昨年7月、それまでサポート・メンバーだったAAAMYYY(Syn、Ch)が正式加入し、3人組の新体制による初のレコーディングとなった本作は、これまで以上にリズムが強化され、ヒップホップやネオソウル、ファンクなど主にブラックミュージックのエッセンスを取り込んだ強靭なグルーヴは、ライブでより威力を発揮しそうだ。
先日は藤本夏樹(Dr)が、水墨画アーティストCHiNPANとの間に第1子となる女児が生まれたことを発表。それにインスパイアされた小原綾斗(Vo、Gt)がすぐさま名曲「そなちね」を書き上げるなど、公私ともに充実した日々を送る3人。もうすぐ始まるツアーを前に、アルバム制作秘話やライブへの意気込みなどたっぷりと聞いた。
─『21世紀より愛をこめて』は、未来に向けてのメッセージ、いわゆる「タイムカプセル」みたいだと思ったのですが、こういうテーマはどこから思いついたのでしょうか。
小原:昔、「Voyager Golden Record」(ボイジャーのゴールデン・レコード)が話題になったじゃないですか。波の音や動物の声、様々な国の音楽など地球の情報をレコーディングして宇宙に飛ばし、いつか宇宙人が見つけた時に「地球にはこういう文化があるんだよ」って知ってもらうためのレコード……半分冗談みたいな、でもすごくロマンティックな計画がかつてあったことにインスピレーションを受けました。
今おっしゃったように、タイムカプセルのようなものですね。21世紀が終わった後、僕らの子孫がこのアルバムを見つけ、再生した瞬間この時代の匂いを少しでも感じてもらえたらいいなって。「何か、残さないといけない」という思いもありました。長い歴史の中で見れば、本当に大したことのない存在ではあるのですが。
─「残さないといけない」みたいに思ったのは、やはり元号が「令和」に変わったというのは大きい?
小原:別に、何かしらの「責任感」があったわけでもないんですけど。
宇宙に対する憧れ
─NASAといえば、前作『from JAPAN 2』に収録された「革命前夜」では、アポロ11号の打ち上げカウントダウンをサンプリングしていましたよね。「宇宙」に対する憧憬みたいなものは、小原さんの曲作りにインスピレーションを与えているのでしょうか。
小原:どうなんでしょう(笑)。たぶん、SFものが好きだったんですよね。妄想はしょっちゅうしているんですけど、それがたまたま宇宙に向かったというか。宇宙って、すごく遠くて掴みどころがないじゃないですか。そういうところに儚さを感じるのかもしれないですね。
─「22世紀以降の世界」って想像できます? 夏樹さんは最近お子さんが生まれたことで、以前よりも未来の世の中がどうなっているか、気になるのではないですか?
藤本:本当にそうですね。もっと知らなくてはならないことがたくさんあるなって。前よりは考えるようになりました。
AAAMYYY:22世紀というと……2101年以降か。
─「人造インゲン」で歌っているのは、AIが進化し過ぎた未来のディストピアなのかと思いました。
小原:あれは、ソフィアというサウジアラビアで初めて市民権を得た女性型ロボットを題材にしています。サウジアラビアって、今も女性の人権が蔑ろにされているというか、男尊女卑が酷いんですよ。なのに、その女性型ロボットに市民権を与えて、首都リヤドで開催された今年のFuture Investment Initiativeでスピーチをさせている。そのスピーチ内容を歌詞に引用して作ったのが、「人造インゲン」なんです。
Photo by Nariko Nakamura
─歌詞にも出てくる「Do you want to destroy human?」「Okay, I will destroy human」というやり取りが、実際にあったみたいですね。
小原:ただ、別にそういう現実に対して何か警鐘を鳴らしたかったわけでもなくて。”人工知能解放 将来が心配じゃなくなるよ”とポジティヴに歌うことにより、かえって恐怖を感じるような内容にしたかったんですよね。ソフィアが「一家に一台」という時代が来ることを、当然のように歌う方が怖いじゃないですか?
事前にメンバーに送った「アルバム用参考プレイリスト」
─今回、サウンド的にはどんなテーマがありましたか?
小原:「ちゃんと伝わるものにしよう」ということを考えましたね。例えば、Gapとのコラボ曲だった「革命前夜」も、音質次第ではもっと届いたんじゃないか? という思いがあるし。
藤本:そう、今までのTempalayは、好きな60~70年代のサウンドをとことん追求するバンドだったけど、もう少し今のサウンドに寄せてもいいんじゃないか? という話し合いはなされましたね。結果、そんなに変わってはいないんだけど(笑)。
小原:例えばベックの『Colors』は、アナログレコーディングなのにハイファイに聴こえるというか。そういうのを目指したつもりです。
─綾斗さんが、事前にメンバーに送った「アルバム用参考プレイリスト」には、久石譲の『菊次郎の夏』や『ソナチネ』と一緒にルイス・フューレイが入っていて、「それらをミックスした不気味な曲調を目指した」とおっしゃっていましたよね。そのプレイリストには、他にどんな曲が入っていたんでしょう。
小原:今、ここにあるんですけど……。アート・リンゼイの新しいアルバムとか、カン、ゴングなんかが入ってますね。あと、民族音楽や前衛音楽、フィッシュマンズの『宇宙 日本 世田谷』なんかも。あとはブラジル音楽とか(笑)。
─先日のインタビューで夏樹さんが「ドラムは今までよりも空間を生かしたライブなサウンドにした」とおっしゃっていましたが、全体的にリズム隊が強化されたのは、ブラジル音楽などの影響もあるかもしれないですね。「どうしよう」と「SONIC WAVE」以外の曲は、ライブのサポートもしているKenshiro(Aun Beatz)さんがベースを弾いていますが、曲作りに影響はありましたか?
小原:ありましたね。
それにTempalayって、ドラムが軸になっている曲とかそんなになくて。「のめりこめ、震えろ。」も、リズムの主軸はギターなんですよ。そういう変則的なアンサンブルを試せるようになったのも、ベースのやれる範囲が広がったからだと思います。
藤本:確かにそうだね。以前だったら、スネアは2拍4拍にしてないとアンサンブルが不安定になりがちだったけど、今は俺が主軸じゃなくなってもアンサンブルが成立するようになってきて。例えば『のめりこめ、震えろ』でもスネアの位置を変えたりしているんですけど、そういうことがやりやすくなって、引き出しも増えた気がします。
新しいものを見つけることは、時間と情熱と身を削る作業
─その「のめりこめ、震えろ。」ですが、岡本太郎にインスパイアされて歌詞を書いたそうですね。
小原:岡本太郎さんって、表ではすごくエネルギッシュでバイタリティあふれるイメージですけど、実際はものすごく怯えていた人だったんじゃないかなと思うんです。「受け入れられようとするな」みたいなことをおっしゃっていましたが、「受け入れられなきゃ意味がない」と思っていたはずなんです。そのために、誰もやっていないことをやっている。シュルレアリスムでもないし、キュビズムでもない、新しいものを見つけることは、それこそ「情熱と時間と身を削る作業」だったのではないかと。
とにかく女をたくさん抱くし(笑)、美味いものをたらふく食って酒を飲みまくる。全て「芸術」のためだと言いますが、非常に孤独な作業だとも思うんですよね。そういうところって、今はなりきれないと思う。みんな生活があるし、世間体もありますからね。太郎さんの時代が本当に羨ましいんですけど、せめて彼の「精神性」くらいは、みんな持っていてもいいんじゃないか?って。もっと芸術に向き合うというか。もっともっと心の部分で反応してくれれば、本来のあるべき芸術がもっとちゃんと必要とされると思うんです。
─そういう自由を大切にする精神性や、世の中にはびこる既成概念への問題提起、世の中への諦観と怒りみたいなものは、本作を貫く大きなテーマだと思いました。
小原:そうですね。しかもそれは、Tempalayというバンドにとって「永遠のテーマ」といえるかも知れないですね。別に、大っぴらに掲げているわけではなくて。自然とそうなっていたというか。世間における、アートへの認知の低さ、そもそも興味すら失っている感じ……なんなら「生きていく上で、必要ないもの」とされているじゃないですか。でも俺自身は必要というか、「芸術を想像することは経済にもつながる」と思っているんです。僕らTempalayが、そう意思表示をすることで、同じように思っているやつらが少しでも前に出やすい環境になればいいなという気持ちもあります。何かしら変化が起こること、状況が変わることって、絶対面白いので。
……て、なんか、真面目に話しちゃいましたけど、とにかく「楽しいんだぜ?」っていうのを示したいです。
Photo by Nariko Nakamura
─活動をしていて、不自由を感じるとかではない?
小原:不自由も感じますけどね。インタビューにしたって、言葉を直されるし。「俺は別にいいんだけどな」ということでも、会社に「ダメ」って言われ……(笑)。ちょっと理解できないところは多々ありますよ。それこそ「のめりこめ、震えろ。」のPVはPERIMETRONがプロデュースを、山田健人(yahyel)が映像監督を担当してるんですが、「音楽業界に宣戦布告するテロル集団」という設定になっているんです。
彼らは活動の中である程度、お客さんや大衆を取り込むんですけど、音楽業界にいる得体の知れない力に一撃で倒されてしまう。そのことのメタファーになっている。どれだけ突き抜けた表現であっても潰されてしまうという、さっきの話に通じるところですね。しかも、その得体の知れない何かの正体が分からないという怖さもある。
─なんとなく忖度で自主規制してしまうとか。
小原:そう。ただ、何度も言うように、そういう世の中に対して何か政治的なメッセージを声高に主張するつもりはないんです。むしろ、そこはすごく無責任でいたい(笑)。自分が書いた歌詞についても、どう解釈されたって構わないし、それこそ表現の自由だと思っています。どの立場だろうが、「これは絶対にこうだ!」と断言するやつって面白くないじゃないですか。
今回は、「おどろおどろしい中の美しさ」みたいなものを突き詰めたかった
─全く同感です。今回、アルバムの並びと同じ順番で曲作りをおこなっていったそうですね。アルバム全体のイメージは、綾斗さんの中であったのですか?
小原:ありました。昨年リリースしたミニ・アルバム『なんて素晴らしき世界』の受け入れられ方を見て、どこまで表現の幅を広げていいのかが自分の中で掴めたんです。今回は、「おどろおどろしい中の美しさ」みたいなものを突き詰めたかったんですけど、最初から順番に作っていたら、どんどん深くのめり込んでいって。もっと深く、もっと深くと進んでいくうちに、少しずつ光が見えてきて。辿り着くとそこは、恐ろしくポップな音楽が鳴っている場所だった。後半にいくに連れ、どんどんポップな曲が増えていったのは、そういう経緯があったからなんですよね。
─それは興味深いですね。順番に作って行かなかったら、たどり着かなかった境地かもしれない。
小原:そう思います。
─他に、これまでになかった新たな試みはありますか?
小原:考えてみれば、今までの僕らの楽曲って「間奏」というものがほぼなかったんですよね。「そなちね」とかすげえ間奏が長いんですけど、そういうの昔は嫌だったんですよ。でもライブをやっていくうちに、それって大事な要素だということに気がついて。歌も展開もない部分を、ただただ平熱で演奏している時間を重視するようになりました。以前だったら「ダレる」と思ってやらなかったことを、今回は結構やっている気がする。「間奏」という概念が生まれたのは大きい変化だったんじゃないかな。
─楽曲の中に、「ずっと聴いてられる」場所があるのはかなり重要ですよね。
小原:そうなんです。「美しい」の間奏なんかも、前だったら「要らない、無駄」ってなったかも知れない(笑)。でも、こういう箇所ってライブでは絶対に気持ちいいんですよ。陶酔できる。
─実はかなりライブを意識したアルバムなのですね。
小原:ステージから見える景色が前よりも広くなったのは、音楽性や曲調にも影響を与えていると思います。「このステージで鳴らしたい」っていう風に、具体的にイメージできますから。
─そういえば、マリオのことを歌う「Queen」も、ライブを意識した曲だとか。
小原:「フェスっぽい曲を作って?」って言われて作りました。「フェスといえば、山と海」「山と海なら、やはりマリオだな」と(笑)。関係ないけど、マリオの横顔ってイケメンなんですよ。「何回さらわれとんねん」ていうピーチ姫を、いつだって健気に救いに行くわけじゃないですか。顔だけでなく、性格もイケメンなんですよ。筋肉だってめちゃくちゃ凄いはず。凄いジャンプ力だし。
AAAMYYY:うん、私もイケメンだと思う。
小原:AAAMYYYはヒゲの男性好きだもんね。お父さんにもちょっと似てない?
メンバーにとってもファンにとってもTempalayは「帰る場所」
─(笑)。アルバム最終曲「おつかれ、平成」は、AAAMYYYさんがオーケストラ・アレンジを担当したそうですね。
AAAMYYY:はい。綾斗からデモが送られてきて、デモにも変なシンセのサウンドが入っていて。「なるほど」と思って一度聴いただけで聴くのをやめて、レコーディングデータをもらって「これがアルバムの最後の曲か」とイメージしながら、「変なふうにしたいな」と思ってああいうアレンジになりました。映像的には『クレヨンしんちゃん』の劇場版とか……(笑)。
小原:クレヨンしんちゃんだったとは知らなかった。曲をAAAMYYYに渡すとき、「クイーンみたいな曲にしたい」とリクエストしたよね?
AAAMYYY:あと、その時に『ゲーム・オブ・スローンズ』を観ていて、その壮大な音楽にも知らず知らずのうちに影響されていると思います(笑)。
─ところで今回は、3人体制になって初のレコーディングだったんですよね。
小原:あ、そうなるのか。
─AAAMYYYさんも夏樹さんも、ソロ・アーティストとしてそれぞれの世界観を持って活動しているわけじゃないですか。それでも「Tempalay」として集まって音楽をやっていることは、3人にとってどんな意義があるのでしょうか。
藤本:Tempalayは自分の表現というより、綾斗の表現に力を寄せるという意識でずっとやってきたし、自分のソロとは全くやっていることが違うので、被ることも滅多にない。ちゃんと住み分けできているんです。あとはバンドが好きなんですよね。ドラマーとしてやりたいことと、ソロでやりたいことも全く違うし。
AAAMYYY:私がTempalayを続けているのは、単純に綾斗の作る曲がすごく好きだから。もちろん、バンドが楽しいというのもあるし、ソロとやっていることも違うのは、それも楽しいし刺激的です。しかも、自分でいられる心地よい場所。TempalayのAAAMYYYでもあるし、ただのAAAMYYYでもある。それは3人ともそうなんじゃないかな。ちょっとした「アベンジャーズ感」はありますね。
小原:どちらかというと『アベンジャーズ』より『スーサイド・スクワット』の方が近いかな、と個人的には思うけど(笑)。何にせよTempalayが、メンバーにとってもファンにとっても「帰る場所」みたいになっていたらいいなと思いますね。
<INFORMATION>
『21世紀より愛をこめて』
Tempalay
SPACE SHOWER MUSIC
発売中
Tempalay TOUR「21世紀より愛をこめて」
2019年6月21日(金)石川県・金沢GOLD CREEK
2019年6月22日(土)新潟県:GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2019年6月23日(日)宮城県・spaceZero
2019年6月28日(金)岡山県・YEBISU YA PRO
2019年6月29日(土)大阪府・Shangri-La
2019年6月30日(日)愛知県・APOLLO BASE
2019年7月3日(水)東京都・LIQUIDROOM
2019年7月5日(金)福岡県・THE Voodoo Lounge
2019年7月6日(土)広島県・CAVE-BE
2019年7月7日(日)香川県・高松TOONICE
2019年7月20日(土)北海道・BESSIE HALL
2019年8月25日(日)大阪府・Shangri-La
2019年8月27日(火)東京都・LIQUIDROOM
https://tempalay.jp/