いつまでも若々しくいるにはどうすればいいか。東北大学名誉教授の上月正博さんは「心臓を適度に鍛えることで若さが保たれる。
長い時間、体を動かさない状態が続くと心臓が『省エネモード』になり、老化が進む原因になる」という――。
※本稿は、上月正博『100歳まで元気な心臓の育て方100』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■「座りっぱなし」は心臓にリスク
現代人の生活で最も警戒すべき心臓の敵は、「座りっぱなし」という習慣です。1953年に発表されたロンドンバスの有名な研究では、座りっぱなしの運転手は、車内を歩き回る車掌に比べて心臓病の発症率や死亡率が明らかに高く、特に高齢になるほどその差が顕著になることが示されました。
座っている時間が長くなると、全身の筋肉の7割が集中する下半身の活動が止まり、血流が滞ります。すると代謝が落ちて血糖値や中性脂肪が上昇し、血管に深刻なダメージを与えてしまうのです。
運動の時間を特別につくれなくても、1時間に1回は立ち上がって動くなど、まずは「座り続ける時間」を短くすることから始めましょう。
動かない時間が長くなると、心臓は必要最小限の血液だけを送る「省エネモード」に入ります。一見、心臓を休ませているようで、実はこれが衰えの入り口になるのです。
長く安静が続くと、体は酸素をそれほど必要としなくなるため、心臓は一度に送り出す血液量(拍出量)を減らしてしまいます。すると、いざ動こうとしたときに十分な血液を送り出す力がすぐには発揮できません。足りない分を補うために心拍数を無理に上げるしかなくなり、少しの動作でも動悸や息切れ、疲れを感じやすくなるのです。

血管と心臓の若さを保つには、日常的に適度な「負荷」をかけ、拍出量を維持することが不可欠なのです。
■1日何もしないと「2歳分」老ける
風邪をひいたり、ひどく体調を崩したりして、一日中布団から出ずに過ごしたことは誰しもあるでしょう。そのあと数日ぶりに出かけると、足元がふらついたり、ちょっとしたことで息が切れたりすることに驚いた経験はありませんか。
実は、この「動かないこと」による影響は、私たちが想像する以上に深刻です。医学的には、たった1日、何もせずに安静に過ごすだけで、体の機能は「2歳分」も老化するといわれています。
中年期以降は、平均で1年に1%ずつ、筋肉が自然に減っていきます。一方で1日じっと安静にしていると、およそ2%の筋肉が落ちるといわれているため、1日の安静は2歳の老化と同レベルだといえるのです。
■フレイルは高齢者だけの問題ではない
人間の体は、使わない部分から衰えていきます。中でも筋肉は特に影響を受けやすく、運動量が減ると筋肉量と筋力が急速に低下する「サルコペニア」という状態につながっていきます。
さらに悪化すると、転倒や要介護のリスクが高まる「フレイル(虚弱)」という衰弱状態へと移行してしまうのです。
これは、高齢の方だけに起こる問題ではありません。実際、海外の研究では、健康な若年男性が3週間ほぼ安静に過ごしただけで、40年分に相当する持久力の低下が見られたという報告があります。

■「適度な運動」は高血圧を撃退する
心臓を老化させる二大要因は、「高血圧」と「高血糖」です。これらをコントロールするためには、食事の工夫ももちろん大切ですが、それと同じく、あるいはそれ以上に強力な改善策となるのが「適度な運動」です。運動には、薬に頼りすぎる前に自らの体の機能を高め、血管を内側からメンテナンスできる素晴らしい効果が備わっています。
まず血圧への効果について見てみましょう。運動をすると全身の血流が良くなりますが、実はこのとき、血管の内側では「一酸化窒素(NO)」という物質が放出されています。この物質には血管を広げ、しなやかにする働きがあります。日常的に運動を続けることで血管が広がりやすくなり、結果として血圧が自然に下がっていくのです。
また、運動は交感神経の緊張をほぐし、自律神経のバランスを整えるため、ストレス性の高血圧を抑える効果も期待できます。
■毎日毎日たくさん歩かなくてもいい
次に血糖値への影響です。食事で取り込まれた糖分(エネルギー)は、本来、筋肉で消費されるものです。運動を習慣にすると、インスリンの効きが良くなり、血液中の糖分がスムーズに筋肉に取り込まれるようになります。これを「インスリン感受性の向上」と呼びます。

運動は、血管内の余分な糖を効率よく燃焼させ、血管壁が糖によって傷つく「糖化」を防ぐための最も有効な手段の1つなのです。
「運動は苦手だから」と敬遠する必要はありません。1回20分ほどのウォーキングを週に数回行うだけでも、血管の若返り効果は確実に表れます。運動によって血圧が安定し、血糖値が下がれば、心臓は余計な力を使わずに血液を送り出せるようになります。
運動は、あなたの心臓に「ゆとり」を取り戻すための最高のプレゼントです。10年後、20年後のしなやかな血管と力強い心臓を育むために、今日から1歩を踏み出しましょう。
■「運動してはいけない人」の条件
心臓を若々しく保つために運動が不可欠であることは間違いありませんが、心臓に何らかの不安を抱えている方や、すでに治療中の方は一度立ち止まってください。適切な負荷は薬になりますが、不適切な負荷は毒になってしまうのです。
運動を安全に、そして効果的に行うためには、まず「今の自分が運動をしていい状態か」を正しく見極める必要があります。
まず、絶対に運動を控えて治療に専念しなければならないケースがあります。未治療の心疾患がある、あるいは治療を始めたばかりで病状が不安定な時期。また、重篤な不整脈がある場合や、心不全が悪化している最中も、運動による負荷は極めて危険です。

さらに、血圧が極端に高い(収縮期血圧180mmHg以上、または拡張期血圧100mmHg以上)、あるいは空腹時血糖値が250mg/dL以上あるといった場合も、まずは数値の安定を優先させなければなりません。
■毎朝の習慣で心臓の異変を早期発見
これらの条件に当てはまらない場合でも、心臓の持病をお持ちの方は、自己判断で運動を始めるのは避けましょう。大前提として「主治医の了解を得ること」が不可欠です。
できれば医療機関で「運動負荷試験」を受け、自分の心臓がどの程度の運動に耐えられるのか、どのくらいの心拍数までなら安全なのかという「自分に適した負荷」を把握しておきましょう。
また、運動を始めてからも「毎日のセルフチェック」を習慣にしましょう。毎朝の体重と血圧の測定は、心臓のコンディションを映し出す鏡です。
たとえば、血圧が前日より大幅に高い、あるいは逆に低すぎる(20mmHg以上の差がある)場合や、1週間で1.5~2.0kg以上も急激に体重が増えた場合は、心不全によるむくみなどのサインかもしれません。このような異常を感じたときは、決して無理をせず、運動を控えて主治医に相談しましょう。

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上月 正博(こうづき・まさひろ)

医学博士

医学博士。日本心臓リハビリテーション学会名誉会員、日本腎臓学会功労会員、総合内科専門医、腎臓専門医、高血圧専門医、リハビリテーション科専門医。1981年、東北大学医学部卒業。東北大学大学院内部障害学分野教授、東北大学病院リハビリ部長、東北大学大学院障害科学専攻長、同先進統合腎臓科学教授を歴任。
2022年より現職。心臓や腎臓などの内部障害のリハビリを専門とする。2011~2021年日本腎臓リハビリテーション学会理事長。2020年より国際腎臓リハビリテーション学会理事長。2008~2022年日本心臓リハビリテーション学会理事(2013年学術集会長)。2018年には腎臓リハビリテーションの功績が認められ、心臓や腎臓の分野に貢献した科学者に贈られる世界的に名誉ある賞「ハンス・セリエメダル」、2022年には「日本腎臓財団功労賞」を受賞。著書に『医師がすすめる 自力でできる 弱った心臓を元気にする方法 心臓リハビリメソッド』(アスコム)など。

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(医学博士 上月 正博)
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