度に広げるべきではないと警告してきた。
「マネーの膨張がインフレを作る」と説いたマネタリスト、ミルトン・フリードマンのもとで学んだ経験から、ウォーシュ氏は「FRBのバランスシートを圧縮してインフレを抑制しつつ、同時に利下げを進めて景気を支える」という独自のポリシーミックスを志向している可能性もある。
しかし、ここでも「変わらない現実の壁」が立ちはだかる。パウエル体制下ですでにQEが停止され、バランスシートの正常化がある程度進んだ結果、短期金融市場の資金余剰は限界に近づいているからだ。
こうした状況下で、金融規制を緩めるなどの改革を伴わずに急激なバランスシート圧縮を強行すれば、短期金利の急騰や企業の資金調達難を招き、株式市場からの急激な資金引き揚げにつながるリスクがある。現実には、バランスシートの圧縮を急ピッチで進めることは容易ではないだろう。
■金融市場とのコミュニケーション見直し
第三の変化は、市場とのコミュニケーション手法だ。ウォーシュ氏の改革の矛先は、FRBの政策決定プロセスにも向けられている。同氏は、パウエル体制下で定着した「ドットチャート(FOMC参加者が将来の政策金利見通しを示すこと)」(図表2)や、「フォワードガイダンス(将来の金融政策の指針をあらかじめ示すこと)」に対して極めて否定的である。
ウォーシュ氏は、こうしたツールが中央銀行の将来の行動を不必要に縛り、柔軟な政策運営を阻害していると考えている。新体制では、これらのツールが廃止、あるいは大幅に縮小される可能性がある。
しかし、これは市場にとって「FRBとの対話」の質が低下することを意味する。投資家は政策の先行きを見通しにくくなり、経済指標のブレに対して市場が過剰反応しやすく懸念がある。
また、これまでFRB批判を繰り返してきたことも相まって、こうした取り組みを進めるウォーシュ氏に対し、内部から反発が生じる可能性もある。FRB内部の意見対立が表面化し、ガイダンスも失われれば、金融政策の予見可能性は著しく低下することになる。
■試される「中銀の独立性」
このように、パウエル体制からの転換を目指すウォーシュ氏の政策方針は、現実の壁に直面せざるを得ない。足もとでは中東情勢の緊迫化による原油価格の高止まりもあり、インフレ再燃への警戒から金融市場では利上げ観測すら出ている。合議制で金融政策を決めるFRBである以上、状況次第では利上げに追い込まれる可能性も否定できない。
ここで最大の焦点となるのが、「トランプ大統領との関係」だ。仮に利上げとなれば、利下げを求めてきたトランプ氏からの猛烈な批判が再開し、現在の蜜月関係は一気に暗転するだろう。
一方で、政権の意向に沿って無理に「利下げ」に動いたとしても、インフレ懸念から住宅ローンや企業業績に直結する「長期金利」が上昇してしまえば、トランプ氏はやはりFRBに対して責任を押し付けてくるはずだ。
当初から困難な状況に直面するウォーシュ氏だが、彼にはウォール街との強固なコネクションと、2008年の世界金融危機の際にFRB理事として実務経験という強みがある。金融市場の動揺に対して柔軟に対応する方策を示すことで、トランプ氏からの圧力を和らげ、FRB内でのリーダーシップを確立していく可能性はある。
■「政治的な風見鶏」こそカギになる
また、ウォーシュ氏の最大の特徴として、政治的な立ち回りのうまさが挙げられる。過去には政権の顔色に合わせて主張を変える「政治的な風見鶏」と揶揄されたこともあるが、その柔軟性こそがカギになる。
トランプ政権下でFRB議長としてどのようなレガシーを残すかは、最終的に「FRBの独立性をどれだけ維持できるか」にかかっている。ベッセント財務長官ら政権中枢と巧みに連携し、変則的な形であれ中央銀行の独立性を死守できれば、それは彼にとって大きな功績となるだろう。
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髙橋 尚太郎(たかはし・しょうたろう)
伊藤忠総研上席主任研究員
2005年日本銀行入行、国際経済調査や金融市場調査等に従事。2017年有限責任監査法人トーマツ入社、マクロ経済分析サービスやリスク管理アドバイザリー等のプロジェクトに従事。2019年伊藤忠商事入社後、伊藤忠総研へ出向。
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(伊藤忠総研上席主任研究員 髙橋 尚太郎)

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