7度のF1世界王者、かつての“脅威の新人”ルイス・ハミルトンは41歳になった。全盛期のような圧倒的支配はもうない。
(文=辻野ヒロシ、提供=FOD INFO MOTOR 編集部、写真=REX/アフロ、ロイター/アフロ)
7度の世界王座、F1のカリスマは41歳に
2010年代の「F1世界選手権」を席巻したレーシングドライバー、ルイス・ハミルトン。2007年にいきなりトップチーム体制のマクラーレン・メルセデスでF1デビューを果たし、2008年には23歳の若さで初のワールドチャンピオンに輝き、「メルセデス」の黄金時代には6度のワールドチャンピオンに輝いたF1界のカリスマだ。
今年F1参戦から20シーズン目を迎えたルイス・ハミルトンの年齢はすでに41歳を迎えた。F1参戦1年目から優勝を飾り、F1日本グランプリ(富士スピードウェイ)でもルーキーイヤーでウイナーとなった印象からか、今も「脅威の新人現る」という当時のファンの記憶は色褪せていない。それだけにハミルトンが41歳になったという事実には改めて驚かされる。
彼は長く在籍した「メルセデス」を離れ、2025年から「フェラーリ」に移籍。この転身が発表されたのは2024年のシーズン開幕前のこと。ミハエル・シューマッハと並ぶ歴代最多王者の電撃移籍は本当に衝撃的なニュースだった。
「フェラーリ」は「F1世界選手権」が始まった1950年から参戦を続ける、F1に絶対不可欠なチームである。
ミハエル・シューマッハは2006年にフェラーリで1度目の引退をした。その後もキャリアは続くことになったが、フェラーリ移籍時のフェルナンド・アロンソやセバスチャン・ベッテルもフェラーリでキャリアを終えるだろうと考えられていた。40代を迎えたルイス・ハミルトンもまた同じく「フェラーリ」をキャリア最後のチームにしようと考えていてもおかしくない。
幾度となく引退説も囁かれていた昨今のルイス・ハミルトン。2021年の最終戦でマックス・フェルスタッペンとのドラマティックなチャンピオン争いに敗れ、数カ月間にわたって沈黙状態となった。その時もこのまま引退するのではないかと噂されるほどだった。
年齢的にはいつ引退してもおかしくはないのだが、新時代のF1へと移行した今季のルイス・ハミルトンは「過去の自分の考えは間違っていた」と語り、新天地の「フェラーリ」で再びやる気を見せている。
出走回数は今年400戦に。それでも消えない“勝利への執念”
今年F1で20年目を迎えたルイス・ハミルトンのキャリアを振り返ってみると、ドライバーズチャンピオン7回(最多記録タイ)、優勝105回(最多記録)、表彰台203回(最多記録)、ポールポジション104回(最多記録)と誰も簡単には超えられない歴代最多記録ばかり。それまで最多記録を持っていたミハエル・シューマッハの最多記録で越えられていないのはドライバーズチャンピオンとフェステストラップ回数くらいだ。
現在は1シーズン24戦が設定されており、過去の年間16戦やそれより少なかった時代の記録を超えてくるのは当然といえば当然。ルイス・ハミルトンが優勝できなかったシーズンは2022年、2023年、2025年の僅か3年だけというのも驚きだ。新世代ドライバーのマックス・フェルスタッペン全盛の時代がやってきた直近の5シーズンでは僅か2勝しか飾っておらず、極端に勝利数が減少。「フェラーリ」に移籍した昨年はついに(決勝レースで)一度も表彰台に登ることができなかった。
ルイス・ハミルトンは「メルセデス」時代に最強マシンをドライブし続け、記録を一気に伸ばしてきたが、若き時代の「マクラーレン」所属期も毎年のように優勝を飾ってきたことを考えると、ここ数年は低迷しているといえよう。
彼は繊細なメンタルの持ち主でもあり、ストイックに自分の信念を貫くタイプのドライバーだ。レースに集中するために周りの雑音を遮断し、自分が正しいと思うことに真っ直ぐに取り組む人物である。環境と動物への配慮からヴィーガン(完全菜食主義)を貫き、独自の栄養学が自分の身体にもたらす効果をポジティブに捉え、レースに勝つための身体づくりやメンタルコントロールを行ってもいる。今や世界中のあらゆるアスリートが独自の手法で身体づくりを行う時代になり、決して特異なことではないが、ルイス・ハミルトンはF1で一人のアスリートとして最大限のパフォーマンスを出すために、ストイックに取り組む姿勢を示したパイオニアといえる。
ルイス・ハミルトンのF1出走回数は2026年日本グランプリで383戦。今年中には400戦の大台に乗る。400戦を超えているドライバーは6年早くF1デビューしたフェルナンド・アロンソしかいない。
フェラーリ2年目で復活の兆し。41歳ハミルトンが再び表彰台へ
今季のF1は新レギュレーションにうまく対応した「メルセデス」が圧倒的な強さを見せているが、そこに対抗する勢力の一つが「フェラーリ」だ。決勝後半では明らかな差が生まれてしまっているものの、「フェラーリ」は昨年に比べて明らかにコンペティティブであり、特にスタートダッシュにはアドバンテージがある。
「フェラーリ」は開幕からの5戦でシャルル・ルクレール、ルイス・ハミルトン共にスプリントレースを含めたすべてのレースでポイントを獲得。取りこぼしがなかったことはとてもポジティブな要素といえるだろう。ルイス・ハミルトン自身も第2戦中国で「フェラーリ」加入後初となる決勝レースでの表彰台を獲得すると、第5戦カナダではマックス・フェルスタッペンとの激しいバトルを制し2着でフィニッシュ。より結果が求められるフェラーリの2年目でプレッシャーをものともせず、衰えをまったく感じさせない走りでファンを喜ばせている。
今季から導入された新レギュレーションが生む、抜きつ抜かれつのレース展開には、長年のファンやドライバーから批判の声が相次いでいる。しかしながら、ルイス・ハミルトンは「自分がキャリアをスタートさせたレーシングカートの時代を思い出し、楽しんでいる」とポジティブに捉えている。かつては最強マシンに乗り、チャンピオン街道を爆進した時代もあったルイス・ハミルトンから発せられた予想外なコメントである。このコメントからも、彼がストレスから解放され、ポジティブな姿勢で今季に取り組んでいることが汲み取れ、何より追う側としてのモチベーションの高さを感じさせる。
今季、41歳のベテランがシーズン中盤あたりから優勝争いに絡んでくるレースが増えれば、より今シーズンのF1は面白くなるだろう。
<了>
【FOD INFO MOTOR 編集部】
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