販売台数世界一のトヨタは、今後も頂点に立ち続けられるのか。楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジストの窪田真之さんは「トヨタは現在も圧倒的な販売力とブランド力を持つが、今後はEVや自動運転、電池技術で勝てるかが重要になる」という――。
(第2回)
※本稿は、窪田真之『「超」成長株の見つけ方』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■実力トップのトヨタが抱える未来への不安
私は自動運転・次世代自動車で将来的に成長していく企業として、トヨタ(7203)に期待しています。日本株ポートフォリオにトヨタは入れておくべきでしょう。ただし、トヨタが自動運転・次世代自動車の領域で、世界をリードしているとは言えません。
トヨタは自動車産業で世界トップの実力を有しますが、ガソリン車・ハイブリッド車に強みがあり、次世代自動車に強いわけではないからです。トヨタは米国トランプ政権が導入した自動車関税で大きなダメージを受けました。しかし、今後2~3年かけてそのダメージを乗り越えていく力があると私は見ています。
トヨタの武器は、技術開発力・コストカット力・米国現地生産を増やす力・性能や燃費に対する世界中の消費者からの信頼です。ですがそれでも、今のトヨタを「美しい成長株」とは言えないでしょう。なぜなら、次世代自動車にとってもっとも重要と考えられる自動運転技術およびEVで世界トップを取れていないからです。
そして、20~30年後には、ガソリン車の販売が大きく減る可能性があります。ガソリン車・ハイブリッド車だけで世界を支配していても、それで未来の成長が約束されるわけではありません。
だからこそ、次世代自動車の候補と考えられているEV、燃料電池車(水素エネルギー車)や、自動運転技術で勝者となれるかが重要と言えます。
■性能別に見る次世代自動車の評価
トヨタは、ハイブリッド車・EV・燃料電池車すべてに注力する、全方位戦略を取ってきました。ガソリン車の次に何が世界標準になっても戦える態勢を維持しています。けれども、EVの生産台数で米国テスラと中国BYDに後れを取っていることには留意すべきでしょう。
ガソリン車に取って代わるものを考える前に、まずは簡単な性能比較をご覧ください。
図表1は、次世代自動車の候補の性能比較表です。○△×は、2026年3月時点の筆者評価です。5つの性能項目で、全部○のつくものがあれば良いですが、それはありません。ガソリン車は、排ガスを出す点で××ですが、それ以外は、すべて○です。
それぞれの性能の特徴は次の通りです。
・燃料充填(じゅうてん):満タンにするのにかかる時間は短く、2~3分で済む。

・航続距離:満タンで500キロメートルくらい走れる車種が多く、便利。


・インフラ:全国・全世界にガソリンスタンドがあり、手軽に給油できる。

・価格:相対的に低価格。
■社会問題となった「EV車の乗り捨て」
ハイブリッド車は、ガソリン車より燃費も使い勝手も良いですが、ガソリンを使うため排ガスが×です。ガソリン車の改良版として世界的に人気が高まっていますが、究極の次世代自動車とは考えられていません。近年人気が低下してはいるものの、EVがガソリン車に代わる次世代自動車としてもっとも有望という位置付けは変わりません。「自動運転」と親和性が高いことも強みです。
2024年以降、EVブームに異変が起こりました。米国・欧州でEV人気が急低下し、ハイブリッド車の人気が急上昇しています。2025年にスタートした米国の第二次トランプ政権が、EV補助金を大幅にカットし、ガソリン車への回帰を進めた影響もありますが、それだけが原因ではありません。
EV固有の使い勝手の悪さに、あらためて消費者の注目が集まりました。たとえばフル充電までの時間が長すぎること、充電ステーションが不足していて日中手軽に充電できないといった点です。
冬場に、充電ステーション前に充電待ちの長い列ができて、充電できないままに乗り捨てられるEVが出たことが、米国で社会問題として大々的に報道されました。

■ハイブリッド車ブームが追い風に
また、EVの生産および販売で、中国が世界トップに立ったことも問題視されました。
欧米ではEV購入に高い補助金を出してきましたが、中国EVの販売を伸ばすために補助しているようなものだと批判されたのです。こうした問題も絡み、米国および欧州でEV補助金が大幅に削られることになりました。
こうして欧米でEV販売が失速するなか、ハイブリッド車のブームが起こりました。それらの変化を受けて、EV生産への移行を前のめりで進めていた米国のGMやフォード、ドイツのフォルクスワーゲンには、EV関連の設備に巨額の減損が発生しました。現在は、EVへの傾注を止め、あわててハイブリッド車の開発・生産を重視する方向に舵を切り直しています。
ホンダも、前のめりでEV開発を進めていたため、同様の減損が発生しています。ソニーとのEV共同開発も、見直しを余儀なくされました。この流れは、トヨタにすばらしい追い風です。トヨタはハイブリッド車で高い技術を持ち、ハイブリッド車ブームが強い追い風となっています。さらには、EV開発の遅れを取り戻すための時間をもらったとも言えます。
■出遅れトヨタの2つの「大逆転シナリオ」
ただし、のんびりしているわけにはいきません。
2026年には中東危機によるガソリン高を受けて、欧米でEV人気が復活する兆しがあり、先行きは予断を許しません。はたしてトヨタは、あらためてEVが次世代車として重要になるまでに、世界トップクラスの技術を開発していくことができるのか、注目したいところです。
次世代自動車で、トヨタが大逆転して世界トップに躍り出ることは可能でしょうか? 大逆転のシナリオとしては、2つの可能性があります。
①燃料電池車(水素エネルギー車)が世界標準となれば、トヨタに勝機がある。

②全固体電池EVの実用化にトヨタがいち早く成功すれば、EVでの勢力図が変わる。
トヨタは、燃料電池車「MIRAI(ミライ)」の開発実用化で世界トップを走っています。燃料電池車(水素エネルギー車)が次世代自動車となれば、トヨタに非常に有利です。ただし、そうなる可能性は低いと思われます。
水素を使う燃料電池車は、コンパクトに大量のエネルギーを搭載できるので、大きなパワーが必要とされる大型トラックやバスには最適であるため、次世代トラック・バスとしては有望です。
■テスラとBYDに勝つための切り札
それでは、トヨタはEVで米国テスラや中国BYDに近づくことはできるでしょうか。命運を分けるのは、「電池」です。いかに高性能の車載用リチウムイオン電池を安価に調達するかが鍵です。
車載用電池では、中国がいち早く大量生産による低コスト化を実現しています。
そのため、現状では電池生産で中国勢より低コストを実現するのは困難です。トヨタが電池でリードするためには、EV用全固体電池の実用化をいち早く実現する必要があります。EVの致命的欠陥として充電時間の長いことがありますが、全固体電池になると、ガソリン車のように3~5分くらいの短時間でフル充電できるようになります。
全固体電池は高価格になるので、実用化されても販売が急拡大するとは思えません。それでも、長い年月をかけながら、通常のEVから全固体電池EVへのシフトが続くと考えられます。

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窪田 真之(くぼた・まさゆき)

楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト

慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネジャー歴25年。公的年金・投資信託・ニューヨーク上場ファンドなど、2000億円超の日本株運用を担当。2014年より現職。楽天証券「トウシル」で月間200万PVを超える人気の投資コラムを連載。「トウシル」のYouTubeで月間20万PVを超える自身出演の動画を配信中。
内閣府「女性が輝く先進企業」表彰に係る選考委員・企業会計基準委員会「ディスクロージャー専門委員会」委員・日本証券アナリスト協会「企業会計研究会」委員などを歴任。『IFRSで企業業績はこう変わる“実質重視”が明かす真の実力』(日本経済新聞出版社)、『2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ 世界一楽しい「一問一答」株の教科書』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト 窪田 真之)
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