■若者たちの「トランプ離れ」
トランプ氏は2024年大統領選で過去の共和党候補を凌ぐ若年層(30歳未満)の支持を得て勝利した。若い有権者の票がトランプ大統領の復権の原動力となったのである。ところが現在、その同じグループから急激に失望の声が上がり、支持を撤回する動きが広がっている。
2026年2月6日から9日にかけて実施されたエコノミスト/YouGovの世論調査では、トランプ大統領のZ世代(1997年から2012年の間に生まれた)の支持率は1年前の50%から25%と半減し、反対に不支持率は42%から67%と急増した。
若い有権者の間でいったい何が起きているのか? 詐欺師さながらに虚偽の主張を並べ立てるトランプ氏に見切りをつけ始めたということなのか。
■期待が失望へ変わった
2024年の大統領選挙戦中、トランプ氏は「世界史上最高の経済を築く」という大言壮語的な公約を掲げたが、バイデン政権の経済運営に幻滅していた若者たちはこれを好意的に受け止めた。
そして彼らは物価を引き下げ、インフレを抑制し、数百万人もの新規雇用を創出し、多くの米国人を苦しめているその他の経済的苦境を打開するというトランプ氏の言葉を信じて投票したのである。
ところが就任から1年以上が経過しても、トランプ氏の公約は未だほとんど実現に至っていないばかりか、大統領はイラン戦争への対応に全力を挙げている。その結果、インフレは続き、住宅価格は上昇し、大学の学費も高騰し、雇用情勢は伸び悩み、無保険者層も拡大するという複合的な生活難に陥っている。
保守派のニュース分析サイト「ブルワーク」の発行人で、ポッドキャスト「フォーカス・グループ」のMCを務めるサラ・ロングウェル氏は自身の番組で、トランプ氏の経済公約を信じて投票したが、現在は失望しているという若者の声を多く聞くという。
■「大統領は若者の生活をより良くしているのか?」
ロングウェル氏は月刊誌『アトランティック』に「若いトランプ支持者の失望」と題する記事を掲載し、その中でこう記述した。
「若者の多くは学生ローンを抱えており、人生の中でも特に物価に敏感な時期にある。トランプ氏のような政治家が物価を下げる約束をしておきながら、それを実行に移さなければ、彼らはすぐに気づくのだ」と。
ザ・ヒルの報道によると、Z世代に焦点を当てたメディア調査会社「アップ・アンド・アップ」の創業者で、若者の政治意識や投票動向などに詳しいレイチェル・ジャンファザ氏はこう指摘する。
「結局のところ、“大統領はこの国の若者の生活をより良くしたのか、そうでないのか?”という問いに行き着く。多くの若者は“そうではない”と感じているのです」
つまるところ、若いトランプ支持者にとっては自身の生活に直結するインフレ対策や雇用確保などが最優先の関心事とみられる。しかし、同時に彼らのトランプ離れの背景には、経済の他にも医療、移民、外交政策など様々な要因が絡み合い、関連していることも否定できない。
■医療費削減や強硬な移民政策にも否定的
トランプ政権の「一つの大きく美しい法案」(OBBB)と呼ばれた大型減税・歳出削減策によって、メディケイド(低所得者向け医療扶助制度)などを含む連邦政府の医療費支出は今後10年間で計1兆ドル(約160兆円)超圧縮される見通しとなっている。
その結果、新たに約1000万人が無保険状態になり、加入者の自己負担額も倍増すると予測されている。これは当然、若者の生活にも厳しい影響を与えることが予想され、若年層の医療費負担への不安が拡大している。
2026年2月、超党派シンクタンクの「サード・ウェイ」が行った調査では、若年層の男性の66%が医療費支出の削減に不安を感じていることがわかった。
しかも若年層が抱える主な懸念事項の中で、医療費削減は他の移民政策(60%)やエプスタイン事件の対応(63%)の問題を押しのけてトップになったという。
若年層はまた、トランプ政権の強権的な移民摘発や強制送還などに対しても否定的な見解を示している。
不法移民の大量強制送還を最優先課題に掲げたトランプ政権は大規模な移民摘発を行っているが、その中でも特に悪名高い移民関税捜査局(ICE)による令状なしの家宅捜索や弁護士の接見禁止、外国人に見える人、あるいは外国人らしい話をする人を標的にした移民取り締まりの拡大などが問題視されている。
若者の大半はこのような移民摘発は「やり過ぎだ」と考えており、サード・ウェイの調査でも、60%が反対している。
■イランへの軍事介入もトランプ離れの一因に
共和党員の大多数はイランへの軍事介入を支持しているが、若い共和党員は例外的な存在のようだ。
ピュー・リサーチ・センターが3月に行った世論調査によれば、30歳未満の共和党員のうち、トランプ大統領のイラン戦争への対応を支持していると答えたのは49%で、65歳以上の84%、50歳から64歳の79%を大きく下回った。
PBSニュースアワーのリズ・サンダース記者は4月3日、ジョージ・ワシントン大学のキャンパスで開催された保守派イベントを取材し、若者にイラン戦争について質問したところ、否定的な意見が多かったという。(PBSニュースアワー、2026年4月3日)
同大学の男子学生は、「まずは米国内にもっと注力すべきだ。国内には国外での紛争に踏み切る前に解決できる問題がたくさんあると思う。正直言って、これは米国よりもイスラエルの問題だったと思う」と答えた。
また、海兵隊への入隊を希望しているという高校生は、「この戦争は米国の国益に資するとは到底思えません。経済的利益、政治的利益、社会的利益のいずれにも資するとは思えません」と語った。
それからサンダース記者は、イベントには参加していなかったが、戦争に反対しているという女子大生にも話を聞いた。彼女は、「私はベル奨学金を受給し、それで生活していますが、その奨学金が削減されつつあります。
加えてサンダース記者の質問に答えた若者の多くは、トランプ氏が「米国内の問題を推進し、外国への戦争介入をこれ以上行わない」という公約を破った点にも言及し、強い憤りと不満を示したという。
■トランプ支持を離れた若年票はどこへ向かうのか
若年層は特定の支持政党を持たない無党派が主流で、投票行動は流動的であることが知られている。実際、彼らは2024年の大統領選でトランプ氏の勝利に大きく貢献したが、その前の2020年にはバイデン大統領の勝利の原動力となった。
そこで気になるのは、約半年後に迫った中間選挙において彼らの票は民主党に流れるのかということである。
自身のポッドキャストで若い有権者と対話を重ねているサラ・ロングウェル氏(前出)は、月刊誌・アトランティックで「それは民主党次第です」として、次のように説明した。
「ポッドキャストで聞いた話を基にすると、民主党は若年層の票を大きく伸ばすチャンスを掴んでいる。なぜなら、若年層は最近、トランプ支持に加わった層だからです。民主党はこれらの有権者の懸念事項に寄り添う政策を打ち出すと同時に、トランプ大統領がそうした対応を怠っていることを厳しく批判する必要があります」
ロングウェル氏はトランプ支持者だったという男性に、民主党が改善すべき点を聞いたところ、「経済問題にもっと重点を置くべきだと思います。若い世代は家賃の支払いや家計のやりくりに不安を感じています」と答えたという。
その上でロングウェル氏は、「こうした若者たちは自分たちが経験している経済的苦痛を理解し、実際に行動してくれる人を求めている。政策文書などではなく、彼らが求めているのは希望、ポジティブな雰囲気、赤いプラスチックカップ(パーティで定番として使われる)のような活気です」と締めくくった。
■挽回に腐心する民主党
一方、民主党は元トランプ支持者の助言を取り入れたかのように、物価高対策や医療・住宅の負担軽減など国民生活の最重要課題に焦点を当てた政策を打ち出し、周知活動を開始した。
加えて、2024年大統領選で共和党のトランプ大統領に傾いた男性有権者との関係を構築する重要性を認識し、そのための取り組みも始めた。たとえば、民主党全国委員会(DNC)の政策部門スタッフが若い男性が時間を過ごす場所に出向き、彼らが関心を持つ問題について話し合ったり、彼らが信頼を寄せる相手と対話・交流したりしている。
さらにポッドキャストの可能性にも着目し、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事やバーニー・サンダース上院議員など、民主党の重鎮が若者向けの人気ポッドキャストに出演し、台本なしの対話で自由に本音を語ったり、時には右派寄りのホストとも熱い議論を交わしたりしている。
民主党の戦略家ジョー・ジェイコブソン氏は、ロイター通信の取材に「若い男性は一緒にビールを飲めるような、親しみやすい相手を求めている。民主党には良い政策があるが、それを伝える人物が魅力や熱意に欠けていたら、相手の心には響かない」と語った。
■若年層男性の民主党回帰を示すデータも
こうした民主党の取り組みは着実に成果をあげているようだ。超党派シンクタンクの「サード・ウェイ」が2026年2月に発表した世論調査では、中間選挙の投票意欲が高い若年層男性において、民主党が共和党に61%対31%の大差をつけて支持を集めていることがわかった。
また、イェール大学の翌3月の若者向け世論調査では、18歳から34歳の有権者の3分の2以上がトランプ大統領に背を向け、中間選挙で民主党に投票する意向を示していることが判明した。
トランプ支持を離れた若年層は次の選挙で民主党の多数派奪還の鍵となる新たな「潮流」をもたらすかもしれない。
全ての年齢層を対象にした世論調査でも、トランプ大統領の支持率は急落している。ニューヨーク・タイムズが4月23日に発表した世論調査の集計によると、トランプ大統領に対する不支持率は2期目に入って最高水準に達し、米国民の58%が大統領の職務遂行を支持しておらず、支持しているのはわずか39%にとどまっている。
トランプ大統領の支持率低下はイラン戦争によってガソリン価格が急騰し、経済への懸念を抱く米国民が増えている時期と重なり、さらに若者のトランプ離れが急速に進んだ時期とも重なっている。
■更なる混沌か、好き勝手に歯止めか
こうした状況では、中間選挙でトランプ氏率いる共和党が敗北して、議会下院の多数派を明け渡す可能性が高くなる。
米政治専門紙のザ・ヒルで、メンロー大学政治学部のメリッサ・ミケルソン教授は、「大統領の支持率は中間選挙における投票動向を決定づける最大の要因の一つです。11月までに世論が大きく逆転しない限り、共和党が過半数を維持できる可能性は低いでしょう」と分析する。
もし共和党が中間選挙で敗北し、下院の多数派を失ったら、民主党はトランプ大統領に対する弾劾訴追の動きを強める可能性がある。トランプ大統領は強硬な移民摘発・拘束、および治安維持目的の主要都市への州兵派遣、議会承認なしのベネズエラやイランへの武力行使など違法性が疑われる行為を重ねており、これらは弾劾の根拠となり得るだろう。
ただ、下院で弾劾訴追案が可決されても、大統領を失職させるには上院で3分の2以上の賛成が必要となるため、実現の可能性は低い。しかし、下院で民主党が多数派を握れば、議会調査権を駆使してトランプ大統領の「違法行為」の責任追及を強化できるので、好き勝手な政権運営に歯止めをかけることが可能となる。
若い有権者の支持を失ったトランプ大統領の任期後半の2年間は、厳しい政権運営を強いられることが予想される。
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矢部 武(やべ・たけし)
国際ジャーナリスト
1954年生まれ。埼玉県出身。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。
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(国際ジャーナリスト 矢部 武)

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