公式戦26試合無敗――。鹿島アントラーズの復権が鮮明になっている。
(文=田中滋、写真=スポーツ報知/アフロ)
王者はなぜ復活したのか。鹿島は「弱くなった」のではない
鹿島の復権が著しい。9年ぶりの歓喜に沸いた昨季のJ1制覇から、その強さはさらに増している。
百年構想リーグにおいてもその勢いは際立っており、第11節終了時点で勝点29を荒稼ぎ。2位のFC東京に6ポイント差をつけJ1EASTで独走状態に入っている。
特筆すべきはその圧倒的な内容だ。今季挙げた9勝のうち、実に7試合が無失点勝利。
いまの鹿島の状態を理解するには、少し時計の針を巻き戻す必要がある。
鹿島はそもそも弱かったわけではない。昨季の優勝が9年ぶりの国内タイトルだったとはいえ、これまで獲得してきた21冠(国内タイトルで20冠、AFCチャンピオンズリーグ[ACL]で1冠)は、いまでも他を圧倒する。つまり、鹿島が強くなった理由より、まずは鹿島が勝てなくなった理由を知るほうが早い。
“鹿島らしさ”が消えた数年間
昨季のJ1優勝以前、鹿島が最後に国内タイトルを獲得したのは2016年のリーグ制覇だ。
金崎夢生を筆頭にしたストロングスタイルのチームはチャンピオンシップで川崎、浦和レッズを圧倒してタイトルを獲得した。その2年後にもACLをクラブとして初制覇。悲願達成の歓喜に沸いたことを最後に、鹿島は長い迷路に迷い込んだ。
その背景には、小笠原満男や曽ヶ端準といったクラブを長年支えたレジェンドの引退があったことは否めない。その後を託された内田篤人が度重なる膝のケガで満足にプレーできなかったことも大きかった。
もともと鹿島は、選手の入れ替わりが少なく、長い時間を共に過ごすことで「戦い方」や「勝者のメンタリティ」が先輩から後輩へと受け継がれていく伝統があった。ピッチ上のしたたかさ、試合の終わらせ方。それこそが他クラブから恐れられた“鹿島らしさ”の源泉だった。
しかし、主力の大量流出によってそのサイクルは無惨にも崩れ去る。暗黙の了解として共有されていたものは、決して言語化されたマニュアルではない。伝承者がいなくなったチームから“鹿島らしさ”は脆くも消滅した。どうやってあの当時の強さを取り戻せばいいのか、ここから迷走のシーズンが数年にわたって繰り返されていった。
「評価軸」を変えた中田浩二FDの決断
出口の見えないトンネルに光を差し込んだのは、中田浩二のフットボールダイレクター(FD)就任だ。
彼はまず、チームの根幹となる「評価軸」を軌道修正する。それまでの数年間、鹿島はどちらかといえば「球際の激しさ」や「勤勉性」というフィジカル・メンタル面に評価の重きを置いていた。しかし中田FDは、それを「巧さ」や「サッカーという競技を深く理解しているか(サッカーIQ)」という基準へと回帰させる。
「僕の目線というかレベルが、野沢(拓也)とか本山(雅志)とか小笠原(満男)になってしまえば、やっぱそこに思うところはある。
鹿島の黄金期を知る中田FDは現役時代のチームメイトたちの名前を出し、求める基準の高さを示した。そして、この改革をピッチで体現するための最大の切り札が、鬼木達監督の招聘である。
中田FDのプランにおいて、方針転換と鬼木監督の招聘は「ワンセット」だったのだろう。薄れてしまった鹿島らしさを再構築するには、戦術的なアップデートはもちろん、選手たちの自発的な競争を生み出せる経験豊富な指揮官が不可欠だったからだ。
26試合連続で90分間の敗戦がないという事実
古巣・鹿島を率いることになった鬼木監督は、就任当初から2つのことを選手たちに徹底する。一つは「相手を圧倒すること」。もう一つが「自分たちから崩れない」ことだ。
始めに力点を置いたのは「圧倒」のほうだったかもしれない。意気込み高く臨んだ就任初年度、湘南ベルマーレとのアウェイ開幕戦に臨み、いいところなく0-1で敗れた。指揮官は多くの理想を選手に要求したが、結果としてチームはほぼ機能しなかった。
しかし、ここで鬼木監督は意固地にならず、開幕戦の反省を活かして一気に方針転換を図る。
ここから鹿島のハイブリッドな戦いが始まる。
日々のトレーニングでは、一歩でも理想に近づくための高度な技術トレーニングを反復する。しかし、いざ週末の試合になれば「やってきたことをちょっとずつ出す」(鈴木優磨)という姿勢で徹底して現実的に戦う。自分たちがまだ理想的なサッカーを体現できない未完成なチームであることを突きつけられながらも、その上で彼らは決して試合を勝ち切ることから逃げなかった。目指す内容とは食い違ったとしても、泥臭く勝点3をもぎ取ることに執念を燃やしたのだ。
その苦しい時期の屋台骨を支えたのが、強烈な個の力である。最後尾ではGKの早川友基が幾度となく決定的なピンチを防ぐことでチームは息を吹き返し、前線ではレオ・セアラが少ないチャンスを確実に仕留める理不尽なまでの決定力を見せつけた。彼らの活躍でしぶとく勝ち点を拾い続けたことが、チームに自信を与えていく。その現実主義と理想の追求のサイクルをまわしつつ、試合毎に結束力を高めていったことで、鹿島は昨季、9年ぶりのJ1制覇という最高の結果を手にしたのである。
その姿勢は「百年構想リーグ」になっても変わらない。26試合連続で90分間の敗戦がないという事実が「自分たちから崩れない」という戦いぶりの浸透と成熟を証明している。
黄金期を超えるか。“新しい鹿島”の設計図
その上で、彼らはすでに先を見据えている。夏から始まる秋春制の新たなJ1、そして並行して戦う過酷なACLのスケジュールで好成績を残すには、現状のスタメンだけでなく、より多層的で多角的な戦力が必要不可欠だ。戦い方の上でもよりボールを握ってゲームを支配することが求められる。だから、この半年は、より挑戦の色を濃くしつつ、「自分たちから崩れない」ことも継続し、その上で結果を手にできている。このことは、挑戦と結果のサイクルがこれ以上なくうまく進んでいる証明だ。
この先、活躍した選手が再び海外に旅立つ事態を迎えるだろう。ただ、鹿島はこの事態をすでに経験済みだ。下部組織に投資し、戦力の空洞化が起きない備えは数年前から進み、数多くの年代別代表を抱えるほどになっている。
いま鹿島を支えるのは鈴木優磨や植田直通、柴崎岳といった海外を経験して戻ってきた選手たちだ。数年後には彼らも衰える時が訪れるだろう。ただ、そのときはいま海外に出ている選手たちが戻ってくる時期だ。
鹿島らしさについても、ただハードワークできることではなく、技術があってハードワークできることが重要だということが明らかになった。技術面を重視したトレーニングはトップだけでなく、今後は下部組織にも波及していくことだろう。
活躍した選手が海外に出て行く流れは止めようがない。その流れに対応できる体制がなかったことが一時の凋落を招いたが、クラブもしっかり投資したことで次への準備はできた。長く苦しいトンネルを抜けたことで、かつての黄金期をも凌駕する、新たな強さを手に入れようとしている。ここ数年、遅々として増えなかったユニフォームに刻まれる星の数は、ここから再び増えていくはずだ。
<了>
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