食後、急激に血糖値が上がる「血糖値スパイク」は、血管を傷つけ動脈硬化の原因になるとされている。どうすれば避けられるのか。
栗原毅『栗原式 すごい糖尿病の自力克服法』(エクスナレッジ)より、効果的な運動を紹介する――(第1回)。
■なぜ早食いは危険なのか
ゆっくり食べることを習慣にしましょう。これこそが血糖値スパイクを防ぐ、もっとも確実な方法です。
グラフは血糖値スパイクを示す食後血糖値の変化を示しています。食後「高血糖が起きている人」は、お昼の食事(12時)の後、血糖値は200mg/dLくらいまで上がります。
この高血糖を下げるため、インスリンが大量分泌され、血糖値は100mg/dLくらいまで下がります。
夕食(18時)の後も同じように食後高血糖が起きていますが、このような血糖値の急上昇と急下降が繰り返されるたびに血管が傷つけられ、動脈硬化を進めます。
これに対して、健康な人の血糖値は急激に上がらず、ゆるやかに推移しています。しかし、健康な人でも早食いをすると、早期のインスリン分泌が食後高血糖の上昇に追いつかず、血糖値が急上昇します。
■すい臓への負担も減らせる
逆に、ゆっくり食べると、インスリンが少しずつ分泌されるので、食後血糖値の上昇がゆるやかになり、ピークも低く抑えられます。
また、インスリンの分泌量も少なくなるので、すい臓の負担を減らせることになります。
食事をゆっくりとることを心がけると、かむ回数が自然に増えてきます。

かむ回数が増えると、インクレチン(消化管から分泌される血糖値を調整するホルモン)が分泌し、早期のインスリン分泌が促されるため、食後血糖値の上昇が抑えられるとされています。このような健康によい効果がわかっていても、早食いの習慣をやめるのはむずかしいようです。でも糖尿病の人は、なんとしてもこれだけは実行してほしいのです。
■おすすめは「箸置きを使う」
早食いをやめられないのは、現代人はタイパ(タイムパフォーマンス)志向なので、食事に時間をかけるのはムダだと思っているのではないでしょうか。
それはファストフードという言葉に象徴されています。「ファスト」は「早い」という意味で、注文してから出てくるまでの時間や食べ終わるまでの時間が早くすむのがファストフードです。
いまや自宅での食事もファストフード化しています。この食べ方に慣れてしまった現代人が、早食いを改めるのは、確かに簡単ではありません。しかし、これだけは何としても実行してほしのです。
ゆっくり食べるポイントは、食べものを口に入れたら箸を置き、30~50回かむこと。
ぜひこれを習慣にしてください。箸を置くことを意識するため、箸置きを使うことをおすすめします。

■朝食を抜いてはいけない
もう一つ、食べ方で重要なのは、3食をきちんととることです。とくに朝食は絶対に抜いていけません。
空腹感は低血糖のサインの一つです。朝食をとらないと空腹感が強くなりますが、そのタイミングで昼食をとると、食後の血糖値は急上昇します。
図表2のグラフのように、昼食まで抜いた場合、血糖値のピークはさらに上昇し、下がる幅もより大きくなります。
これを防ぐためにも、食事は3食きちんととり、よくかんで、ゆっくり食べることを心がけましょう。
■食後の「2分運動」で防げる
食事をした後は、ゴロゴロせずに、少しだけ運動します。時間にして2分程度。これだけで血糖値スパイクが防げるのです。
食事でとった炭水化物(糖質)は、ブドウ糖となって血液に吸収されます。すると血糖値が上昇します。早食いすると食後血糖値が急激に上がることはすでに説明しました。

早食いを改めることも大事ですが、食事の後に運動をすると、血糖(ブドウ糖)が筋肉のエネルギーとして消費されるため、食後血糖値の上昇がよりゆるやかになるのです。
逆に食後体を動かさないと、血糖値が急上昇した後、大量に分泌されたインスリンの働きで急激に下がります。いわゆる低血糖に近い状態になるため、眠くなることがあるのです。食後眠くなる人は血糖値スパイクが起きています。このような人こそ、食後の運動を始めましょう。眠気を感じることがなくなり、働いている人は午後の仕事の能率も上がるでしょう。
■「階段の上り下り」で十分
糖尿病の人にすすめられる食後の運動としては、ウォーキング(有酸素運動)が一般的のようです。食後2~3分歩くだけでも効果があります。
しかし、私はそれに簡単な筋トレ(レジスタンス運動)を加えることをすすめています。なぜなら有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせたほうが、筋肉が血糖をより多く消費できるからです。
私はオフィスで働いている患者さんに、オフィスに階段があるなら、上の階まで上がって下りてくることをすすめています。階段を上がる動きが太ももの筋トレになるからです。

ランチを外食でとる人なら、食後の帰り道がウォーキングになります。そしてオフィスに戻ったら、階段を上って下りてきます。これだけで、食後に行う運動としては十分です。
自宅で食べる場合も、家のまわりを少し歩いて、階段がある家なら2階に上がって下りてくるようにします。
■「10回のもも上げ」で変わる
自宅に階段がない人は、簡単な筋トレをします。もっとも効果があるのは、スクワットですが、運動習慣のない人にはハードルが高いのが難点です。
スクワットは血糖コントロールに非常に効果がある運動(筋トレ)です。糖尿病の患者さんには必ずすすめていますが、なかなか継続してやってくれる人が少ないのです。
ウォーキングは散歩の延長としてやってくれるのですが、筋トレとなると習慣として身につけるのが大変なようです。
そういう方には、スクワットよりも簡単にできる筋トレとして、もも上げをすすめています。
やり方は簡単で、左右のももを交互に高く上げる(床と平行以上になるまで上げる)だけです。食後にやるなら、10回(左右5回ずつ)で十分でしょう。

もも上げは、どこでもできる筋トレです。コツとしては、ももを上げたあと、一瞬止めること。こうすることで、筋肉への負荷が増し、筋トレ効果が高まります。食後の運動に関してはこれだけで十分です。時間も2分が目安ですが、それ以上やっても、体に悪いことはありません。
■1日5回2セットの「いすスクワット」が効果的
食後の運動とは別に、毎日の運動習慣は、インスリン抵抗性を改善し、血糖コントロールをよくします。この運動も有酸素運動と筋トレの組み合わせが効果的です。
ウィーン大学の研究チームによると、2種類の運動を行うと、有酸素運動のみ行った場合よりも、ヘモグロビンA1cは平均0.17%、空腹時血糖値は平均10.6mg/dL低下しました。一方、筋トレだけを行った場合に比べると、ヘモグロビンA1cは平均0.62%、空腹時血糖値は平均35.8mg/dL低下したということです。
もも上げでもよいのですが、できるようになったら、スクワットにチャレンジしましょう。いずれの筋トレも、時間にして正味1分かかりません。
スクワットは血糖コントロールにとても効果がある運動です。
いすを使って行う(座ってしまってもかまわない)ので、転倒の心配もありません。
ポイントはゆっくり行うことです。図表4のやり方にしたがって行いましょう。
■「速歩」を加えるとさらに効果UP
有酸素運動はウォーキングで十分です。さまざまな研究から、1日の歩数は8000歩でヘモグロビンA1cの改善に役立つ可能性があると報告されています。
埼玉県のある町の住民を対象に、8000歩ウォーキングに挑戦する調査を行ったところ、参加者の約6割でヘモグロビンA1cが改善したことが確認されたということです。
日常生活では2000歩くらい歩いているので、ウォーキングとして歩くのは6000歩。続けて行うのが大変なら、3000歩ずつ2回に分けて行ってもかまいません。もちろん、徒歩で買い物に行く時間などを含めてかまいません。
ただ歩くだけでもよいのですが、もしチャレンジできるなら、そこに速歩を加えてみましょう。速歩には筋トレ効果もあります。
速歩は続けて3分が理想ですが、最初は1~2分でかまわないので、息が少し上がるくらいの速さで歩きます。3分もしくは速歩に疲れたら、普通に歩きながら呼吸を整えます。
1日のウォーキングに5回ほど速歩を加えるとよいとされていますが、まずは2回でも1回でも始められれば、血糖コントロールは着実によくなります。

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栗原 毅(くりはら・たけし)

医師

1951年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。東京女子医科大学で消化器内科学、特に肝臓病学を専攻し、同教授を歴任、2007年より慶應義塾大学教授。2008年に消化器病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防と治療を目的とした「栗原クリニック東京・日本橋」を開院。『1週間で勝手に痩せていく体になるすごい方法』(日本文芸社)など著書多数。

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(医師 栗原 毅)
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