※本稿は、冷泉彰彦『世界の一流は「子ども」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■アメリカの大学が重視するリーダーシップ
これからの時代に、人間が「AIではできない高度な判断」をしていくには何が必要か? それを知る上で、「アメリカの大学」が持っている教育の考え方、学生を選ぶやり方を見ておくことは、十分に意味があります。彼らは、先ほどの問いに100%の答えを持っているわけではありませんが、世界の中で最も近い答えを持って教育をしていると言えます。
アメリカの大学は、出願者の「スポーツ歴」を重視します。その中で大切なのが、「リーダーシップ」の問題です。
キャプテンとかエースというポジションを経験したということは、願書ではプラスの評価をされます。そして、キャプテンとして困難を乗り越えた経験、さらに「その経験によって、将来のキャリアへのモチベーションを獲得した」といったストーリーをエッセイ(作文・自己紹介文)にまとめ、その内容に信憑性があるのであれば、選考にあたって評価されます。
ちなみに、プロスポーツから、高校の部活動まで、部員が顧問だけでなくキャプテンや部長などの指示に従うという基本ルールは、日米まったく共通です。自由なアメリカだから、部活の中も自由というわけではありません。
スポーツの場合は、統制の乱れは時として危険につながりますし、プロスポーツでも、たとえば露骨に監督批判をしていると、解雇されることもあります。
また、音楽や演劇では「全体の調和そのもの」が表現上の達成目標になります。
■適性のある人物にいきなり権力を与えない
「統率が大事」ということは共通である一方、アメリカのリーダー観というのは、日本の部活カルチャーとは、本質的な部分で違いがあります。リーダーシップをどう発揮していくのか、またどんなスキルが必要かという面では、まったく違うと言ってもいいでしょう。
まず、リーダーをどうやって選ぶかですが、たとえばバスケやサッカーなどの得点王は、あまり選ばれません。タイムを競う水泳や陸上の場合も、最高のタイムを出して対外試合で活躍する選手は、キャプテンにしないことが多いのです。
そうではなくて、実力では2番手グループの上級生から、リーダー適性のある人物を選びます。その上で、リーダーには、いきなり権力を与えることはしません。そうではなくて、まず「権威を身につける動作」を覚えさせます。
具体的には、後輩の抱える悩みや技術的な迷いなどに対して、的確で丁寧なアドバイスをできるように、姿勢や話し方を身につけさせたり、積極的にポジティブな言葉かけをさせたりするのです。
そのようにして、リーダーこそ、部員への最大の支援者として無償の奉仕を心がけつつ、全体に目を配るという「管理監督の基礎」について教えるのです。
■練習後のグラウンド整備は監督と主将
多くのアメリカの高校では、練習が終わったあとにトンボを引く(グラウンド整備をする)のは監督とキャプテンで、下級生を含めた部員はさっさと帰宅します。
また、好調な選手は基本的に放任ですが、不調に陥った選手にはキャプテンが寄り添って技術指導をしたり、モチベーションを支える支援をしたりします。
昭和的な「スポ根」思想からすると、生ぬるいという印象になるかもしれませんが、そうではないのです。なぜかというと、こうしたカルチャーの背景にあるのは、強固なひとつの思想だからです。
それは、「リーダーシップの目的は、全体が最大のパフォーマンスを発揮することであり、その目的に至る手段は、全員の自発的なモチベーションを引き出すことだ」というものです。上に立つ者が率先して雑用をするとか、弱い者への丁寧な指導を優先するというのは、こうした思想からきているのです。
そして、このような考え方の実践として、高校の部活で、あるいは生徒会などで「リーダーシップを経験し、さらに経験を通じてプラスアルファの学びをした人材」を評価するのです。
■「先輩後輩」という残酷なカルチャー
この点に関しては、最近はやや緩和されつつありますが、日本の場合はまだまだ残酷なカルチャーが残っています。
それは「先輩後輩カルチャー」と呼ぶべきものですが、簡単に言えば、学年・年齢・経験年数・実績などの客観基準でリーダーを自動的に決めてしまい、「リーダーシップのスキルを教えることなく、また権力に伴う権威を獲得する時間と知恵も与えず、いきなり権力を行使させる」という習慣です。これは非常に残酷で、まったく効率的ではありません。
残酷というのは、そうしたリーダーに振り回される後輩が辛いということもありますが、それ以上にリーダー自身が苦しむからです。その意味で、日本の学校の部活、大学の体育会、そして企業や官庁では、大変に非効率なことをやっているということになります。
そんな日本でも、徐々にグローバルな価値観の浸透に伴って、リーダーシップの再定義が進められています。
民間企業の中には、自然とこの問題に気づいて、組織の自発的なモチベーション向上を重視したマネジメントに変更しているケースも出てきました。
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冷泉 彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家、ジャーナリスト
ニュージャージー州在住。プリンストン日本語学校高等部ディレクター。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。著書に『アメリカの警察』(ワニブックス新書)、『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)、『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)など。有料の週刊メルマガ「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。
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(作家、ジャーナリスト 冷泉 彰彦)

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