衆議院の森英介議長と石井啓一副議長が19日、皇族数確保策を巡り国会内で会談。今国会中に皇室典範改正を目指す「立法府の総意」案を取りまとめ、各党派へ示す見通しだ。
皇室史に詳しい島田裕巳さんは「今、進められている皇室典範の改正は、身分差別や女性差別を認めるものに他ならない」という――。
■“男子男系”へ危機感を示した読売新聞
国会では、皇族数を確保するための皇室典範改正の動きが本格化している。
近々にも、各党の見解を踏まえた上で、衆議院と参議院の正副議長が取りまとめ案を示すことになっている。それが各党で了承されれば、政府は改正案を国会に提出し、今国会中にその成立をめざすことになる。
しかし、本当に皇室典範の改正がなされるのだろうか。国会での議論が進めば進むほど、現在の方向性への疑問も投げかけられている。
その代表ともいえるのが、5月17日付の読売新聞の「社説」である。社説は新聞社全体の方針を示したものであり、読売新聞では以前から、女性天皇や女系天皇を認める方向での皇室典範改正を主張してきた。
今回の社説も、その線に沿ったものである。そこでは、「男系男子以外に皇位継承資格を認めないという前提にこだわり続けていたら、天皇制の存続そのものを危うくしかねない」と、危機感が表明されている。
「女性・女系天皇」を容認する方針は、小泉純一郎政権のもとでの有識者会議の報告書に示された。社説は、「現在、養子案を支持する政党が、この報告書を一切考慮せずに結論を急ぐのは、女性・女系の可能性を排除するのが狙いだろう」と述べている。
これは、本質を突く指摘である。
■皇族数確保策の裏にあるホンネ
すでに述べたように、旧宮家の養子案が浮上したのは、その有識者会議での報告書に保守派が危機感を抱いたからである。
その後の保守派の動きは、女系天皇が生まれる可能性を封じるために、女性天皇まで認めない方向で動いてきた。現在の国会での議論が、その延長線上にあることは明らかである。
表向き国会での議論の目的は、皇族数を確保し、皇位継承の安定化を図ることにあるとされている。
ところが、国民のあいだでは、「愛子天皇」待望論が日増しに高まり、女性天皇、さらには女系天皇の誕生が期待されるようになってきている。そこに国会での議論との大きなズレがあるわけだが、とくに保守派は、なんとしても「愛子天皇」待望論の根を断ちたいと考えている。読売新聞の社説は鋭く、そのことを暴露しているのである。
■身分差別も女性差別も含む「養子案」
今、国会で議論されているのは旧宮家の養子案と、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を失わないよう女性宮家を創設するという案である。
ところが、どちらの案も、日本国憲法の第14条で規定されていることに違反する可能性を持っている。第14条では、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とされ、いっさいの差別の撤廃(てっぱい)がうたわれている。
注目されるのは、この第14条第2項で、「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」とされている。
明治に時代が変わってから、公家や大名が華族となり特権階級を構成した。日本国憲法は、それを否定しており、憲法が施行されることによって、華族の制度は廃止された。
旧宮家は、元華族ではなく元皇族ということになるが、養子案において、そうした家に属する人間にだけ皇族になれる特権を与えることは、明らかな身分差別である。貴族の制度が部分的に復活するようなものである。
しかも、旧宮家から養子になるのは男子に限られ、女子のことはまったく想定されていない。その点で、養子案は、身分上の差別を容認するだけではなく、明らかに女性差別の性格を持っている。
■女性宮家創設案の女性差別的側面
女性宮家の創設という案も、実は、女性差別の性格を持っている。
というのも、自民党や維新の会、あるいは参政党といった保守的な政党は、仮に女性宮家が誕生した場合、女性皇族の配偶者や子どもに皇族の身分を与えることに強く反対しているからである。
一方、党内の見解がなかなかまとまらなかった中道改革連合では、養子案を容認するところまでは他の政党と歩調を合わせるようになったものの、この女性皇族の配偶者や子どもの扱いについては自民党と異なる主張を展開している。
中道は、皇族の身分を与えるかどうかは、「当事者のご意向など個別の事情等を勘案しながら、適時適切に対応する」という形で、皇室典範の付則における検討条項に定めるよう求めている。これに自民党などは猛反発している。
男性皇族が結婚した場合、その配偶者や子どもには皇族の身分が与えられる。
実際そのような形がとられてきており、将来、秋篠宮家の悠仁親王が結婚したとき、その妻は皇族となり、その間にできた子どもも皇族となる。
ところが、女性宮家で配偶者や子どもが皇族とならないというのは、女性差別以外の何ものでもない。
■なんとしても女系天皇を阻止したい保守派
女性宮家の創設が皇族数の確保を目的としたものであるとするなら、配偶者や子どもが皇族にならなければ、皇族の数は増えない。現状が維持されるだけである。
つまり、女性宮家の創設という案は、たんに皇族の数を少しでも減らさないという窮余(きゅうよ)の策に過ぎないのだ。
女性皇族の配偶者や子どもを皇族にしないのは、それが女系天皇の誕生に道を開くものであるからだ。保守派はそれを、強く警戒する。
しかも、自民党などは、旧宮家の男子が養子に入った場合、当人には皇位継承の権利を与えないものの、その子には与えることを主張している。
これも女性宮家では認められないわけだから、この点でも女性差別であることは明白である。
つまり、今国会で進められている皇室典範改正の動きは、身分差別や女性差別を徹底して容認し、それを助長するものなのである。
果たして、そんな形での皇室典範の改正は、今の社会で実現するのであろうか。
■歴史上前例なきものが生まれる危惧
旧宮家から養子をとることが可能になり、養子になれるのは、戦後すぐの段階で皇室を離れた旧宮家の男子に限るという形で皇室典範が改正されたとしたら、それ以降、旧宮家の男子にだけ特権が与えられ、そこに“一般の国民と区別された身分”が生まれる。

女性宮家が創設されたとして、配偶者と子どもが皇族にならないのであれば、一つの家のなかに皇族と一般の国民が同居することになる。そんな家庭は、今までの歴史にまったく存在しなかった。皇族には、国によってその経済を支えられるなどの特権が与えられているものの、選挙権は与えられておらず、訴訟することもできない。
では、皇族と一般国民が同居する家庭において、その経済はいかなるものになるのだろうか。皇族である妻に対して国から支給される金を、皇族ではない夫や子どもが使ったらどうなるのか。
あるいは、夫や子どもには選挙権も被選挙権も与えられるわけで、政治活動を行い、選挙に出馬することも可能である。それを皇族である妻が少しでも手助けしたらどうなるのか。そこには、とんでもなく面倒な家庭が生まれる。
そうである以上、一般国民と結婚した女性皇族は女性宮家の創設に二の足を踏むであろう。男性の側も、そんな家庭を作ろうとは考えないはずだ。
ということは、女性宮家の創設は机上の空論であり、むしろ、それを阻止するための案であるということになる。わざと面倒な形が生まれるように仕組まれ、実現を妨げているのである。

■皇室典範改正が見送られた先例
差別に満ち満ちた形での皇室典範の改正には、当然、次々と反対意見が出てくることであろう。実際、そうした社説を掲げている新聞は、読売新聞だけではない。
そうなると、改正を断念する方向にむかい、「特例法」でという話になるかもしれない。特例法とは、特定の目的のために法律に例外を設けるものである。
これには先例がある。
それは、現在の上皇が生前退位の意思を表明した際においてである。皇室典範では、天皇の生前での退位についてはそれをまったく認めておらず、終身を原則としている。
そうである以上、上皇が退位するためには、本来なら皇室典範の改正が必要だった。しかし、生前退位が制度として認められるようになると、将来、外部からの圧力で強制的に退位させられる事態が生まれるとか、天皇と上皇の二重権威になるといった不安から、改正は見送られ、一回限りの特例法で退位が認められた。
それを踏まえれば、旧宮家の養子案の場合に、特例法でそれを許容し、時期を定めて一回限りの例外とする方向も考えられる。
■世論と逆行する皇室典範改正議論
ただ、女性宮家の創設については、そうした事案が生じたとき、そのたびごとに特例法でそれを許さなければならず、ひどく面倒なことになる。その点では、皇室典範の改正は避けられない。

こうしたことから鑑みると、本当に今国会で皇室典範の改正が実現するのかどうか、その情勢はかなり不確かである。
それも、今の議論が、世論とは逆行する形で、ひたすら「女性天皇・女系天皇」をいかに排除するかを目的として進められているからである。
もちろん、身分差別、女性差別につながることを明言するわけにはいかない。そこで、保守派やその傾向が強い政党は、「伝統」を挙げる。男系男子での継承こそが伝統であり、それを揺るがせにはできないというわけだ。
しかし、いったいその伝統はいつから生まれたものなのだろうか。
明確になったのは、「万世一系」という言葉が生まれた明治以降である。しかも、その根拠は、神武(じんむ)天皇が実在したという神話にしか求められない。保守派は、そうした伝統が何を根拠に、どのようにして形成されてきたかを説明すべきである。
女性差別や身分差別の方向にむかわないよう皇室典範を改正するとなれば、やはり、読売新聞も主張するように、小泉政権下での有識者会議の報告書の提言に立ち戻り、第1子による皇位継承の原則を打ち立てることである。
それは日本が、女性が差別されない社会にむかうことを高らかに宣言することになるはずである。

----------

島田 裕巳(しまだ・ひろみ)

宗教学者、作家

放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。

----------

(宗教学者、作家 島田 裕巳)
編集部おすすめ