アルビレックス新潟シンガポールとして数々のタイトルを獲得してきたクラブは、2026/27シーズンからFCジュロンとして新たな一歩を踏み出す。AFC大会への出場基準や資本関係を整理し、よりシンガポールの地域に根ざしたクラブへ。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=©︎Albirex Niigata FC (S))
FCジュロンへの改称に込めたクラブの意思
――まず、「FCジュロン」という新しいクラブ名に込めた思いを改めて教えてください。
是永:理由はいくつかあります。一つはAFCの大会に出るための基準です。アルビレックス新潟シンガポールのままでも出られないわけではありませんが、よりクリアにしたかった。もう一つは、現実として、今はアルビレックス新潟と資本関係がないことです。僕が2019年にアルビレックス新潟の社長とこちらを兼務した時に、アルビレックス新潟が持っていたシンガポールの株を親会社であるNSGグループに持ってもらう形にしました。また、最後に資金の補填を受けたのは2009年で、それ以降はずっとシンガポールの独立採算でやってきました。今は、アルビレックス新潟とシンガポールのクラブに直接の関係はありません。それなのに名前だけが残っていると、周囲から誤解を生む可能性もあります。海外で事業をしていると、日本の常識では考えられないカントリーリスクもあり、今後アルビレックス新潟にご迷惑をおかけすることがあるかもしれない。
――クラブ名の変更を本格的に考え始めたのは、いつ頃だったのでしょうか。
是永:去年の頭くらいです。AFCの基準に合わせないと、AFCの大会に出る上で支障が出るかもしれない、という話が出てきたので、そこから1年くらいかけて進めてきました。もちろん、「アルビレックス」を外すとなれば、NSGグループとアルビレックス新潟の池田弘会長にもご納得いただかないといけません。池田会長は約20年、僕の上司として、そしてメンターとして側にいてくれた方なので、必要性をご理解いただいた上で改称に踏み切れたことは大きかったです。
――前の名前で多くのタイトルを獲得してきた歴史もあります。葛藤はありませんでしたか?
是永:まったくありません。新しいクラブ名になっても、これまでどおりリーグ優勝の星は6つ付けます。クラブとして築き上げてきたものは変わりませんから。
ローカライズの原点にあった危機感
――「より深くこの地域に根を下ろす必要がある」と語られていましたが、もともとは日本人選手主体のクラブとして始まり、そこからローカライズを進めてきました。改めて、その流れを振り返っていただけますか?
是永:僕が最初にシンガポールに行った2008年頃のアルビレックス新潟シンガポールは日本人だけのチームで、お客さんも多くはなかったです。たとえばJリーグにブラジル人だけのチームがあるという感覚です。
僕たちは外国人なので、シンガポールという国から「あなたたちはいらない」と言われてしまえば、存在意義を失うどころかクラブがなくなってしまいます。だからこそ、他のクラブ以上に国や地域に貢献しなければいけなかった。地道な地域貢献活動を広げて理解を得て、さらに少しずつシンガポール人選手を増やすことで、地域に根ざしたクラブとして徐々にローカライズしてきました。
――ローカライズしていく過程で、サポーターの反応も変わっていきましたか?
是永:徐々にですね。機会があれば、ぜひスタジアムにいらしてください。本当に美しいんですよ。日本人もいるし、シンガポール人もいる。
――アルビレックス新潟のサポーターの温かさと、シンガポールのサポーターの温かさが重なっているような感覚もあるのでしょうか?
是永:そう。不思議なんですが、うちのクラブは、アルビレックス新潟と文化が似ている感じがするんです。他のクラブはそうでもなくて、もっと熱くて激しいサポーターもいます。僕が新潟の社長を務めることになった時、一番印象に残っているのが、2019年、なかなか勝てなかった時期のことです。本当にクラブがなくなるかもしれないと思うくらい、経営面でも厳しい状況でした。試合に負けた後、サポーター何人かに囲まれたので、怒られるのかなと思ったんです。そうしたら、「社長、私には何ができますか」と次々に言ってくれたんです。あの瞬間はなんというか本当に温かくて、一生忘れられません。これはすごいことだなと感じたんです。そして最近のうちのクラブも、少しずつそういう感じになってきています。
子どもたちがつくる、平和なスタジアムの風景
――長く応援してくれている日本人サポーターと、シンガポール人サポーターが織りなす雰囲気の良さも影響しているのでしょうか。
是永:それもあるかもしれませんね。あとは、サッカースクールの子どもたちや、チアダンススクールの子どもたちが応援に来てくれます。多い時は、子どもたちだけで100人以上がまとまって応援してくれることもあります。その点はシンガポールの他のクラブとは違う部分で、そういう空気がベースにあるから、スタンドが平和なんだと思います。
――最近は是永チェアマンご自身もSNSでの発信が増えています。クラブの考えやスタジアムの空気を伝えていくことも、ローカライズの一部なのでしょうか。
是永:ちょっと控えめにしていた時期もありましたが、最近は発信を頑張っています(笑)。Xやインスタグラムのインプレッション数がどうやったら伸びるのかも含めて、いろいろ試しています。どうやったらもっと伝わるのかを勉強しているところです。特にXはフォロワーさんのほぼすべてが日本人なので英語での発信はしていませんが、サポーターに試合前のオフィスに集まってもらって、普段発信しているクラブの哲学の話をすることもあります。そういうことを続けながら、少しずつ想いが伝わっていけばいいかなと思っています。
――地域に根づくためには、ピッチ上の結果だけでなく、クラブが何を考えているのかを伝え続けることも大切になるのでしょうか。
是永:そうですね。クラブが何を考えていて、どこに向かっているのかを伝えていくことはとても大事だと思っています。急にすべてが伝わるわけではありませんが、スタジアムに来てくれる人、応援してくれる人が増えていくためには、そういう積み重ねが必要だと思います。
家族の共通の話題になるクラブへ
――ジュロンという地域には、どのような可能性を感じていますか?
是永:ジュロンは、シンガポールの西部の中心的な都市です。一般的にジュロンは西側一帯を指すことが多く、シンガポールの国土の約30%くらいを占める広い地域です。シンガポールの人に言わせると、「遠い」とか「工場が多くて臭い」とか、少しネガティブなイメージを耳にすることもあります。ただ、これから新しい街も作られていく予定で、国策としても人が集まってくる可能性があります。都心まで30分くらいで行けますしね。その中で、フットボールが一つのエンターテインメントとして存在できればいいなと思っています。地域や社会とつながるJリーグの取り組みである「シャレン!」の事例なども参考にして、取り入れられるものはないか、スタッフと一緒に考えています。
――以前は日本人選手を主体としたチームで、そこから海外での活動なども含めて外に広げていく印象が強かった一方で、今はより、地域に寄り添ったチームづくりへとシフトしているのでしょうか。
是永:そうですね。以前は日本人選手主体で、うちをハブにして海外のクラブに飛躍していく流れがありました。
――数年後に「FCジュロンという名前にしてよかった」と感じられる理想像はありますか?
是永:今のスタジアムの平和で美しい雰囲気がもっと広がっていけばいいなと思っています。特に、今も割合としては多いですが、さらに子どもが増えてくれたらうれしいですね。シンガポールも少子化ですが、地域の子どもたちがきてくれれば、親もきてくれると思います。そうやって家族の共通の話題になっていけば、クラブも存続していけると思います。経営面から見ても、そうした循環は大切です。でも、やっぱり幸せな空間っていいですよね。スタジアムからマイナスイオンが出ているような(笑)。
アジアを目指すFCジュロンの現在地
――シンガポール全体のサッカーのレベルについては、どのように見ていますか?
是永:25/26シーズンから外国人枠が増えて、ピッチ上に外国人選手を7人まで起用できるようになりました。そういう意味では、リーグのレベルは一気に上がりました。特にACL2(AFCチャンピオンズリーグ2)に出られるようになれば、選手にとっても大きなステップで、いろいろな国の人に見てもらえるチャンスになりますから。
――ACLに出ることの意義が、クラブにとっても選手にとっても大きいのですね。
是永:本当に大きいです。女子チームは2025シーズンで優勝して、ひと足先に、今年の8月のAFC女子チャンピオンズリーグ予選に出る予定です。それに続けて、男子も出たいですね。
――女子チームについても伺いたいです。日本人選手も多く在籍していますが、シンガポールでは、男子ほど女子サッカーの盛り上がりはまだ大きくないのでしょうか。
是永:まだそこまでの盛り上がりではないかもしれません。ただ、女子はうちと、ライオン・シティ・セーラーズという予算規模の大きなチームが毎年優勝争いをしていて、その直接対決で勝ったほうが優勝、というリーグになっていると思います。今季も勝ちたいですね。
【連載前編】本田圭佑はなぜFCジュロンを選んだのか。是永大輔チェアマンが語る“クラブの土台をつくる補強”
【連載後編】FCジュロン是永大輔チェアマンが語る経営と冒険「シンガポールで100年続くクラブをつくる」
<了>
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[PROFILE]
是永大輔(これなが・だいすけ)
1977年生まれ、千葉県出身。FCジュロン チェアマン。日本大学芸術学部卒業後、IT企業でサッカーメディア事業に携わり、サッカージャーナリストとして欧州を中心に世界各国で取材を行う。FCバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールなど海外クラブとのビジネスにも携わった。2008年、アルビレックス新潟シンガポールのCEOに就任。クラブの経営を立て直し、スクール事業、飲食事業、カジノ事業など多角的な展開で黒字化を実現した。チームも強化し、2016年から2018年まで3シーズン連続で国内タイトル全制覇を達成。2019年にアルビレックス新潟代表取締役社長に就任し、2020年11月に同職を辞任。アルビレックス新潟シンガポールは2004年からシンガポール・プレミアリーグに参戦し、2026/27シーズンよりFCジュロンへ名称変更。同シーズンから本田圭佑が加入することも発表し、シンガポールと日本をつなぐ存在として新たな挑戦を進めている。



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