※本稿は、服部真和『京都人が教えるずるいけどうまい合意の技術』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■京都人の根回しは「場を整えること」
一般的に「根回し」という言葉には、少しネガティブな印象があります。「裏でこっそり話をつける」「便宜を図る」「裏工作をする」、そうした負のイメージを持つ人は少なくありません。
しかし、京都で粛々と行われる「場」を尊重した根回しは、不誠実なものではありません。ここでいう「戦略的根回し」は、「場を整えること」です。対立が最小で済むように、事前に場の空気を踏まえた信頼関係を重要視する技術です。
実は元々の「根回し」という言葉は造園用語で、樹を最適な場所に植え替える際に、あらかじめ周囲の土を掘り下げて新しい根を再生させ、より発育の良い樹とすることです。つまり、語源的にも「根回し」とは、事前に周囲の人々と良好な関係を築くことによって、より良い人間関係に育てることを意味します。
そこで「場」を整えるために、対話相手だけでなく、関係者や取り巻く空気を読み「どの順番で、誰に、どうアプローチすべきか」を設計する方法を解説します。
対面する相手との調和が「点」だとすれば、根回しはそれを複数の人々に「線」としてつなぎ、それらを「面」に広げて整える「場全体を調和させる技術」です。まずは根回しの出発点となる「場を読む」ことから始めましょう。
■“話し合い”には4種類の人がいる
対話では、相手の感情や価値観の対立の解消を目指しますが、複数の人々が関わる場面では、相手ひとりに気を配るだけでは不十分です。
場には「空気」と呼ばれる「暗黙の共通理解」があり、場に関わる人々はその「共通理解」を踏まえて、発言、沈黙、行動などをしています。それらが、それぞれの立場と複雑に絡み合って、全体の空気をつくり出しています。
たとえば、会議で明らかに反対意見がなさそうに見えても、ごく少数の影響力ある人間の「腑に落ちない様子」が場全体の流れを止めていることがあります。逆に、活発な意見が飛び交う会議でも、実は形式的な「きちんと議論を経た結論ですよ」の通過儀礼にすぎず、最初から合意に向かう会議だったなんてこともあります。場の空気は目に見える状況より、目に見えない背景に含まれやすいのです。
ただし、私の言う「場を読む」とは、「空気を読む」すなわち、空気に従うことではありません。どちらかというと「空気の関係構造を理解する」と表現するほうが近いです。
良好な対話を実現するためには、多くの場合、
・決定権者:決定権を持つ人
・参画者:積極的に動く人
・関与者:直接作用を与える人
・影響者:直接関わらなくても「場」の空気を左右する人
といった関係構造が存在します。
■“トップへの根回し”だけではNG
これら、誰がどのような作用を及ぼしているかを読み違えると、たとえ完璧な対話を実現しても、場全体の流れのなかで意図が曲げられたり、不具合が生じたりします。一方で、場の関係構造を踏まえたうえで調和を実現できれば、一対一の合意が「場」全体へと広がり、不変の調和を実現できます。
「場を読む」の次に必要なのは、その「場」を前もって整えておくことです。
特定の相手との対話とは異なり、複数の人々が関係する場では、公(おおやけ)の場でのやりとりより、事前にどれだけ個別の調整を行ったかが、結論を大きく左右します。
つまり戦略的根回しとは、結果を恣意的に操作するよりも、結果が「場」に馴染むように事前に整えておく行為です。
もっとも重要度の低い打ち合わせ程度であれば、事前に、次のような「短い確認」を済ませるだけでも、場の流れを変えることができます。
・決定権者にだけ、懸念を先に聞いておく
・強い影響力を持つ参画者にだけ、仮のすり合わせをしておく
・場の空気を左右しがちな影響者に、「重要な論点はここです」と共有しておく
たったこれだけでも、打ち合わせの場で「初めて聞いた」という不意打ちを避け、場が混乱せずに総意を得やすくなることは、経験ある人も多いはずです。
■「自分が関わっていない意見」には反発される
ですが、もっと大々的な「場」を前提とする場合は、根回しによって「流れをつくる」ことが重要になります。そこで、「決める前に探り、進める前に聞き、動く前にすり合わせる」という流れを意識することが重要になるのです。
これはネガティブな「裏工作」ではなく、公然と調和を整えるための「配慮」です。たとえば、事前に影響力のある人とすり合わせるだけで(事前にすり合わせなかった場合に)明確な反対を突きつけられるであろう「地雷」の位置を把握することもできます。
根回しをしない場合にありがちなのが、「本番で戦う必要など、実はなかった」というケースです。
根回しの本質は、「争い」や「対立」ではなく、関係者の立場を尊重し、前向きな一体感を生み出すことにあります。
「戦略的根回し」とは、相手を説得したりして味方につけるというよりは、相手を「共に創る」側に巻き込むイメージです。そのためには、
「あなたが必要だ」という印象
「あなたの視点を知りたい」という寄り添い
「あなたのおかげで場が良くなる」という意味合い
京都という土地には、こうした振る舞いが求められる場面が少なくありません。実現できれば、場の空気も驚くほど良くなります。このように「戦略的根回し」は、壊れた関係を修復する「事後調整」ではなく、「場」にとって、前向きな関係を創り出す「事前調整」の技術です。
■①最終判断を下す人 “腹落ちしたか”
根回しがうまくいかない場合の多くは、その対象者への対応を一律に行ってしまうことにあります。「場」に関わる人を冷静に洞察すると、大多数が集まる「公の場で見て取れる役割」とは別にもっと複雑で繊細な見えない「関係性(場の構造)」を見出すことができます。
この関係性を踏まえずに話を進めると、こちらがどれだけ丁寧に腹落ちや合意をつくったとしても、別の方向から横槍が入り、合意がひっくり返されたり、進みかけていた話が突然止まったりします。そうならないためには、根回しをしようとする対象者の「場の関係構造」を踏まえた特性を理解することが欠かせません。これは、次の4つに分けると良いでしょう。
〈①決定権者(最終判断を下す人)〉
「決定権者」といっても、表向きの役職とは限りません。
「決定権者」に対する根回しの基本は、「腹落ち(可能なら合意)」です(第2回参照)。組織などでは、「公の場」での決議が必要となりますので、「合意」までは必須とは言えませんが、少なくとも、ある程度の「腹落ち」は実現する必要があります。
決定権者の価値観、判断基準、恐れているリスク、重視している未来像など、これらを見誤った根回しは、どれほど丁寧な対応をしたとしても成果に結びつきません。なお、決定権者が表に立たず、あえて「場の空気を通じて意思を示す」ようなケースも珍しくありません。だからこそ「誰が真の決定者なのか」を丁寧に見定める必要があります。
■②積極的な人 “不満や懸念を解消したか”
〈②参画者(積極的に動く当事者)〉
参画者は、なんらかの会議や協議、話し合いの場などがあった際に、その話し合いや運営などに積極的に関与しようとする人たちです。
参画者は、決定権者の意思を汲みながらも、自分たちの不満や懸念が解消されないと、過度に足を引っ張るような行動をとったり、公の場をかき乱したりします。つまり、参画者に対して根回しができていなければ、案件は形だけ動いても、実質は前に進みません。
また、多くの場合、参画者は「場の課題観」や「場の人間関係の作用」などを深く理解しています。
そのため、参画者が感じる違和感や不満を摘み残していると、後々、大きな問題として噴き出す可能性があります。
したがって、根回しを行う際には、決定権者より先に参画者の話を丁寧に聞き、「現場に根差した腹落ち」を整えておく必要があります。
■③話し合いにいない当事者 “気持ちを考慮したか”
③関与者(直接作用を与える人)
関与者は、先ほどの参画者のように、話し合いには積極的に関わらないものの、その話し合いの前提に深く関わっている人をいいます。そのため、公の話し合いでは発言権を意識されることが意外とないのですが、じつは「決定権者」や「参画者」に強い作用を与えています。たとえば、
・会社の会議でパートタイムの待遇を話し合う場面→パートタイム労働者自身
・地域で学校の集団登校の廃止を話し合う場面→小学生自身や、小学生の子を持つ親
・施設ができる際に生じた反対運動→施設に隣接する住民や施設の想定利用者
・SNS上で議論される「奈良公園のシカ虐待問題」→奈良公園の管理者や外国人観光客
といった具合です。
不思議なもので「場」における話し合いがまったく収束しないときや、まったく話が進展しないとき、話し合いの当事者が関与者自身の気持ちをまったく考慮していないことが多々あります。
これは逆に言えば、関与者の「感情」や「価値観」をしっかり把握しておくことで、「場」を踏まえた調和を実現しやすくなります。つまり、関与者に関しては直接根回しするというよりは、関与者を前提とした「探りを入れる」ことの重要性を常に意識しておくことが重要です。
「誰も反対していないはずなのに、なぜか進まない」のような場面に出くわした場合、この「関与者の声」を汲めていないことが非常に多いといえます。だからこそ直接的にせよ、間接的にせよ、関与者の価値観や感情を早めに把握することが求められます。
■④年長者など、相談を受けている人 “価値観・感情を把握したか”
〈④影響者(「場」の空気を左右する人)〉
影響者は、意思決定に直接関わらなくても、場の空気に大きく影響する人です。②の参画者のように、話し合いには積極的に関わらないけど、「場」や「決定権者」の意思決定に強い影響を与えるような人はけっこう多くいます。
たとえば「役職者ではないが決定権者が必ず相談する人」や「組織などの象徴であったり、風土づくりの中心人物」「周囲から一目置かれている年長者」「関係者の心理的な拠り所となっている人」などです。
影響者の存在は必ず押さえておく必要がありますが、どちらかというと直接根回しをするよりも、影響者の「価値観」や「感情」を決定権者や参画者から引き出すことを目標にするとうまくいくでしょう。
とはいえ、直接、影響者にアプローチできるのであれば、もちろん影響者に直接「根回し」すると大きな効果が得られます。
影響者の抵抗は、公式な反対には見えませんが、「場」全体を一気にひっくり返しかねない力があります。
京都でビジネスを進める場合、こうした影響者の扱いが非常に重要だとされています。理由は本書でさまざま触れてきたとおりですが、京都では「場」を非常に重要視しますし、影響者は、その「場」の空気に強い作用を与えることがあるからです。
■「よく名前が挙がる人」を忘れないで
もちろん、京都に限らず影響者が「腹落ち」できない状況では、どれほど合理的あるいは有益な方向に進めようとしても、場の空気そのものがこれを不可とします。
以上を踏まえて、端的に根回しがうまくいかない例を挙げるなら、主に次の2つです。
・決定権者だけを押さえて満足し、参画者や関与者を軽視する
・参画者だけ整えて、決定権者と影響者の腹落ちを見誤る
いずれも、「場の構造」を見ずに一対一の延長だけで話を進めてしまった結果です。
実際の現場で「場の構造」を把握するためには、目に見える役職や発言内容などで判断するよりも「誰が発言した瞬間に空気が変わったか」「決定権者や参画者に強い作用を与える人物は誰か」「よく名前が挙がる人物は誰か」などを洞察すると浮かび上がります。
この構造が掴めるようになると、根回しの成否は劇的に安定し、「場の調和」へと広がります。
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服部 真和(はっとり・まさかず)
行政書士、服部行政法務事務所代表
1979年、京都市生まれ。中央大学法学部卒業。京都府行政書士会 相談役。起業難関のまち京都で1500件を超える新規事業創出を支援し、行政手続・法律と現場をつなぐ「橋渡し」の専門家。とりわけ、景観、まちづくり、民泊、看板規制など、住民・事業者・行政が対立しやすい「摩擦の多いテーマ」において、三者の意見をまとめあげる調整役として数々のプロジェクトを成功させてきた。「衝突の現場を整理し、納得をつくる技術」に定評があり、関わった民泊案件300件のうち合意形成率は100%。著書『教養としての「行政法」入門』(日本実業出版社)など。
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(行政書士、服部行政法務事務所代表 服部 真和)

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