「ユースのほうが強い」「高校サッカーのほうが成長できる」……。長年、高校年代の育成を巡って語られてきた「Jクラブユースか、高体連か?」という論争。
(文・撮影=土屋雅史)
「ユースが上」はもう古い? 指導者たちが語る現在地
「大きな差はないんじゃないでしょうか。高体連にもテクニカルなチームが多いですし、戦術的にもすごく整理されたチームが多いので、Jリーグの下部組織と比べても遜色なくというか、むしろ上回っている部分もあるのかなと思います」(鹿島アントラーズユース・中野洋司監督)
「高体連のチームもみんなプレミアで十分やれると思いますよ。もちろんその年によって選手は違いますし、その中でどうやりくりするかという中で、それでも本当にやりたいことがやれるという意味では、高体連だから、ユースだから、という差はそんなにないんじゃないですか」(前橋育英高校・松下裕樹コーチ)
昨シーズンの高円宮杯プレミアリーグチャンピオンに輝いたJクラブユースを率いる指揮官と、一昨年度の高校選手権で日本一を経験した高校のサッカー部を指導するコーチは、こちらの「プレミアリーグの中でJクラブユースと高体連に差はありますか?」という質問に、同じようなニュアンスの内容を答えてくれた。
前橋育英と大津が示す“継続性”の重要性
2018年以降は、高校年代の中でもプレミアリーグに重点を置いて取材してきた身として、ことプレミアに関して言えば、サッカーの競技面においては、Jクラブユースと高体連のチームに、大きな違いはなくなってきていると感じている。
例えば昨シーズンのプレミアEASTで、最もビルドアップが巧みに見えたのは前橋育英高校であり、同様にプレミアWESTを見渡した時に、最も攻撃に再現性があったのは大津高校だったと思う。この両チームは一貫してボールを大切に動かすスタイルを志向しており、それに憧れて門を叩く中学生も少なくない。その積み重ねがプレミアの舞台でも存分に発揮されているというわけだ。
その背景には「継続性」というキーファクターが浮かび上がる。前橋育英は山田耕介監督が40年以上の時間を掛けて、丁寧なパスワークをベースに置く戦い方にたどり着いた。山田監督は今季からザスパ群馬のGMに就任したため、現在は実質の指揮を執っている松下裕樹コーチも同校のOBであり、そのスタイルは熟知している。
大津も平岡和徳テクニカルアドバイザーが30年近く指導に当たっており、攻撃的なサッカーがチームのフィロソフィーとして根づいている。やはり同校の卒業生である山城朋大監督も、自身の高校時代から貫かれているスタイルをベースに、守備面にもより目を向けたことで、2024年度はWESTで初となる高体連勢のリーグ制覇を達成。内容と結果の両輪を、高い次元で回している。
興味深いのはイメージが共有されていると、やはりチームがその輪郭を帯びていくことだ。
今季の前橋育英は去年からのレギュラーが1人しか残っておらず、新チーム発足時から攻撃の構築に苦戦しており、プレミア開幕戦も流通経済大柏高校に完敗。選手たちが先行きに不安を感じていたことは、その表情からも十分に見て取れた。
だが、第9節の鹿島アントラーズユース戦は、前年王者相手にポゼッションで上回り、3度負ったビハインドをすべて追いつき、最後は後半アディショナルタイムの決勝点で逆転勝利。「ビルドアップもシーズンが始まる前より、絶対今のほうが良くなっていますし、鹿島相手にちゃんとボールをつなげたのは成長していると思います」と試合後に言い切ったのは攻撃を司るボランチの笹蒼尉。プレミアでのシビアな戦いを通じて、やはり彼らもちゃんと前橋育英になっていくのが面白い。
佐野海舟と佐野航大を輩出した米子北スタイル
明らかに異彩を放っているチームもある。EASTの青森山田高校とWESTの米子北高校だ。ただ、この両者も年代屈指と言っていいレベルのハイインテンシティを重視したサッカーを披露し続けており、やはりチームビルディングは継続性という文脈に沿っている。
「そこまでほかのチームと大きな差はないかなと。去年から出ている選手は1人しかいないし、身体能力が突出している選手もいないので、かなりやられるんじゃないかなと思っていたんですけど、結構やれているなと思います」と話すのは、2年ぶりのプレミアを戦っている米子北の中村真吾監督だ。
昨季のWEST王者で、今季も9節終了時点で首位に立っているヴィッセル神戸U-18を、ホームの第5節で4-0と粉砕した一戦は多くのプレミアフリークに衝撃を与えたが、やり方がハマればそのぐらいの勝ち方ができるだけの、個と戦術的なクオリティを備えているということ。米子北がこのスタイルから佐野海舟と佐野航大という、まったくタイプの異なる2人の日本代表選手を輩出していることも語り落とせない。
タレントと環境ではJクラブユース勢に一日の長?
一方で、「やっぱりJユースは本当に中学年代のトップレベルの選手に声を掛けていますし、もちろんJユースから話があった選手は、だいたいそっちに行くと思います」と前橋育英の松下コーチが口にしたように、タレントの質という点ではJクラブユース勢に一日の長があることは間違いない。
Jクラブのアカデミーにとって最も大きなアドバンテージは、トップチームとの連携が図れることだ。例えばFC東京はトップとU-18の練習場が隣り合わせになっており、“向こう側”に行くことの価値と、そこへ行くために越えるべきハードルが、ある意味ではっきりと可視化されている。
FC東京U-18の北慎監督は、より具体的な例を出して、選手たちが受けているモチベーションを教えてくれる。「トップの練習試合もU-18の選手は隣で見ていたりする中で、去年まで一緒にやっていた、U-18から昇格したルーキーの選手が“向こう側”でプレーしている姿を見られるわけで、良い刺激を受けられる環境ですよね」
実際にFC東京のトップには17人ものアカデミー出身者が顔を揃え、佐藤龍之介のようなA代表経験者もすぐ“向こう側”でトレーニングに励んでいる。加えて昨季のうちにトップデビューを果たした16歳の北原槙も、U-18の選手たちにとっては目指すべき存在。このポジティブなサイクルは、高体連にはない彼らの特徴だ。
Jクラブユース勢の中でも、育成面で大きな成果を挙げている筆頭格は川崎フロンターレU-18だろう。カタールワールドカップでは三笘薫、板倉滉、田中碧と3人のOBが躍動。
プレミア初昇格は2022年と比較的最近だが、その年に高井と大関を擁していきなりEAST制覇を達成。長くU-18の指導に当たってきた長橋康弘前監督のトップチームコーチ就任に伴い、昨季からは森勇介監督が指揮を任されているが、森監督もクラブOBであり、川崎のアカデミー指導者に求められている役割は、過不足なく理解している。
その森監督の言葉が印象に残っている。
「世の中の流れに逆らっていきたいかなと思いますね。自陣でつなぐのが全部得だとは自分も思わないですけど、そういう中でズレを作りながら前進していくと、相手も嫌がるというところを意識してやっていかないと、ウチのエンブレムを付けてやるサッカーの意味がなくなるかなと。そこは一貫して下からやっていこうということは、アカデミーのスタッフみんなで話しています」
ここでも継続性というキーワードは外せない要素。指導者は数年単位で変わっていくのが、Jクラブユース勢の宿命である一方で、クラブとして、アカデミーとして、明確なフィロソフィーとアイデンティティを確立させ、多少時間がかかってもそれを浸透させることが、チームの成長も、個々の成長も促進することを、彼らは証明しつつある。
200人の競争が生む成長。高体連だけが持つ強み
ただ、チーム全体の底上げという意味で、保有選手を絞っているJクラブユース勢は少数精鋭の難しさも抱えている。
「高体連にはセカンドチームやサードチームもあるので、より激しい競争から逞しい選手が出てくるのかなというところと、その競争を勝ち抜いてくる選手たちが、シーズンの後半に台頭してくるので、高体連のチームはシーズンの後半にかけてすごく力が上がってくるイメージがありますね」と語るのは鹿島ユースの中野監督。2026年シーズンでいわゆるBチームがプリンスリーグに所属しているJクラブユース勢は、鹿島ユース、ヴィッセル神戸U-18、サガン鳥栖U-18の3チームのみとなっている。
200人以上の部員を抱える大津が実施している“校内リーグ”という強化策は、ぜひ多くの人に知ってもらいたい取り組みだ。それぞれプレミア、プリンス九州1部、プリンス九州2部、熊本県2部リーグに参戦している4つのカテゴリーのメンバーに入れなかった選手は、週末にサッカー部内で開催されるリーグ戦でプレーする。
通年で戦うチームに分けられ、同じ部員同士が真剣勝負を繰り広げる校内リーグは、もちろんスタッフ陣も見守っているため、ここでのパフォーマンスが認められれば、順次各カテゴリーへと引き上げられていく。
昨季のプレミアで不動のボランチとして躍動し、8強入りした高校選手権でも主力としてプレー。大会後は日本高校選抜のメンバーに選出された福島悠士も、2年時のスタートは校内リーグでプレーしていた選手。彼の活躍が後輩たちに与えた影響の価値は言うまでもない。
また、今季のEASTで首位を走っている流通経済大柏の中盤4人のセットは、そっくりそのまま昨季のプリンス関東2部に出場していたカルテット。中でもアンカーを務める内田煌生の昨年を振り返ると、前期は千葉県1部リーグで全試合に出場していたものの、夏の遠征での好調が認められ、後期からプリンスで出番を勝ち獲り、年末には何とU-16日本代表に招集されるまでに成長を遂げた。こういったチーム全体に活気をもたらすような、激しい競争の中から生まれる成長譚は、高体連のチーム特有の“シンデレラストーリー”だ。
三冠王者・鹿島ユースが体現するユース勢の“競争力”
そんな前提の中で、Jクラブユース勢でも異質の競争力を誇っているのが、2025年のプレミア、クラブユース選手権、Jユースカップと高校年代三冠を達成した鹿島ユースだ。前述したように同ユースはBチームがプリンス関東2部を戦っているが、このカテゴリーの使い方が他のチームとは一線を画している。
そもそも鹿島ジュニアユース、鹿島つくばジュニアユース、鹿島ノルテジュニアユースと、3つの3種年代のチームを保有しているうえに、実力を認められた中学生たちはプリンスでコンスタントにプレーする機会を与えられていくのだ。
さらに、今季もジュニアユース所属の磯部怜夢が昌平高校相手に鮮やかなゴールを決めてしまったが、彼のように中学3年生のうちにプレミアに出場する機会が与えられることも少なくない。つまり、ユース内での競争の幅がもはや中学年代にまで及んでいることになる。
先月まで行われていたAFC U17アジアカップに、鹿島ユースからは5人の選手が招集されており、今季のプレミア登録選手を調べると、年代別代表に一度でも呼ばれたことのある選手は、実に15人にものぼっている。これは他クラブと比較しても、驚異的な数字だ。
今やプレミアに在籍するチームにおいて、高体連とJクラブユースを明確に区別する壁のようなものは、ほとんどなくなりつつある。それぞれが、それぞれのスタンスでこのリーグに臨んでいく中で、おそらく安定した結果を生み出すためにより求められるのは、継続性と競争力。個性豊かなチームが居並ぶこのリーグを、今後もこの2つの要素を念頭に置きながら、注視していきたい。
<了>
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