※本稿は、河田皓史『働く人が減っていく国でこれから起きること』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■「独身でいる理由」の第1位とは
「結婚願望はあるが結婚には至らない」理由は何だろうか。少子化の主な原因は非婚化であるとの認識が広く共有された今日では、「結婚しない理由」に関する調査結果も様々存在する。
その中でも歴史の長い国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」の直近調査(2021年)によると、25~34歳の男女が「独身でいる理由」として多いのは、①適当な相手にまだめぐり会わないから(男女とも40%以上)、②独身の自由さや気楽さを失いたくないから(男性30%弱、女性30%強)、③結婚する必要性をまだ感じないから(男女とも30%弱)である。もっとも、これら3つの回答は、いずれも過去に比べれば減少傾向にある(図表1、図表2)。
つまり、例えば「適当な相手にまだめぐり会わないから」という回答に即して言えば、「いい人とめぐり会いにくくなっている」というより、「『いい人とめぐり会えない』という『状況』が、『結婚しない』という『結果』に結びつきやすくなっている」というのが実情に近いものと考えられる。なお、過去と比べてはっきり増加している回答は、「異性とうまくつき合えないから」である。これも非婚化について考える上では興味深い事実だが、この点に関する議論は後に回したい。
結局、結婚しない(できない)理由として最もメジャーなのは、今も昔も「いい人がいない」ということである。結婚願望自体はまだ高いという事実と併せて考えれば、「いい人がいれば結婚したい」というのが多くの人の感覚なのだろう。
■恋愛の必要条件「いい人がいれば」
ただし、前述の通り「いい人にめぐり会う」可能性自体が低下しているというわけではなく、「いい人がいない」という状況が「結婚しない」という結果に直結しやすくなっているというのが、結婚減少の要因になっていると考えられる。
また、「お見合い」や「職場結婚」といった「半強制結婚システム」が事実上解体されてきたことの影響も大きいと考えられる。長期的にみると、1960年代まで最もメジャーな結婚経路であった「見合い結婚」が減少して、現在は「恋愛結婚」が結婚の大部分を占める(図表3)。
つまり、恋愛が結婚の必要条件になったわけで、さらにその恋愛に至る必要条件にも「いい人がいれば」が存在するわけだが、それが困難ということである。逆にいえば、「お見合い」がメジャーな結婚経路だった時代には、当人の意思を半ば無視して親同士が話を進めてしまうことが少なくなかったと言われるが、こういう場合に「いい人がいなくても結婚する」という事象が発生していたのだろう。それが本人たちにとって幸せだったのかは知る由もないが、婚姻率・出生率の底上げにつながっていたことは確かである。
■一時期は主流となった「職場結婚」
1970年代からは恋愛結婚が結婚経路の主流になったわけだが、具体的には何をきっかけに恋愛をしていたのだろうか。1990年代以降に主流になったのは、「職場」をきっかけとする結婚、すなわち職場結婚である(図表4)。
阪井裕一郎(2024)『結婚の社会学』は、かつての皆婚社会を支えてきた1つの要因としての企業社会を「マッチメーカー」と位置付けたうえで、先行研究に言及しつつ「当時の恋愛結婚は、実際には『企業によって身元保証された男女』が帰属意識の高い集団のなかで配偶者を見つけるというかたちをとった」と指摘し、併せて「企業側(上司)が従業員の結婚問題に気を配ることは、ごく自然なことであったに違いない」とも述べている。
つまり、「半強制結婚システム」の運営主体が、親をはじめとする「親族」から「企業の上司」へと移行する形で、皆婚社会の延命がなされたような格好である。
■職場結婚の代わりに増えた「結婚経路」
ただし、様々な角度から論じた通り、現代の若年層は「企業と自分が一心同体」などとは全く思っていない。
そうしたもとで上司が職場の男女を無理にくっつけようとしてもまさに迷惑でしかないだろうし、そもそも「未婚の部下を結婚させなきゃいけない」という発想自体が今日のハラスメント基準のもとではセクハラやマリハラ(マリッジ・ハラスメント)に該当するおそれもある。したがって企業のマッチメーカー機能は今日ではほぼ消失し、実際に「職場」きっかけでの結婚は緩やかに減少している。
なお、代わりに最近増えている結婚経路は「ネット」である。具体的にはマッチングアプリが多いとみられるが、こうしたマッチングアプリの浸透が結婚行動にどのような影響を与えるかは注目に値する。昔ながらの「結婚相談所」などに比べればハードルはかなり低いし、アルゴリズム設計がしっかりしていればマッチング効率もある程度高いのかもしれない。
ただし、マッチングアプリも最初に「自ら登録する」という意志・行動が必要になり、かつてのお見合いや職場結婚のような(半)強制力を伴わないという点では、皆婚社会への回帰を促すほどの力を持つ可能性はそれほど大きくないように思う。
■「逃げ恥」にみる結婚の経済学
前節では、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」のデータを確認することを中心に、人々が結婚しなくなっている現状とその背景について基礎的な考察を行ってきた。こうした調査も非常に有益だが、政府関係機関による公的な調査・統計という性質から、良くも悪くも「行儀の良さ」があり、ややイメージが湧きづらいところが残るのも否めない。この点では、民間の有識者による考察を加えることが有益である。
2016年のテレビドラマ「逃げ恥」(逃げるは恥だが役に立つ)を題材に結婚を経済的観点で考察した白河桃子・是枝俊悟(これえだしゅんご)(2017)『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』は次のように指摘している。
結婚とは、かつては「永久就職」「食いっぱぐれがない」アイテムであり、男性にとっても「大黒柱としての義務つきの居場所」「社会的承認」でもありました。
非常に率直な表現で、人により好みは分かれるかもしれないが、それだけに政府調査等に比べて「リアル」なイメージに近い感もある。一言で言えば、男女それぞれ異なる理由で結婚の魅力が低下しているということになると思うが、筆者は男性なので男性側目線について最初に検討してみたい。
■なぜ結婚の魅力は低下したのか
まず、男性にとって結婚の「コスパ」が良くないことが多いということ自体は、おそらく昔からそれほど変わっていない。昔の男性サラリーマンは、会社からもらった給料を妻に全て渡して管理を委ね、そこから「お小遣い」をもらうという行動をとることが多かった。結婚する前はそうした「お小遣い」よりも大きな金額を自由に使えていたはずだが、「家を守るのは女の仕事」という価値観のもと、結婚後は家庭内における金銭面の差配を妻に一任していたわけである。結果として、金銭面では結婚によって貧しくなることが多かったのだろう。
そうした金銭的な面でのコスパの悪さを知りながらも昔の男性の圧倒的大多数が結婚したのは、前述の通り結婚が義務的であったことに加え、白河桃子・是枝俊悟(2017)が指摘している通り「社会的承認」を求めたからだろう。つまり、「男は結婚して所帯を持ってようやく一人前」のような価値観が強固に存在していた時代には、ずっと独身のままでいると「半人前」とみなされたのだろうし、その結果として現実的な社会的不利益を被ることもあったのだろう。
しかし、現代においてそうした感覚(「結婚してようやく一人前」)は乏しくなっている。少なくとも筆者は、「結婚していないから自分は一人前ではない」という感覚を全く持っていないし、独身であることにより社会的不利益を被った感覚もない(自覚がないだけで現実には何かあったのかもしれないが)。
数年前までは「独身いじり」も多少あったと思うが、最近のハラスメント基準のもとではそうしたことも許されなくなっている(そうした感覚にキャッチアップできていない50代以上の人が「なんで結婚しないの?」などと無邪気に言ってくることは今でもたまにあるが)。
■「経済力」の枷から解放された女性
女性側目線についてはどうだろうか。「永久就職」という言葉は今ではほとんど聞かなくなったが、筆者が小中学生くらいの時期(1990年代半ば~2000年代初頭)には、テレビ番組などでまだ使われていたような記憶がある。
いずれにせよ、女性にとって「結婚」=「永久就職」という感覚が消滅した理由は明確で、女性の社会進出および経済的自立が大幅に進展し、その影響もあって「専業主婦」が大幅に減少したためだと考えられる。
逆に言えば、有形無形の女性差別が多く残存しており、女性の経済的自立が阻害されていた時代(典型的には、1986年の男女雇用機会均等法施行前の時代)においては、女性にとって人生の選択肢が現実的に少なかったため、結婚が最もコスパのよい選択肢であることが多かったのだろう。ただし、言うまでもなく専業主婦には専業主婦の苦労があり、企業等の上級ポジションが女性に開放された現代においては、「永久就職=専業主婦化」よりも、企業で働く方が良いと判断する女性が多くなっているものとみられる。
男性は「社会的承認」の枷(かせ)から、女性は「経済力」の枷から解放されて、「結婚はしてもしなくてもいいもの」という意識が社会に浸透していった。そのように結婚が選択的なものとなる中で明らかになったのは、前述の通り「いい人がいない」という悲しい現実である。
■条件を下げてまで結婚したくない
少し古い調査だが、明治安田生活福祉研究所(2017)「35~54歳の結婚意識に関する調査」によると、30代後半~50代前半の未婚男女に対して「結婚に対する気持ち」を問うたところ、「理想・条件を下げるくらいなら結婚したくない」と回答した人が男女とも2割強に上っている。逆に、「理想・条件を下げてでも結婚したい」との回答は1割に満たない。こうした調査結果からも、結婚が選択的なものとなったことが確認される。
実際、50歳時点での未婚率(いわゆる「生涯未婚率」)もこの数字に近いので、「どうしても結婚したかったけれど、何らかの理由で結婚できなかった」という人より、「いい人がいれば結婚してもよかったが、結果的に良い人がいなかったので結婚しなかった」という人のほうが多いのだろう。
逆に言えば、結婚が義務的であった時代、すなわち、男性にとって結婚による「社会的承認」が、女性にとって結婚による「経済力」が「必須アイテム」だった時代においては、「独身のままでいる」よりは「妥協に妥協を重ねた相手と結婚する」ほうが得という判断だったのだろうが、価値観の変化・社会の変化に伴い、現在は逆の判断になっているのだろう。
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河田 皓史(かわた・ひろし)
エコノミスト
1987年生まれ。岩手県出身。みずほ総合研究所調査部 主席エコノミスト。東京大学経済学部卒。デューク大学大学院経済学修士課程修了(経済学修士)。日本銀行を経て、2023年11月みずほリサーチ&テクノロジーズ(現・みずほ総合研究所<※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称>)入社。
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(エコノミスト 河田 皓史)

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