箱根駅伝コース沿道の神奈川・藤沢市に位置する湘南工大の巽(たつみ)勇樹(4年)が、同大学初の箱根ランナーを目指している。4月の関東学生対校男子2部ハーフマラソンで13位と健闘。

関東学生連合チームに選出される可能性を持つ選手に成長した。父の博和さん(57)は埼玉栄高時代に1500メートルと5000メートルで日本高校記録(当時)をマークし、順大1年時に昭和最後の箱根駅伝で優勝のゴールテープを切った名ランナー。「尊敬する父が走った箱根駅伝を僕も走りたい」と巽は意気込んでいる。(取材・構成=竹内 達朗)

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 往復217・1キロの箱根駅伝コースから最も近くに位置する大学が湘南工大だ。3区の10キロ地点、8区の11・4キロ地点から約100メートルしか離れていない。巽は箱根路に立ち、晴れ舞台への思いを強くしている。

 「やっぱり、地元の3区を走りたいです」

 箱根予選会で1年時は個人438位、2年時は欠場と奮わなかったが、3年時は個人185位と奮闘。ラストチャンスの4年目にかける思いは熱い。

 「チームとして予選会突破が最大の目標です。ただ、それが達成できなかった場合、関東学生連合で箱根を目指します」

 予選会敗退校で編成される関東学生連合の登録メンバー16人に入ることは簡単ではないが、巽は、その可能性を持つ選手に成長した。4月5日の関東学生男子2部ハーフマラソンで13位と好走。箱根優勝の青学大、同2位の国学院大など強豪校の一部の選手に先着した。

 「目標は20位でした。思った以上に走れて自信になりました」

 4月26日に行われた日体大長距離競技会5000メートルで14分27秒05で走破し、15分4秒58だった自己ベスト記録を40秒近く更新した。

 「自己ベストは2年も前の記録だった更新は当たり前でした。まだまだです」

 2年時まで故障が多く、苦しんでいたが、3年時から急成長を遂げた。

 「右足甲の疲労骨折などいろんな箇所を故障していました。今はカルシウムが多く含まれたヨーグルトなどを積極的に取るようにしています。故障をせずに継続して練習を積んでいることで力がついてきました」

 父・博和さんは「昭和最後の箱根駅伝」でヒーローとなった。中学時代から世代トップランナーとして活躍。埼玉栄高3年時の1987年に1500メートルで3分46秒02、5000メートルで14分0秒14と2種目で日本高校記録をマークした。いずれも約40年前では突出した大記録だ。5000メートルでは従来の日本高校記録を約13秒も更新。1500メートルは現在も埼玉県高校記録として残る。

全国高校駅伝ではエース区間の1区(10キロ)で区間賞、埼玉栄の初優勝に貢献。順大1年時の89年箱根駅伝で順大の10区を走り、区間2位と好走。4連覇のゴールテープを切った。

 「物心がついた頃から正月は沿道で箱根駅伝を見ていました。父の影響で自然と陸上を始めました。中学生まではよく分かりませんでしたが、今は父のすごさがよく分かります」

 埼玉県出身で巽という特徴的な名字のため、博和さんが父親であると推察されることが多いという。

 「『巽博和の息子』と言われることはプレッシャーではありません。父を尊敬しているので、巽博和の息子であることを誇りに思い、プラスに考えています。父は現役時代の良かった時の話はほとんどしません。苦しかった時のことを多く語り、その経験をアドバイスしてくれます」

 実際、博和さんは順大1年時に箱根駅伝優勝アンカーとなった後、苦しんだ。2年時の箱根駅伝で1区を任されたが、14位と出遅れ、順大が5連覇を逃す一因となった。3年目以降、箱根駅伝を走ることなく、順大を中退した。

 「父に多くのアドバイスをもらっています。レースで失敗してしまった後、その原因を突き止めた上で気持ちを切り替えることが大事、ということを特に教わりました」

 1、2年時に伸び悩みながらも学生ラストシーズンに箱根駅伝出場を狙える選手にまで成長した理由の一つに父の存在があった。

 「父はいつも応援してくれています。父が走った箱根駅伝を僕も走りたい」

 かつて、近くて遠かった箱根路へ。巽は、確実に近づいている。

 ◆巽 勇樹(たつみ・ゆうき)2004年6月5日、埼玉・岩槻市(現さいたま市)生まれ。21歳。城南中3年時に3000メートルで県大会15位。栄北高では故障に苦しみ、3年時は5000メートルで県南地区予選欠場。23年に湘南工大工学部に入学。自己ベスト記録は5000メートル14分27秒05、1万メートル30分8秒17、ハーフマラソン1時間3分50秒。172センチ、55キロ。

 ◆主な箱根駅伝親子出場 1954年の法大8区・伊藤文雄、84年の早大7区・雅弘の親子はそろって区間賞。2016年、山梨学院大の上田誠仁監督の次男・健太が3区に出場し、大会史上初めて監督と選手の親子鷹に。上田監督は順大時代、5区に3回出場し、2回優勝。法大時代に3回出場した黒田将由の長男・朝日は青学大のエースとして大活躍。今年の102回大会では5区で驚異的な区間新記録をマークした。次男・然も青学大3年で箱根出場を目指している。

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