女子FAカップ決勝という特別な舞台は、今のイングランド女子サッカーの熱量をどのように映し出すのか。5月31日、ウェンブリー・スタジアムで行われる決勝で、クラブ史上初の優勝を目指すブライトンは、マンチェスター・シティと対戦する。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=REX/アフロ)
ウェンブリーの決勝へ。高まる日本人選手の存在感
――5月31日にウェンブリー・スタジアムで行われる女子FAカップ決勝に臨む今の気持ちと、ウェンブリーという舞台への思いを聞かせてください。
清家:最初からウェンブリーを目指してやってきたというよりは、結果として今、そういうチャンスが訪れているという感覚です。ここまできたら優勝したいという気持ちが強いです。
イングランド人選手やヨーロッパの選手たちは、ウェンブリーに対する特別感を強く持っています。準決勝前から「勝ったらウェンブリーだよ」「ウェンブリーに行こう!」という言葉が出ていて、夢の舞台なんだと伝わってきました。自分自身は、3月の男子代表戦を見に行ったのが初めてで、プレーしたことはまだありません。正直、そこまで実感できていなかったのですが、準決勝が終わった後、サポーターも選手もずっと「ウェンブリーに行こう」と歌っていて、まるで優勝したみたいな雰囲気でした。周りの空気感から、「そんなにすごい舞台なんだ」と感じています。
――今回の決勝では、マンチェスター・シティとブライトンを合わせて、日本人選手が7人ピッチに立つ可能性があります。
清家:今は毎試合のように日本人選手と対戦しているので、WEリーグでプレーしていた時よりも敵対心のようなものは薄れて、なでしこジャパンでも一緒にプレーしている同志という感覚のほうが強いです。もちろん試合中は負けたくないのでバチバチしますけど、お互いの良さをわかった上で、その力を出し合って戦えることが楽しみです。
――今シーズンはWSL(ウィメンズ・スーパーリーグ)でプレーする日本人選手が一気に増えました。海外の選手たちから見た日本人選手への評価や見方の変化を感じることはありますか?
清家:移籍市場が開く時期が近づいてくると、チームメートからも「誰でもいいから日本人を呼んでくれないか」と言われるようになりました(笑)。それだけ日本人選手への期待が高まっているのかなと思いますし、評価されている実感もあります。
強豪相手にも揺らがない。積み上げた2年目の成熟
――今シーズンのブライトンは、ダリオ・ヴィドシッチ監督の2年目で、保持しながら崩す場面が多くなり、上位チーム相手にも勝ち切る試合が増えました。チームとして、どんな手応えを感じていますか?
清家:今シーズンはディフェンスラインのメンバーが変わり、(センターバックの南)萌華が加入したことで、ビルドアップの部分が去年と比べてかなり安定しました。後ろが安定したことで、監督が表現したいサッカーが表現できるようになり、チームとして成熟してきている感覚があります。自分自身、去年よりもいい形でボールを受けられたり、味方がボールを持った時にすぐ自分を見つけようとしてくれたりする場面が増えました。そういう意味ではチーム内での評価や信頼感も上がっていると感じますし、1年目よりも少し余裕を持って、自信を持ってプレーできていると思います。
――加入当初は、ブライトンで求められる役割と、三菱重工浦和レッズレディースで積み上げてきたフィニッシャーとしての役割との間にギャップもあったと思います。
清家:あります。チームとしても自分の良さをわかって、うまく活かせるような戦術を取ってくれていますし、自分もそこにフィットできてきたので、個人としても去年より満足のいくプレーができていますし、それをチームに還元できている感覚があります。チームもFAカップ決勝まで行けたので、お互いに良くなってきているのかなと思います。
――今シーズンは公式戦全体で11ゴール3アシストを記録しています。チャンスを決め切る力について、自分の中でつかんだ感覚はありますか?
清家:決め切れている感覚はあります。ただ、チャンス自体はそこまで多くないですし、チームでもシュート練習はほとんどやっていなくて、その前の作りの部分に時間をかけています。自分がボールを受ける位置に再現性があるので、「この時はこうしよう」「この場面ではこうしよう」と整理できて、ゴール前でも落ち着いて判断できています。
逆転負けを糧にしたチームの成長
――FAカップ準決勝のリヴァプール戦では、2点ビハインドから逆転勝利を収めました。シーズン終盤にかけて、勝負強さやチームの勢いも高まっていたのでしょうか?
清家:今シーズンは逆転負けの試合も多かったんです。リードしていて、ボールも握っているのに、後半の終盤やアディショナルタイムに逆転されるような試合が結構ありました。自分自身、その敗戦から学んでいますし、チームとしても、次の週にメンタル系のトレーナーの方が中心になって、チームメートみんなで話し合う時間もありました。「こういう時は、こういうプレーをしたほうがいいよね」という整理ができて、少しずつ戦い方が成長してきたと思います。
4月後半から、強い相手との試合が続きましたが、変に力まず、自分たちのやりたいサッカーにフォーカスした中で結果がついてきたことは自信になりました。
――ブライトンがクラブ史上初のFAカップ決勝まで進めた要因を、清家選手自身はどう感じていますか?
清家:チームが目指しているサッカーの質が高く、そこに近づくほど勝てるサッカーになってきていると感じます。チームとして進んできた方向性が間違っていなかったからだと思います。
――決勝で対戦するマンチェスター・シティには、4月25日のリーグ戦で3-2で勝利しました。清家選手自身も逆転弾を決めましたが、あの試合で得た自信や、シーズン終盤にかけてチームとして見えてきた手応えをどう感じていますか?
清家:あの試合も、最初の10分くらいはかなり押し込まれて、監督からも「プレッシャーを感じて、自分たちがやってきたものを出せずに逃げている」と怒られました。ただ、自分たちが積み上げてきたものを出せれば流れは変えられるという感覚があって、そこにフォーカスしたことで後半に逆転できて、それが自信にもなりました。シーズン終盤にかけては、味方から自分への信頼度も上がってパスが来るようになり、1対1で仕掛けて突破する形から点を取れる場面も増えました。今はチームとしての完成度がかなり上がっていますし、シティ戦も個人的には苦手意識はありません。
「戦術対戦術」の中で磨かれる役割
――WSLでは、試合ごとに相手の出方に合わせて戦術的に変化するレベルの高さを感じます。日本との違いも含めて、戦術面の緻密さは感じますか?
清家:感じますね。本当に戦術対戦術、という感じがします。自分はあくまでその中の一つのコマで、個人としてできるプレーには限りがありますが、その中で自分の良さを最大限に発揮することが、チームの戦術を高める、という考え方でプレーしています。日本では局面ごとの技術や個人の駆け引きに委ねられる場面も多かったですが、こちらに来て、チームの戦術に適応する感覚がかなり強くなりました。
――戦術理解やチームメートとのコミュニケーションが英語で行われる中で、難しさもあったと思います。
清家:そうですね。ブライトンでは、フィジカルや技術よりも、戦術理解にかける時間が一番多いです。監督が毎日の練習で、「こうなった時はこうする」とかなり緻密に伝えてくれるので、コミュニケーション量も多く、意思疎通は取れていると思います。
――パスやコントロール、キックなどの技術的な部分は、ある程度選手に委ねられているのでしょうか?
清家:それはあると思います。ただ、たとえば狭いところにパスを通す時に、日本では「速いパスを通せば通る」という考え方で、パス&コントロールのスピードを上げることが多いと思います。でも、ブライトンでは、練習から「速くなくても通るパス」をつないでいる感じがあります。日本人のように止める・蹴る技術がうまくなくても崩していける戦術を取っているからです。実際、足元の技術が不安定な選手もいますけど、ポジションや距離感、受ける場所が整理されているから、戦術の中でフィットしていけるし、技術に頼らずにチームとして崩していけるんだと思います。
――ブライトンは、守備の行き方も前から行く時と構える時があり、かなり整理されているように見えます。2年目でチームに浸透してきた感覚はありますか?
清家:戦術的な練習も長いですし、守備の行き方もしっかり決まっています。毎日、練習前に30分くらいミーティングもあります。2年目の選手も多いので、自然と染みついてきているのかなと思います。
FAカップとウェンブリーが映す、英国のフットボール文化
――イングランド女子サッカーは観客動員やクラブ投資などの商業面でも、世界で最も勢いのあるリーグだと思います。その熱量や注目度の変化は感じますか?
清家:感じます。「FAカップ」「ウェンブリー」という言葉が本当に特別なんだと思います。サポーターだけでなく、街の人たちからも「頑張ってね」と声をかけてもらうことがあります。イギリス人にとってフットボールがどれだけ身近で、その中でもFAカップとウェンブリーがどれだけ大きいのか、身に染みて感じています。
――ブライトンの街やサポーターとの関係で、印象に残っていることはありますか?
清家:ブライトンの街自体は、常にフットボール一色という感じではありません。ユニフォームを着ている人が街にたくさんいるというより、旅行者や地元の人たちが自然に混ざっている街です。ただ、スタジアムに行けば熱烈なサポーターがたくさん来てくれるので、本当にありがたいですね。
――決勝では、どんなプレーを見せたいですか。7万人以上が集まるウェンブリーで、どんな景色を思い描いていますか?
清家:正直、まだ想像がついていません。ブライトンの女子チームの普段のホーム戦は2000人、3000人くらいの規模ですし、シティもそこまで大きな差があるわけではないと思います。それでも、決勝には7万人、8万人集まると言われているので、どういう客層が来るんだろう? ということは純粋に気になっています。
――結果だけではなく、自分たちが積み上げてきたものを表現したいという気持ちが大きいのでしょうか?
清家:そうですね。自分たちが用意してきたものと、シティが用意してきたもののぶつかり合いになると思うので、もちろん勝ちたいですが、結果がどうなるのかは自分自身も楽しみです。
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<了>
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[PROFILE]
清家貴子(せいけ・きこ)
1996年8月8日生まれ、東京都出身。ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンWFC所属。三菱重工浦和レッズレディースの下部組織を経て、2015年にトップチーム昇格。2023-24シーズンのWEリーグで得点王、ベストイレブン、MVPの個人3冠を受賞。日本代表として2023年FIFA女子ワールドカップ、2024年パリ五輪に出場し、2026年AFC女子アジアカップ優勝を経験。2024年夏にブライトンへ移籍し、加入2年目の2025-26シーズンは公式戦11ゴール3アシストを記録し、チーム内投票で選ばれる年間プレイヤー賞を受賞。FAカップではクラブ史上初の決勝進出に貢献した。



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