■借金増加が止まらない
借金大国と言われ続けてきた日本国の借金増加に歯止めが利かなくなってきた。財務省が発表した3月末の「国債及び借入金並びに政府補償債務残高」、いわゆる「国の借金」が1343兆8426億円となり、前の年度末に比べて1.52%、20兆1271億円も増加、10年連続で過去最多を更新した。
国の借金を巡っては、国債を国内で賄っているので増加してもまったく問題ないという主張がある一方で、長期金利の上昇や円安が進むといった問題も起きている。このツケはいったいどんな形で国民にのしかかってくるのだろうか。
「4月1日時点の人口推計の概算値(1億2286万人)を基に単純計算すると、国民1人当たりの借金は約1094万円になる」(時事通信)。国の借金のニュースになると各社は必ず人口ひとり当たりの金額を書く。単純計算では確かにその通りだが、そのツケが国民一人ひとりにすぐに回ってくるわけではない。理論上は国が徴税権を持っているので、いずれ増税という形で国民の負担になる、というわけだが、民主主義国家である日本では政治が決断しない限り、簡単には増税はできない。
■最終的には国債頼み
実際、高市早苗内閣でも増税の話は目立つ形では行われず、逆に選挙で掲げた食料品の消費税をゼロにするか税率1%にするのかといった議論がかまびすしい。国民が喜ぶ減税には熱心でも、国民負担が増える増税は政治家は口にできないわけだ。
一方で、政治家は予算の大盤振る舞いには熱心だ。国民が物価上昇に悲鳴を上げれば、物価高騰対策として補助金を配りましょう、ということになる。
今も続くガソリンへの補助金。米国のイラン攻撃に端を発したホルムズ海峡の封鎖で原油価格が高騰する中、政府は1リットル170円程度に維持するとして補助金を出し続けている。
その額1リットル当たり40円を超える。エコノミストの試算によると1リットル当たり10円の支給を1カ月続けると約1000億円かかるため、40円だと4000億円になる。現在、補助金は基金から出されているが、6月ごろには底をつく見通しだという。
ガソリンへの補助金は2022年1月から「激変緩和措置」として始まり、一時は取りやめになったものの、イラン情勢を受けて再開、強化された。すでに累計で8兆円以上の国費が投じられており、9兆円を突破するのは確実な情勢だ。財源の枯渇が懸念される中で、高市内閣は補助金継続の方針を示している。最終的には国債頼み、借金頼みということになる。
■借金増を厭わない積極財政政策
さらに加えて、夏場の冷房需要の増大に向けて、7月から9月の3カ月間、電気・ガス料金の補助金を再開・拡充する方向が固まった。標準世帯で3カ月で5000円を超える負担軽減になる見込みだという。もちろん、これも財源は政府予算から出されるわけで、当面、5000億円規模の予備費を当てる。こうした大盤振る舞いも最終的には国の借金に積み上がることになる。
こうした国債発行残高の増加を懸念する声がある一方で、自国通貨を発行できる政府はいくら国債を増発して財政赤字を拡大しても、インフレ率が許容範囲内である限り、財政破綻はしないと主張する「MMT(現代貨幣理論)」の信奉者がおり、高市氏の周囲にもこうした理論を主張するブレーンがいると見られている。
このため、高市氏の経済政策は国の借金増を厭わない積極財政政策になっているとされる。
確かに、ある程度の借金をしてでも積極的に財政出動することで景気が良くなり経済成長すれば、それによって税収も増え、借金返済の原資が生まれることになる。ただし、将来、リターンが戻ってくるものに投資をすることが前提で、単純に物価上昇を招くような財政支出は問題を引き起こす。
■住宅ローンの「悪夢」
国債がデフォルトしなくても、財政悪化によって国債の信用度が落ち、債券価格が下落(金利が上昇)する懸念は十分にある。金利が上昇すれば、借り換え債を発行する際の調達コスト、金利負担が増えることになり、さらに借金が増えるという悪循環に陥りかねない。
実際、ここへきて長期金利が大幅に上昇している。5月18日には長期金利(10年物国債金利)が一時2.8%にまで上昇したが、これは何と1997年以来、29年ぶりの高水準だった。
これによって住宅ローンにも影響が出始めている。新規に固定金利で住宅ローンを組む人の利率が大幅に上昇しているのだ。例えば、「フラット35」の借入期間21年以上35年以下、融資比率9割以下の5月の最低金利は2.710%と前月に比べて0.220%上昇した。
変動金利型の住宅ローンも長年2.5%程度だった金利が3%を超えてきているが、返済額は5年間変わらないことになっており、すぐに生活を圧迫する事態にはならない。今後、さらに金利が上昇すれば、返済額では金利返済すらできず「未払い金利」が発生することになりかねない。
返しても返しても借金元本が減らない悪夢が襲ってくる。
■円安の進行は避けられない
財政赤字が拡大し、国の借金が増え続けた場合、もっとも端的に影響が出るのが為替だ。つまり円安の進行が避けられなくなるのだ。政府・日銀は1ドル=160円を付けたのをきっかけに、4月30日に大規模な「円買い・ドル売り」の為替介入を実施し、いったんは円高方向に為替を動かした。しかし、その後、ジワジワと円安が進み、再び1ドル=159円近くになっている。要は円高に動くほどの「国力」が示せていないわけだ。
その円安が進めば、輸入物価の上昇が進む。輸入する原油やLNG(液化天然ガス)の代金も大きく上昇することになり、国内のガソリン価格や電気代のコストを大きく引き上げる。何ということはない。再びガソリン代や電気代の補助金を積み増さざるを得なくなる。イタチごっこを繰り返すことになるわけだ。
では、どうすれば財政を健全化し、国の借金を減らすことができるのか。
国の借金が1000億円を突破しそうな頃は、財務省もマスメディアを動員して借金増を抑えないと国の財政が破綻するというキャンペーンを張った。消費税率の引き上げが不可欠だというのが財務省のもっぱらの主張で、財政再建のためには増税を、という世論喚起に必死だった。
■財政健全化よりも積極財政に
2021年10月には矢野康治財務次官が月刊誌『文藝春秋』に寄稿し財政赤字を放置する日本の状況を「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなもの」だと痛烈に批判した。現役の次官が市販雑誌に寄稿するのは異例で、財務大臣などにも内諾を得た行動だったのだろう。
2021年3月末の国の借金は1216兆円と前の年度末に比べて100兆円近く増える異常事態だった。新型コロナやそれに伴う補助金の支出など、巨額の財政出動が行われたツケが借金の形で残ることになった。ちなみに、矢野次官の警句にもかかわらず、その後も借金は増え続け、2025年3月末には1300兆円を突破した。
結局、その後の内閣も、防衛費の大幅な増額や、景気対策の補助金などに大盤振る舞いを続け、いわゆるプライマリーバランスの黒字化も棚上げしている。高市内閣も財政健全化よりも積極財政に舵を切っているように見える。
■すでに「インフレ税」を払わされている
では、このまま借金が増えた場合、どういう形でツケは回ってくるのか。実は既に国民はツケを払わされ始めている。いわゆる「インフレ税」である。
日本円の実質的な価値が下がることで、預貯金の資産が目減りする一方、政府の借金の負担も実質的に軽くなるというわけだ。
物価上昇によって、同じものを買っても支払う消費税は着実に増える。インフレが進めば政府の税収も増え、借金は目減りするから、政府にとっては好都合なのだ。国民も政治家も浪費を続けて財政均衡を考えないならば、インフレで苦しむことになる。矢野次官の寄稿が国民に対する最後通牒だったのかもしれない。
日経平均株価は5月25日、初めて6万5000円台に乗せ、過去最高値を更新した。株高が日本の国力を示しているというよりも、円通貨の劣化が株価や不動産といった資産価格の急上昇をもたらしているように見える。資産を持たず、劣化する円建ての給与、しかも物価上昇には到底追いつかない賃上げしかされない給与に依存する日本の庶民が、金利上昇や円安という形でツケを払わされることになるのだろうか。

----------

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。
著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

----------

(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
編集部おすすめ