2017年末をもって約9年におよぶ活動を休止させたVAMPS。フロントマンだったHYDEはそのまま歩みを止めることなく、2018年6月に12年ぶりとなるソロ名義のシングル「WHOS GONNA SAVE US」をリリースし、再びソロ活動を本格化させた。
そして2019年3月には通算12作目、昨年のソロ活動再開後5枚目となるニューシングル「MAD QUALIA」をリリースした。このシングルを携えて、3月末からは上海、北京、成都、香港、台北を回るアジアツアーを実施し、5月には13公演におよぶ全米ツアーを敢行。6月から9月にかけては、7都市26公演にわたる国内ツアーも控えている。そして、この国内ツアーに合わせて6月には、ソロ名義としては実に13年ぶりとなる通算4作目のオリジナルアルバム『ANTI』を発表。
国内外の様々なソングライターやプロデューサーとのコラボを経て5枚のシングルを制作してきたHYDEだが、このコライト・スタイルは続くニューアルバムでも導入されている。海外では主流になりつつあるこのスタイルはどういった経緯で取り入れることになったのか。また、最近のインタビューで「あと3年でどこまで行けるか」など海外展開に関するタイムリミットについての発言の真意はどこにあるのか。このインタビューではVAMPS活動休止が決まりソロ活動に取り掛かったときの心境からシングル「MAD QUALIA」のテーマ、ニューアルバムの内容、海外展開に対する展望など、ここ1年半にわたる”ソロアーティスト・HYDE”の活動についてじっくり振り返ってもらった。
今はあまりのんびりしていられない
ー昨年6月の「WHOS GONNA SAVE US」から「MAD QUALIA」まで、シングルが5枚も続くとは思いもしませんでした。この構想は最初からイメージしていたものだったんですか?
HYDE いや、最初はVAMPSが活動休止になって、ツアーをやるために会場だけはブッキングしていたので「これはどうしたものかな?」と一旦全部キャンセルしたんですけど、「いや待てよ? 今やらないで2019年からスタートさせると、1年無駄になるな」と思って何としてもやりたいと思って急遽曲だけを集めたんです。でも曲を集めるのが精一杯で、そのなかで録れたのがシングル分ぐらい。
ーソロ活動を再開させた頃のインタビューで、HYDEさんはVAMPS活動休止が決まった際、最初は休もうと考えていたそうですね。でも「1年無駄になる」と思ったのは、音楽に対する貪欲な気持ちが勝ったということなんでしょうか?
HYDE 貪欲とは違うんですけど、自分にタイムリミットがあると思っていて、逆算していくと今はあまりのんびりしていられないなと。今は波にも乗っていないのに休憩している場合じゃないと思ったんですね。
ーそのタイムリミットというのは、これから海外で下地を作っていくうえでの、ということですか?
HYDE それもそうですが、今はロックバンドとして激しい音楽を求めているので、これがいつまで許されるのかなというのも正直あるので、そういった意味でもタイムリミットを意識して、常に逆算して生きています。
ーなるほど。だからまず曲を集めて、アルバムは後付けで考えて録れるものから録ろうと。それにしても、1年も満たない期間にシングル5枚というのは、これまでの活動でもレアなケースですよね。一方で、海外ではシングルという形態自体消えつつありますが。
HYDE 配信だと線引きが難しいですよね。
ー配信が主流になったおかげで、アルバム曲がそのままチャートインするような状況です。
HYDE まあ、名刺代わりですよね。推し曲としてのシングルは存在しているし、日本ではまだまだ主流だと思うので。ミュージックビデオも作るし、そういう意味でも宣伝のために出すという感じですね。
ー宣伝というのはHYDEさんご自身の活動に対してであり、この先のアルバムのためでもあると。
HYDE うん、両方ですね。僕はHYDEという名前自体がまだまだ知られてないと思っていて。日本ではもちろんLArc~en~Cielの存在を通してご存知の方が多いでしょうけど、海外ではまだ活動を始めたばかりなので、そのための宣伝材料を作っている感じです。
ーでは、シングルをリリースする順番というのも、HYDEさんの中で戦略的なものがあったんでしょうか?
HYDE なんとなくですね。「WHOS GONNA SAVE US」は最初の時点で完成していたので、最初に出したいなと。その後に「AFTER LIGHT」を出してというところまでは決まっていて、以降は「この曲どうだろう?」とかいろいろ相談しながら作っていきました。
タガが外れてより自由な発想に
ー「MAD QUALIA」以前の4曲は昨年のライブツアーでも先行披露されていましたけど、この曲を5枚目のシングルに選んだ理由は?
HYDE 先にタイアップ(アクションゲーム『デビル メイ クライ 5』イメージソング)が決まっていたんですけど、ライブで盛り上がって『デビル メイ クライ』にもハマる曲というのを決め打ちで作っていきました。
ータイトルにある〈QUALIA〉という単語はあまり耳慣れない言葉ですよね。
HYDE そうですよね。要は、みんなが見ている色は本当に同じ色なのか……?ここで僕たちが見ている青は青と認識できるけど、あなたが見ている青は、僕にとっては赤かも知れない。実はその違いって目を交換でもしないかぎり証明しようがないじゃないですか。それが〈QUALIA〉という言葉なんです。一方で、ずっと2人で口論していると「自分がおかしいのかな?」とか、どっちが正しいかわからなくなることもありますよね。僕は正当だと思って言ってるけど、ひょっとして自分の頭がおかしいから向こうは必死になって言ってるのかな?とか、誰も証明しようがない、その発想が面白いと思って、歌詞にしようと考えたんです。
ーそこから『デビル メイ クライ』の世界観にリンクさせたと。そういうタイアップならではの楽曲作りは、普段の楽曲制作とは違った面白みがあるものなんでしょうか?
HYDE 僕、そういうのが好きなんですよ。映画の主題歌とか頼まれると燃えるタイプ(笑)。自分も映画の監督になった気分になって、「この映画を盛り上げるには、どういう曲がいいだろう?」とか一生懸命考えるんです。これはよく思うことなんですけど、ただタイアップしただけで、その対象と全然関係ない曲が使われたりもするじゃないですか。そういうのがものすごくショボいと思ってしまって(笑)。
ーその曲を聴くと、映画の場面が自然と思い浮かぶものも多いですよね。それこそエアロスミスの「I Dont Want To Miss A Thing」(映画『アルマゲドン』主題歌)なんてまさにそうですし。
HYDE そうそう、そういうことです。そういう曲が作りたいんです。
ーこの曲の作詞・作曲には、MY FIRST STORYのShoさんやMONORALのAliさんの名前が共作者としてクレジットされています。昨年からのシングルはすべてこういった手法で楽曲が生まれているようですが、なぜこういう手法になったんでしょう?
HYDE きっかけはどうだったかな? VAMPSのときもドイツのラムシュタインのメンバー(リヒャルト・Z・クルスペ)に曲(「RISE OR DIE」)を提供してもらって、それをまたこっちでアレンジしたりもしていたんです。その頃から自分の価値観が変わったというか、「あ、この方法が実はアメリカでは普通なんだ」と気づいたんです。それ以前の僕は、やっぱりバンドっていうのは自分で曲を作って自分でその曲を演奏しないといけない決まりがあると思っていたので、日本のEXILEとか見ていて好きな曲を優秀なライターから集めて選ぶのってすごく賢いな、自分はバンドマンだからそれはできないと残念に思っていたんです。
ーそういう気づきがあったと。
HYDE はい。まあ僕が気が付いたのがちょっと遅いぐらいだったのかな。
ーその曲作りですが、ひとりのソングライターが書いたメロディをHYDEさんや複数のソングライターが手を加えていく方法なんでしょうか? それとも、いろんなソングライターの曲の断片をHYDEさんがまとめていくとか?
HYDE 前者ですね。だいたいワンコーラスは出来上がっている状態から、みんなで構築していきます。「MAD QUALIA」はShoくんが作ってきたオケに僕がメロディを付けました。
ーでは、大まかなアレンジというのもShoさんが?
HYDE そうですね。あとは希望を伝えて彼がさらにブラッシュアップしていく感じでしたね。
ーカップリングにLArc~en~Cielの代表曲「HONEY」のセルフカバーが収録されています。昨年のツアーでも披露していましたが、ラルクの楽曲をソロとして音源に残すのは初めてですよね。なぜ今回レコーディングしようと思ったんですか?
HYDE 日本のフェスに出演するようになって、「HONEY」がいい起爆剤になることに気づいて。
ーそういう理由があったと。シングルのカップリングにはこれまでも他アーティストのカバーやセルフカバーを収録してきましたよね。
HYDE アルバム本編とは違う、カップリングならではのちょっとした遊び心を出したくてね。
ーカバーする曲を選ぶときの基準ってありますか?
HYDE ある程度有名じゃないと意味がないかなとは思うんですけど、特にはないですよ。これもプロモーションの一環ですし。例えば「ZIPANG」に収録された「ORDINARY WORLD」(デュラン・デュランのカバー)の場合は、バラードをロックっぽく聴かせるやつを作ろうよって話から、じゃあバラードなら「ORDINARY WORLD」じゃない?ってところから挙がりましたしね。
Photo by Tim Gallo for Rolling Stone Japan
モノ作りが好きだからこそのこだわり
ーこれまでのシングル5枚と、昨年のツアーで披露された新曲を聴く限りで来たるニューアルバムの雰囲気はなんとなく想像できるかと思いますが、現時点でアルバムはどの程度完成しているんですか?(※取材時は2019年3月)
HYDE もう1曲追加して、その曲をレコーディングすれば完成です。
ーではツアーに入る前には?
HYDE リリースします。アメリカツアーの前に配信を始めて、日本のツアーの前にフィジカル発売を予定しています。だから、今はバタバタしていて慌ただしいんです(笑)。
ーデジタルで先行リリースする手法は、「WHOS GONNA SAVE US」や「AFTER LIGHT」などのシングルでも実施してきましたが。
HYDE 完全にデジタルへ移行する時代は必ず来るだろうから、今のうちにファンを慣れさせておきたいなと誰かが言ってましたが(笑)。アメリカだとレコード屋なんて、ほぼ無いですもんね。楽器屋さんに5枚ぐらい、メタリカとかのベスト盤が置いてあるぐらいで。
ーとなると、フィジカルってファンの人にとっての大切なアイテムという役割が大きなものになりますよね。例えば限定盤に映像を付けたりコンセプトブックを同梱したりと、そこに対する作り込みのこだわりはどの程度ありますか?
HYDE そこは昔から変わらないですね。僕も日本人なのでフィジカルの良さをわかっているし、逆にデジタルの良さもわかってますし。最近はパソコンにもCDドライブが付いてないじゃないですか。それを読み込むための機材を出してくるのも面倒くさいし、フィジカルで持っていても「もういいや」と思ってデジタルでダウンロードしてしまいますからね(笑)。だけど、何かを持ちたいという所有欲が満たされる感覚も僕にはすごくわかります。好きなアーティストのアイテムを所持することが喜びであって、それは別に聴かなくてもいいんですよね。それに僕はモノ作りが大好きなので、需要が減ってもフィジカルはこだわりたいというのがあって。複数仕様とか商業っぽいとは思うんですけど、いろんなものを作りたいんですよ。ある人はアート的なものを観たかったり、また別の人は映像を観たかったり、どこかにファンに刺さるものがあるんじゃないかと思うし。結局、そういうものを作るのが好きなんですよね。
ージャケットにしてもそうですものね。今はパソコン上でのアイコンといった程度に小さくなってしまったために、細部までこだわってもそれが伝わりにくいですし。
HYDE うんうん。だからこそ、小さくても目立ってフィジカルでも素敵なものを目指してます。
ーサウンド面についてもお聞きしたいんですが、シングル曲など新曲を聴いた限りでは今の日本のラウドロックシーンにも通ずるテイストが多く含まれているかと思います。HYDEさんには今のそういったシーンはどのように映りますか?
HYDE 実はあまり詳しくないんですよね。その界隈の人たちとも接点がほとんどないし、友達もいないし。もちろんCrossfaithとかSiM、coldrainとかどういうバンドは知っているし、どのぐらいのパワーがあるかはなんとなく把握はしていますけど意見を言えるほどシーンを理解してないですね。海外でどう見られるかは多少意識してますが。正直言うと、日本での自分自身のマーケティングはあんまり良くないと思っていて。もっと主流にしないと日本では売れないだろうなとは思っているんですけど、なるべく日本人好みの曲でありながらアメリカでも伝わる方向にはしたいんですけど、常にそれをやっているとちょっと遠回りかなと思ってしまうんです。ただ、「MAD QUALIA」は日本人も好きだろうし、海外の人も悪くないと思う良いバランスだと思いますよ。
ーとなると、アルバムにおけるそのバランスはどうなっているんですか?
HYDE もう少しアメリカンな作品になっていると思います(笑)。シングルはどちらかというと日本人も好きそうな絶妙なラインを狙っているんですけど、アルバムのほかの曲はそこまで考えていないので。プロデューサーもアメリカ人なので、もう少しアメリカナイズされているかな。
ーでは、歌詞はどうですか? シングル5枚では全編英語詞の楽曲もあれば、日本語バージョンも用意されています。アルバムにおいては、海外でリリースするものはオール英語詞とか、日本盤は日本語詞を混ぜたりとか、その振り分けは?
HYDE そこもちょっとだけ。「ZIPANG」と「MAD QUARIA」だけかな、ジャパニーズバージョンがあるのは。それ以外は基本的には英語詞、もしくはわざと日本語を入れているところがあったり、そのどちらかですね。
ーでは、特に海外だからといって全部英語詞にするというわけでもなく?
HYDE そう。わざと日本語を入れたりしています。そのほうがなんとなく面白いかなと思って。韓国のアーティストは韓国語をうまく取り入れていて、そこがキャッチーだったりするので、日本人としてもそういう部分を少し出したいなと思ってます。
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単純に僕が好きかどうかだけ
ーこのニューアルバムが海外でどう評価されるのか含めて楽しみです。と同時に、国内でも久しぶりにHYDEさんのソロ名義でのアルバムということで注目している方々もいると思います。改めて、VAMPSの活動休止が決まってから、ソロアーティストとして活動しようと決めたとき、やりたいことや形に残したいものがどの程度イメージできていましたか?
HYDE ぶっちゃけ、何もイメージできていなかったです。ただ、VAMPSでやってきたことは自分にとって、それ以前のソロ活動とあまり変わらなかったんです。僕にとってはただやりたいことをやっていたつもりだったので、それを止めるんじゃなくて、ソロになっても引き継いでいこうと。VAMPSで「ああ、ここはこうすればいいんだ」と気づいたことをソロでは続けてやろうとは思っていました。
ー実際、VAMPSを結成したときもソロ活動の延長とおっしゃっていましたものね。では、LArc~en~Cielという大きなバンドがありつつ、その外で何か創作活動をする一環としてソロやVAMPSがあると。
HYDE そうそう。そうですね。
ーでは、今度のソロアルバムではVAMPSでの最新作にあたる『UNDERWORLD』(2017年)からの流れを汲みつつ、その延長線上にある世界観が描かれていると。
HYDE そうなりますね。『UNDERWORLD』も海外のプロデューサーと一緒にがっつり作ったけど、サウンドがそれ以前とは全然違ったので。アメリカのバンドみたいなカッコいい音をしていたし、その部分は残したいですよね。そこから、さらに楽曲を自由にさせて作りたいなと。
ーそこで、さっきおっしゃったように楽曲ごとにいろんなソングライターが複数参加したり、それこそアルバムでは1曲ごとにプロデューサーが変えていったと。この制作手法も海外ではもはや当たり前になっていますが、日本ではまだまだ馴染みが薄いものですよね。
HYDE それこそマイケル・ジャクソンなんて、1枚のアルバムでいろんな人が作曲していますよね。それでもちゃんとマイケルのサウンドになっているし、マイケルという強力なプロデューサーが中心にいるから、彼ならではのトータルで美しい芸術が完成すると。今は僕もそういう感性でやりたいなと思っているんです。
ー今作に参加したプロデューサーの人選はどのように決めたんですか?
HYDE カッコいい音を作る人というのがまず基本で、そこからどの曲を作ったかをチェックして。それこそデモ音源で「こういうのをやったらどう?」とか作ってくるプロデューサーもいるので、そんな中からいい人を選びました。
ーそれは常にアンテナを張っていないと気づかないことも多いですよね。
HYDE そうですね。ただ、僕がいいと思った人ってすでに、CrossfaithとかONE OK ROCKとか日本のバンドと仕事していたりするんですよ。ああ、僕が一番じゃないんだって(笑)。だから、だいたいみんな探しているところは一緒なんでしょうね。
ー最新でカッコいいものを作れる人となると、みんなそこにたどり着くと。
HYDE みたいです。プロフィールを見るたびに「ああ、もうやってるわ」って思うことが多かったし(笑)。
ー1曲1曲を聴く限りでは各プロデューサーのカラーが強く表れたサウンドになっていますが、アルバムとしてまとめるときにはHYDEさんがトータルバランスを見るわけで、最終的には一貫性のあるものになるかと思います。そのトータル性は、1曲1曲を作る際には意識しているんでしょうか?
HYDE そこは単純に僕が好きかどうかだけです。それが一番大きいかな。もちろん、ジャンル的には微妙にばらけた雰囲気はあるかもしれないけど、単に僕が好きかどうか、そこでジャッジしてます。あとは、自分が目指している方向としてある程度ハードじゃないとダメだし。そういうところかな。
ー完成したものを全部通して聴いたとき、どう感じるのか今から楽しみです。
HYDE どうしても「このプロデューサー、やたらとドラムの音がデカイんだよな」というのが何曲かあるんですけどね(笑)。
ーよく海外のプロデューサーはリズムを強調する方が多いと聞きますが。
HYDE そうなんです。「MAD QUALIA」は日本でミックスしたんですけど、海外でミックスした他の曲と落差があったらいけないから「ドラムをちょっと大きめにしておいて」と伝えていて。そうしてもらったにも関わらず、アメリカでミックスした音源と聴き比べたらやっぱりまだ小さかったんですよ。いかに日本とリズムの解釈が違うかを、そこで思い知りました。
ー最近はK-POPもそうですけど、洋楽における低音の鳴り方にはそれ以前と違ったものがありますし。
HYDE そうですね。基本的に国民性の違いも大きいと思うんですよ。例えば、日本ではそこまでやろうとしないとか、これで十分だから必要だと思わないんじゃないですかね。ライブでも日本人が作るとちょっと腰高なサウンドになるし、海外のエンジニアがライブでPAをやると腰がドーンと落ちるんです。だから、欲しいところが違うんでしょうね。極端な話、日本のそういう音を聴くとただ音がデカイだけで、「耳が痛い」という声も結構多いし。
ー以前、ある国内アーティストが海外でツアーをしたときのエンジニアを日本に連れてきたことがあって。同じ会場で日本のエンジニアとその海外のエンジニアがPAを担当したライブを観比べたときに、音の鳴りがまったく違ったんです。海外のエンジニアが担当した公演のほうは音が大きいのに、まったく不快さがなかったんですよ。
HYDE そうなんですよね。でも、それは本当にあると思いますよ。
ー日本とは違ってヘヴィな音楽に対して歴史が長いからこそ定着している、そういう違いがあるんでしょうか。
HYDE たぶんあるんじゃないかな。アメリカではそれが当たり前だから、みんなそれを普通にやっているわけで。日本も一緒で、それを当たり前にやっているから、海外とのズレが生じるんでしょうね。でも、そこは僕ら日本人のアーティストからすれば狙い目ですよ。だって、海外のエンジニアを日本に連れてくれば、ほかのアーティストと違うサウンドを示すことができるわけですし。面白いから、やれる人はやったほうがいいですよ。
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実数は大きいからこその可能性
ー日本のチャートではまだそういう現象は見られませんが、海外ではチャート上位にロックと呼ばれるジャンルの楽曲が入ることが少なくなっています。2000年代に入ってからも数千万枚売り上げるようなロック・アルバムは存在しましたが、ここ数年そういった元気さが海外のチャートからは伝わってこない。その一方で、ロックフェスをやれば数万人というお客さんが集まる事実もあるわけで。そういった海外の風潮は、HYDEさんにはどう映りますか?
HYDE 確かにシーン全体で見たときには全然ダメですよね。でも、アメリカは国がデカイから、何百分の1であってもその実数はデカイわけですよ。フェスにしても、メタルフェスだけでどれだけあるんだ?と思いますし(笑)。結局、それだけ好きな人がいるんだなとは思いますよ。僕が今海外でやろうとしているのも、そういうところが理由です。もちろん、メインのフィールドでは勝てるとは思ってないし、だからこそロックのコア層に届けたいんです。
ーそのコア層も、アメリカとヨーロッパとではちょっとずつ嗜好が異なるんじゃないかと思います。HYDEさんはそのへんも肌感覚で、我々以上に感じてるんじゃないでしょうか?
HYDE ヨーロッパの中でもイギリスは英語圏なのでまた特殊だと思うんですけど、全体的にアメリカよりは受け入れ態勢があるんじゃないかな。ヨーロッパは言語が英語じゃないところもすごくいいですよね、こちらの気持ちをわかってくれるというか。逆に、アメリカは国が広いぶんバンドもたくさんいるし、一番アウェイを感じます。
ーそのアウェイ感というのは、サウンドに対してなんでしょうか? それとも国籍に対して?
HYDE 両方じゃないですかね。日本人が作るサウンドに対して興味がないという。だからこそ、一番高い壁だと思ってます。
ー状況も環境もまったく異なるので一概に比べることはできないかもしれませんが、HYDEさんが90年代に音楽活動を始めた頃と比べても、今は厳しいと感じるわけですか?
HYDE 僕自身、90年代は特に海外に向けて活動していたわけでもなかったので、あまりそこにはリアリティはなかったんですよ。もちろん鎖国していたわけではないけど、LArc~en~Cielの場合はアニメファンなのかヴィジュアル系ファンなのかわからないけど、そういう面が大きかったので成功してマディソン・スクエア・ガーデンまで行けたと思うんです。それは素晴らしいし凄いことだと思うんだけど、かといってそれが向こうの一般的なロックファンが聴いて好きなものかというと、そこはまた別の話だし。でも、僕がやりたいのは、現地の普通のロックファンにも好きになってもらうこと。だからこそ、すごくハードルが高いなと思ってるんです。まあでも、可能性はゼロではないと思ってるし、ヨーロッパで受け入れられている日本のアーティストぐらいの感じをアメリカでも目指したいですね。
ーなるほど。それこそVAMPSでは『DOWNLOAD FESTIVAL』に出演したりと、海外展開をかなり意識的に続けてきましたよね。そういったVAMPSでの活動が今、アドバンテージになっていることもあるんでしょうか?
HYDE もちろん。あれがなかったら、これからの活動が何年も前に逆戻りになるだろうし。ただ、海外でも活動しているほかの日本のアーティストがアプローチしているのを見ると、ある程度地位がわかりますよね。そこで日本人がやったらどうなるのかが参考になるから、すごく大きいし。これが10年前はわからなかったぶん、今はもうちょっとリアルに見えてきたかな。彼らがこうやっているんだから僕には無理だな、とかいろいろ参考にもなります。もちろん、VAMPSでの活動がなかったらさらに想像がつかなかっただろうし。あの経験があったから、アメリカでどうやればいいかとか、僕なりにいろいろ仕組みがわかったし、今は海外のスタッフにも確信を持って意見を言える。以前は言われるがままにやることもあったけど、今はそれじゃダメ。ここからこういう道で行かないとダメって、僕の考えが正しいと思えるようになりました。
ーある種そういうゲームをサヴァイヴしていく力がないと、海外で成功することは難しいでしょうし、その基盤はVAMPSでの経験が活きていると。
HYDE まさにそうですね。
ーまた、海外で活動するにあたって、お客さんにしても業界の人にしてもコミュニケーション力が問われる場面も多いと思います。
HYDE そういいながら僕、英語が苦手なので、次のツアーに向けてもうちょっと喋れるように今勉強しているところです(笑)。そもそも、基本的にあんまり社交的ではないんですよ。日本語も話さないのに英語でどうやってコミュニケーションするんだ?っていう疑問もあるんですけど(笑)。でも、うちのバンドメンバーは英語が話せる人が多いので、そこは任せようかな(笑)。
ーでは、レコーディングなど制作のときに海外のプロデューサーとやりとりをするときは?
HYDE 日本語と英語、両方できるスタッフが多いので間に入ってもらってます。なので、そこも困らないですね。
ー実際、向こうのスタッフとのクリエイティヴなやり取りは面白いですか?
HYDE 日本とは全然違うし、本当に面白いですよ。プロデューサーしかりエンジニアしかり、一人ひとり個性の塊ですから。あるエンジニアはギターとベースのレコーディングのとき、全部の音を出さずに録っている単音だけを聴くんですよ。普通、いろんな音を鳴らしながらベースなりギターなりを録るじゃないですか。でもそのエンジニアはベースの音、ギターの音しか出さない。そういう人もいれば、びっくりするぐらいモニターの音を小さくしてミックスする人もいたり。その人曰く「デカイ音がカッコいいのは当たり前、いかに小さい音でカッコいい音を作るか」だと。でも、そういうやり方をするのはその人だけなんですよね。僕のヴォーカル録りでも、例えばワンセンテンスだけをずっとループさせて僕が何十回も歌ったり。それも初めての経験だったし、いろいろなやり方があって本当に面白い。
ーとなるとアーティストとして今、新鮮な発見も多いのでは?
HYDE もちろん。日本人はどうしても外(海外)にあまり出ないから、もっと出たらやり方も変わるんだろうね。
以前は新しいものに興味がなかった
ーちょっと話題は変わりますが、HYDEさん自身も音楽や映画など海外カルチャーからいろんなものを得ていると思います。そういう刺激って、今の海外カルチャーからも得られているんでしょうか?
HYDE あるかなあ……特に刺激はないかもしれないですね。ただ、最近はなるべくほかのアーティストのライブに行くようにしています。僕はこれまで人のライブにあまり興味がなくて、ほとんど行ってなかったんですけど、最近は「ああ、面白いことしてるな。僕にはこういう発想はなかったな」と感じることも多くて。やっぱり井の中の蛙になりがちだから。オリジナルの世界観はできるかもしれないけど、人のライブを観たほうが「自分より面白いことをやっているな」と気づけるし、そういうことが重要だと思うのでなるべく観るようにしてます。
ーそうだったんですね。ちなみに、最近観て面白かったアーティストっていますか?
HYDE こないだブリング・ミー・ザ・ホライズンを観てきました。フィーヴァー333がサポートに付いていて、そのへんのバンドは面白いなと思いました。
ーその2バンドって今のヘヴィでラウドなジャンルの中でも、まさに一歩先を進んでいる感の強い存在ですよね。
HYDE 確かに。新しいことをしようとしている感じが伝わりますよね。逆に僕はそういうことに対して、まったく興味がなかったんですよ。新しいことをやるよりも、単にいい曲があればいいんじゃないの?っていう。でも、最近はそこも重要なんだなと思うようになって、自分で曲作りをしていてもなるべく普段自分が選ばないようなメロディとかを考えるようになりましたね。それこそ一昨年、MIYAVIと作品を作ったんですけど(2017年発売の『SAMURAI SESSIONS vol.2』収録曲「All My Life」)、彼もそういうことを言ってたんですよ。たぶん僕が出したアイデアが普通だったんでしょうね。僕は普通でも曲が良ければいいと思っていたんですけど、MIYAVIは「もっと新しいことがしたい」って貪欲だったので、アーティストは本来はそうあるべきなんだろうなって気づかされました。それもあって、最近は自分が聴いたことのないようなメロディを探すようにしています。
ー最近だと「ZIPANG」あたりから感じるテイストはまさにその一環なのかなと、今のお話を聞いて感じました。余談ですが、HYDEさんは先日、Twitterでモトリー・クルーの映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』に対してリアクションしていましたよね。それこそ最近はクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』含め、こういうロック映画が増えていますが、ああいう作品は観られたりしますか?
HYDE もちろん観ますよ。やっぱりそのへんはバンドが持つストーリーがドラマチックだから、「あれって実はどうだったの?」みたいにワイドショー気分で観たいというか(笑)。ドキュメンタリーですけど、それこそX JAPANの『WE ARE X』もドラマチックだったし。事実は小説よりも奇なりというか、リアルだから面白いんです。あれがフィクションだったら大したことないと思います(笑)。最近、TVを観ていても、ニュース以外はあんまり興味がないんですよね。そういうリアルなものが刺さるわけで、モトリー・クルーもその歴史がドラマチックだから観ていて面白いのかなと。
ーかなり破天荒なバンドでしたし、どこまで表現されるのかも楽しみですよね。
HYDE ですね。でも、日本だったらドラッグとかそういった類のネタはダメでしょ。アメリカだとそこもスパイスというか、そういうところがいいですよね。
ー仮にもし、HYDEさんご自身の半生が映画化されるとしたら……。
HYDE 僕のはつまらないと思います(笑)。全然ドラマチックじゃないし、面白くないですよ。
ーでも、この先に大きな山となる出来事があったとしたら?
HYDE それは面白いかもしれない(笑)。自分の力でソロでマディソン・スクエア・ガーデンまでできたらカッコいいよね。そうしたらドラマになるし。
Photo by Tim Gallo for Rolling Stone Japan
開拓せずにはときめきは得られない
ー改めてツアーの話題もしましょうか。ちょうど3月末からアジアツアーが始まり、5月にはアメリカツアー、6月からは日本国内を回ります。以前VAMPS時代にお話を聞いたとき、とにかくライブをやりたいとおっしゃっていたのが印象に残っていて。その気持ちは今も変わっていませんか?
HYDE CDというコンテンツがなくなりつつある昨今、ライブだけは生きていますよね。アメリカでもレコード屋はなくなっても楽器屋はなくならないし。やっぱり、みんな音楽が好きなんですよ。ライブはダウンロードではなかなか伝わらないし、そこは残された音楽の表現する大切な場所なんじゃないですかね。実際、そこで真価が問われるわけだし。アルバムは作り込めば誰でもある程度まではできると思うけど、ライブではその人と成りがバレてしまう。僕らも次のアメリカツアーではイン・ディス・モーメントのサポートに付くけど、本当にアマチュアバンドみたいなものですから。メインアクトがセッティングした機材の前に僕らの機材をセッティングするわけで、しかもお客さんはメインアクトを観に来る人がほとんどだから、興味がない人たちにアピールするわけですよね。そこで一番真価が問われるし、いかにカッコいいショーができるかだから。僕も最初の頃、モトリー・クルーのニッキー・シックスがやっているシックス:エイ・エムと一緒にアメリカを回ったときは怖かったですもん。
ーHYDEさんでも怖く感じるものなんですか?
HYDE もちろん。たぶんビビってたんでしょうね、普段よりも痛々しいライブをしていたと思うし、感情を外に出すのではなく内に入っていくような感じでした。でも、そういったツアーを繰り返すことで自分なりに「そうじゃない」と気がついたこともあったので、たぶん次はうまくできると思います。今度のアメリカツアーで一緒に回るイン・ディス・モーメントとはVAMPSのときにも一緒にライブしているけど、今度はHYDEとしてライブをするわけで、以前を知っている現地の人からすれば「VAMPSではないんでしょ? じゃあレベルダウンだよね」と思うわけですよ。だからこそ、そういうところからもう一度再スタートするわけで、またチャンスを掴んでいかないといけないですよね。
ー海外ではいわば新人なわけですものね。かたや、国内ではHYDEさんの名前はロックファンの間で知らない人はいないわけで。そういったメジャーな存在ならば、例えばZeppクラスの会場での”籠城型”ライブではなく、大箱でライブをして回数を減らすこともできると思うんです。なぜそうせず、30本前後ものツアーを続けるんでしょう?
HYDE 理想を追い求めてるんだろうけど、ライブハウスでやってる映像が好きなんですよね。もっとカッコよくなりたいと思って繰り返してるんだろうな。アメリカの壁を壊したアーティストになりたいというのも。それは海外で人気者になりたいとかそういうことだけではなく、そこを目指さないとやりがいがないというか。ただ日本で音楽を作ってCDを出してライブをして、それを繰り返すことにときめきを感じなくなっているのかもしれない。
ーときめき、ですか?
HYDE どこか開拓心というか……日本で開拓しようと思ったら、ヒットチャートを狙うとかですかね?もっと売れ線の曲を作ったり違う方向に進まないと難しいですよね? でも、今の僕にはそれは興味ないしHYDEって固定概念があるから何をしても冷静な評価がないんじゃないかと思うんです。それがアーティストとしてつまらないな~って感じてます。
ーそれは最初に話したタイムリミットもあるから?
HYDE はい。だから、僕の夢としてそういった開拓をやらずには、ときめきが得られないんですよ。なので、海外ではアマチュアバンドみたいなことをしながら、少しずつ夢に近づいていこうと。もちろん、今回のアルバムでどこまでいけるかわからないですよ。あと2、3枚出して何も起こらなかったら、アメリカ進出はもうやめようと思いますし。
ー結果は1枚だけでは見えにくいものがありますし、むしろその次に1枚目の成果が見えてくるわけですから。海外ではそういうケースが多いですよね。
HYDE 僕もそう思います。なので、この次のアルバムがいわゆる核になると思うし、いかにもというものを散りばめて、どこまでチャートアクションを狙えるか。2020年に次のアルバムが出るとして、それまでに今回のアルバムでどこまでいけるかですよ。それまではアメリカのロックファンを攻撃し続けたいですね。
ーなるほど。では、年齢というところではいかがでしょう? 今やっているような激しい音楽をこの先どこまで続けられるのかも重要になると思いますし、その一方で静かな方向性を強めた見せ方、聴かせ方もあるわけで。現在はそこに関してはうまくバランスを取りながら活動していると思いますが、いわゆるタイムリミットが過ぎた後、HYDEさんの中でどういう音楽活動、どういう音楽人生を考えていますか?
HYDE 日本の売れ線を狙います(笑)。まあそれは冗談ですけど、好きなことをやって、好きな音楽を作ってファンとともに暮らします。そういう方向で、キャパを広げるのではなく小さなところで好きなことをやって、芸術性を高める作業ができたら最高ですよね。
ーそのためにも、ここから数年の活動が重要になってくると。そういった意味では、今度のアルバムは本当に楽しみです。
HYDE これまでで一番ヤンチャなアルバムになっていると思いますよ(笑)。楽しみにしていてください。
『ANTI』
HYDE
Universal Music
発売中
HYDE
1994年7月にLArc-en-Cielのメンバーとしてメジャーデビューを果たし、数々のヒット曲を生み出す。2001年に初のソロ活動をスタート。LArc-en-Cielとは異なる独特の世界観を提示した。2008年には、ロックユニットVAMPSを始動。日本のみならず、ワールドワイドにライブ活動を展開。2017年12月にVAMPSの活動休止を発表し、2018年6月にソロとしては12年半ぶりのシングル「WHOS GONNA SAVE US」をリリースし、同月よりライブハウスツアーを行う。その後、8月に「AFTER LIGHT」、10月に「FAKE DIVINE」、2019年2月に「ZIPANG」、3月に「MAD QUALIA」と積極的な新曲シングルリリースを続けている。6月に13年ぶりとなる通算4作目のオリジナルアルバム『ANTI』をリリースした。
https://www.hyde.com/
HYDEはその後も「AFTER LIGHT」(8月)、「FAKE DIVINE」(10月)、「ZIPANG」(2019年2月)とシングルを連発し、その合間には全33公演にわたる全国ツアーも実施した。
そして2019年3月には通算12作目、昨年のソロ活動再開後5枚目となるニューシングル「MAD QUALIA」をリリースした。このシングルを携えて、3月末からは上海、北京、成都、香港、台北を回るアジアツアーを実施し、5月には13公演におよぶ全米ツアーを敢行。6月から9月にかけては、7都市26公演にわたる国内ツアーも控えている。そして、この国内ツアーに合わせて6月には、ソロ名義としては実に13年ぶりとなる通算4作目のオリジナルアルバム『ANTI』を発表。
国内外の様々なソングライターやプロデューサーとのコラボを経て5枚のシングルを制作してきたHYDEだが、このコライト・スタイルは続くニューアルバムでも導入されている。海外では主流になりつつあるこのスタイルはどういった経緯で取り入れることになったのか。また、最近のインタビューで「あと3年でどこまで行けるか」など海外展開に関するタイムリミットについての発言の真意はどこにあるのか。このインタビューではVAMPS活動休止が決まりソロ活動に取り掛かったときの心境からシングル「MAD QUALIA」のテーマ、ニューアルバムの内容、海外展開に対する展望など、ここ1年半にわたる”ソロアーティスト・HYDE”の活動についてじっくり振り返ってもらった。
今はあまりのんびりしていられない
ー昨年6月の「WHOS GONNA SAVE US」から「MAD QUALIA」まで、シングルが5枚も続くとは思いもしませんでした。この構想は最初からイメージしていたものだったんですか?
HYDE いや、最初はVAMPSが活動休止になって、ツアーをやるために会場だけはブッキングしていたので「これはどうしたものかな?」と一旦全部キャンセルしたんですけど、「いや待てよ? 今やらないで2019年からスタートさせると、1年無駄になるな」と思って何としてもやりたいと思って急遽曲だけを集めたんです。でも曲を集めるのが精一杯で、そのなかで録れたのがシングル分ぐらい。
そのときにこの構想を思いついたんです。「なぜアルバムに向けてシングルを2枚にしないといけないんだろう?」という発想から、シングルはアルバムのプロモーションの一環と考えたら別に何枚でもいいんじゃないの? だったら5枚ぐらい出そうか?って考えたのが最初ですね。
ーソロ活動を再開させた頃のインタビューで、HYDEさんはVAMPS活動休止が決まった際、最初は休もうと考えていたそうですね。でも「1年無駄になる」と思ったのは、音楽に対する貪欲な気持ちが勝ったということなんでしょうか?
HYDE 貪欲とは違うんですけど、自分にタイムリミットがあると思っていて、逆算していくと今はあまりのんびりしていられないなと。今は波にも乗っていないのに休憩している場合じゃないと思ったんですね。
ーそのタイムリミットというのは、これから海外で下地を作っていくうえでの、ということですか?
HYDE それもそうですが、今はロックバンドとして激しい音楽を求めているので、これがいつまで許されるのかなというのも正直あるので、そういった意味でもタイムリミットを意識して、常に逆算して生きています。
ーなるほど。だからまず曲を集めて、アルバムは後付けで考えて録れるものから録ろうと。それにしても、1年も満たない期間にシングル5枚というのは、これまでの活動でもレアなケースですよね。一方で、海外ではシングルという形態自体消えつつありますが。
HYDE 配信だと線引きが難しいですよね。
ー配信が主流になったおかげで、アルバム曲がそのままチャートインするような状況です。
HYDEさんはパッケージとしてのシングルに対して、どのような思いを持っていますか?
HYDE まあ、名刺代わりですよね。推し曲としてのシングルは存在しているし、日本ではまだまだ主流だと思うので。ミュージックビデオも作るし、そういう意味でも宣伝のために出すという感じですね。
ー宣伝というのはHYDEさんご自身の活動に対してであり、この先のアルバムのためでもあると。
HYDE うん、両方ですね。僕はHYDEという名前自体がまだまだ知られてないと思っていて。日本ではもちろんLArc~en~Cielの存在を通してご存知の方が多いでしょうけど、海外ではまだ活動を始めたばかりなので、そのための宣伝材料を作っている感じです。
ーでは、シングルをリリースする順番というのも、HYDEさんの中で戦略的なものがあったんでしょうか?
HYDE なんとなくですね。「WHOS GONNA SAVE US」は最初の時点で完成していたので、最初に出したいなと。その後に「AFTER LIGHT」を出してというところまでは決まっていて、以降は「この曲どうだろう?」とかいろいろ相談しながら作っていきました。
タガが外れてより自由な発想に
ー「MAD QUALIA」以前の4曲は昨年のライブツアーでも先行披露されていましたけど、この曲を5枚目のシングルに選んだ理由は?
HYDE 先にタイアップ(アクションゲーム『デビル メイ クライ 5』イメージソング)が決まっていたんですけど、ライブで盛り上がって『デビル メイ クライ』にもハマる曲というのを決め打ちで作っていきました。
ータイトルにある〈QUALIA〉という単語はあまり耳慣れない言葉ですよね。
HYDE そうですよね。要は、みんなが見ている色は本当に同じ色なのか……?ここで僕たちが見ている青は青と認識できるけど、あなたが見ている青は、僕にとっては赤かも知れない。実はその違いって目を交換でもしないかぎり証明しようがないじゃないですか。それが〈QUALIA〉という言葉なんです。一方で、ずっと2人で口論していると「自分がおかしいのかな?」とか、どっちが正しいかわからなくなることもありますよね。僕は正当だと思って言ってるけど、ひょっとして自分の頭がおかしいから向こうは必死になって言ってるのかな?とか、誰も証明しようがない、その発想が面白いと思って、歌詞にしようと考えたんです。
ーそこから『デビル メイ クライ』の世界観にリンクさせたと。そういうタイアップならではの楽曲作りは、普段の楽曲制作とは違った面白みがあるものなんでしょうか?
HYDE 僕、そういうのが好きなんですよ。映画の主題歌とか頼まれると燃えるタイプ(笑)。自分も映画の監督になった気分になって、「この映画を盛り上げるには、どういう曲がいいだろう?」とか一生懸命考えるんです。これはよく思うことなんですけど、ただタイアップしただけで、その対象と全然関係ない曲が使われたりもするじゃないですか。そういうのがものすごくショボいと思ってしまって(笑)。
なので、やるからには相乗効果を狙えるような曲であってほしいなと思いながら作るようにしています。
ーその曲を聴くと、映画の場面が自然と思い浮かぶものも多いですよね。それこそエアロスミスの「I Dont Want To Miss A Thing」(映画『アルマゲドン』主題歌)なんてまさにそうですし。
HYDE そうそう、そういうことです。そういう曲が作りたいんです。
ーこの曲の作詞・作曲には、MY FIRST STORYのShoさんやMONORALのAliさんの名前が共作者としてクレジットされています。昨年からのシングルはすべてこういった手法で楽曲が生まれているようですが、なぜこういう手法になったんでしょう?
HYDE きっかけはどうだったかな? VAMPSのときもドイツのラムシュタインのメンバー(リヒャルト・Z・クルスペ)に曲(「RISE OR DIE」)を提供してもらって、それをまたこっちでアレンジしたりもしていたんです。その頃から自分の価値観が変わったというか、「あ、この方法が実はアメリカでは普通なんだ」と気づいたんです。それ以前の僕は、やっぱりバンドっていうのは自分で曲を作って自分でその曲を演奏しないといけない決まりがあると思っていたので、日本のEXILEとか見ていて好きな曲を優秀なライターから集めて選ぶのってすごく賢いな、自分はバンドマンだからそれはできないと残念に思っていたんです。
ーそういう気づきがあったと。
HYDE はい。まあ僕が気が付いたのがちょっと遅いぐらいだったのかな。
そういう発見があってから、再びソロになってそのタガが外れてより自由な発想になったと。いい曲を作ってくれたら誰とでもやってみたいし、もちろん好みのものにするために僕もそこに参加しますけど、フラットにいろんなものを取り入れようとして。今まではK.A.Zくんとコラボしてきたところを、今は世界中のソングライターとコラボしているという感覚に変わっただけで、むしろいい人がいたら教えてっていう感じなんですよ。それがソロの強みだし。
ーその曲作りですが、ひとりのソングライターが書いたメロディをHYDEさんや複数のソングライターが手を加えていく方法なんでしょうか? それとも、いろんなソングライターの曲の断片をHYDEさんがまとめていくとか?
HYDE 前者ですね。だいたいワンコーラスは出来上がっている状態から、みんなで構築していきます。「MAD QUALIA」はShoくんが作ってきたオケに僕がメロディを付けました。
ーでは、大まかなアレンジというのもShoさんが?
HYDE そうですね。あとは希望を伝えて彼がさらにブラッシュアップしていく感じでしたね。
ーカップリングにLArc~en~Cielの代表曲「HONEY」のセルフカバーが収録されています。昨年のツアーでも披露していましたが、ラルクの楽曲をソロとして音源に残すのは初めてですよね。なぜ今回レコーディングしようと思ったんですか?
HYDE 日本のフェスに出演するようになって、「HONEY」がいい起爆剤になることに気づいて。
そこばかり取り上げられるのもどうかなとは思うんですけど、これを音源として出して楽曲を知ってもらうことによってさらにライブで盛り上がるだろうなと思ったんです。そういうアイデアから、じゃあやってみましょうと。だから、日本のフェスのために入れたようなものです。これをアメリカでやろうとは思ってないですね。
ーそういう理由があったと。シングルのカップリングにはこれまでも他アーティストのカバーやセルフカバーを収録してきましたよね。
HYDE アルバム本編とは違う、カップリングならではのちょっとした遊び心を出したくてね。
ーカバーする曲を選ぶときの基準ってありますか?
HYDE ある程度有名じゃないと意味がないかなとは思うんですけど、特にはないですよ。これもプロモーションの一環ですし。例えば「ZIPANG」に収録された「ORDINARY WORLD」(デュラン・デュランのカバー)の場合は、バラードをロックっぽく聴かせるやつを作ろうよって話から、じゃあバラードなら「ORDINARY WORLD」じゃない?ってところから挙がりましたしね。
Photo by Tim Gallo for Rolling Stone Japan
モノ作りが好きだからこそのこだわり
ーこれまでのシングル5枚と、昨年のツアーで披露された新曲を聴く限りで来たるニューアルバムの雰囲気はなんとなく想像できるかと思いますが、現時点でアルバムはどの程度完成しているんですか?(※取材時は2019年3月)
HYDE もう1曲追加して、その曲をレコーディングすれば完成です。
ーではツアーに入る前には?
HYDE リリースします。アメリカツアーの前に配信を始めて、日本のツアーの前にフィジカル発売を予定しています。だから、今はバタバタしていて慌ただしいんです(笑)。
ーデジタルで先行リリースする手法は、「WHOS GONNA SAVE US」や「AFTER LIGHT」などのシングルでも実施してきましたが。
HYDE 完全にデジタルへ移行する時代は必ず来るだろうから、今のうちにファンを慣れさせておきたいなと誰かが言ってましたが(笑)。アメリカだとレコード屋なんて、ほぼ無いですもんね。楽器屋さんに5枚ぐらい、メタリカとかのベスト盤が置いてあるぐらいで。
ーとなると、フィジカルってファンの人にとっての大切なアイテムという役割が大きなものになりますよね。例えば限定盤に映像を付けたりコンセプトブックを同梱したりと、そこに対する作り込みのこだわりはどの程度ありますか?
HYDE そこは昔から変わらないですね。僕も日本人なのでフィジカルの良さをわかっているし、逆にデジタルの良さもわかってますし。最近はパソコンにもCDドライブが付いてないじゃないですか。それを読み込むための機材を出してくるのも面倒くさいし、フィジカルで持っていても「もういいや」と思ってデジタルでダウンロードしてしまいますからね(笑)。だけど、何かを持ちたいという所有欲が満たされる感覚も僕にはすごくわかります。好きなアーティストのアイテムを所持することが喜びであって、それは別に聴かなくてもいいんですよね。それに僕はモノ作りが大好きなので、需要が減ってもフィジカルはこだわりたいというのがあって。複数仕様とか商業っぽいとは思うんですけど、いろんなものを作りたいんですよ。ある人はアート的なものを観たかったり、また別の人は映像を観たかったり、どこかにファンに刺さるものがあるんじゃないかと思うし。結局、そういうものを作るのが好きなんですよね。
ージャケットにしてもそうですものね。今はパソコン上でのアイコンといった程度に小さくなってしまったために、細部までこだわってもそれが伝わりにくいですし。
HYDE うんうん。だからこそ、小さくても目立ってフィジカルでも素敵なものを目指してます。
ーサウンド面についてもお聞きしたいんですが、シングル曲など新曲を聴いた限りでは今の日本のラウドロックシーンにも通ずるテイストが多く含まれているかと思います。HYDEさんには今のそういったシーンはどのように映りますか?
HYDE 実はあまり詳しくないんですよね。その界隈の人たちとも接点がほとんどないし、友達もいないし。もちろんCrossfaithとかSiM、coldrainとかどういうバンドは知っているし、どのぐらいのパワーがあるかはなんとなく把握はしていますけど意見を言えるほどシーンを理解してないですね。海外でどう見られるかは多少意識してますが。正直言うと、日本での自分自身のマーケティングはあんまり良くないと思っていて。もっと主流にしないと日本では売れないだろうなとは思っているんですけど、なるべく日本人好みの曲でありながらアメリカでも伝わる方向にはしたいんですけど、常にそれをやっているとちょっと遠回りかなと思ってしまうんです。ただ、「MAD QUALIA」は日本人も好きだろうし、海外の人も悪くないと思う良いバランスだと思いますよ。
ーとなると、アルバムにおけるそのバランスはどうなっているんですか?
HYDE もう少しアメリカンな作品になっていると思います(笑)。シングルはどちらかというと日本人も好きそうな絶妙なラインを狙っているんですけど、アルバムのほかの曲はそこまで考えていないので。プロデューサーもアメリカ人なので、もう少しアメリカナイズされているかな。
ーでは、歌詞はどうですか? シングル5枚では全編英語詞の楽曲もあれば、日本語バージョンも用意されています。アルバムにおいては、海外でリリースするものはオール英語詞とか、日本盤は日本語詞を混ぜたりとか、その振り分けは?
HYDE そこもちょっとだけ。「ZIPANG」と「MAD QUARIA」だけかな、ジャパニーズバージョンがあるのは。それ以外は基本的には英語詞、もしくはわざと日本語を入れているところがあったり、そのどちらかですね。
ーでは、特に海外だからといって全部英語詞にするというわけでもなく?
HYDE そう。わざと日本語を入れたりしています。そのほうがなんとなく面白いかなと思って。韓国のアーティストは韓国語をうまく取り入れていて、そこがキャッチーだったりするので、日本人としてもそういう部分を少し出したいなと思ってます。
Photo by Tim Gallo for Rolling Stone Japan
単純に僕が好きかどうかだけ
ーこのニューアルバムが海外でどう評価されるのか含めて楽しみです。と同時に、国内でも久しぶりにHYDEさんのソロ名義でのアルバムということで注目している方々もいると思います。改めて、VAMPSの活動休止が決まってから、ソロアーティストとして活動しようと決めたとき、やりたいことや形に残したいものがどの程度イメージできていましたか?
HYDE ぶっちゃけ、何もイメージできていなかったです。ただ、VAMPSでやってきたことは自分にとって、それ以前のソロ活動とあまり変わらなかったんです。僕にとってはただやりたいことをやっていたつもりだったので、それを止めるんじゃなくて、ソロになっても引き継いでいこうと。VAMPSで「ああ、ここはこうすればいいんだ」と気づいたことをソロでは続けてやろうとは思っていました。
ー実際、VAMPSを結成したときもソロ活動の延長とおっしゃっていましたものね。では、LArc~en~Cielという大きなバンドがありつつ、その外で何か創作活動をする一環としてソロやVAMPSがあると。
HYDE そうそう。そうですね。
ーでは、今度のソロアルバムではVAMPSでの最新作にあたる『UNDERWORLD』(2017年)からの流れを汲みつつ、その延長線上にある世界観が描かれていると。
HYDE そうなりますね。『UNDERWORLD』も海外のプロデューサーと一緒にがっつり作ったけど、サウンドがそれ以前とは全然違ったので。アメリカのバンドみたいなカッコいい音をしていたし、その部分は残したいですよね。そこから、さらに楽曲を自由にさせて作りたいなと。
ーそこで、さっきおっしゃったように楽曲ごとにいろんなソングライターが複数参加したり、それこそアルバムでは1曲ごとにプロデューサーが変えていったと。この制作手法も海外ではもはや当たり前になっていますが、日本ではまだまだ馴染みが薄いものですよね。
HYDE それこそマイケル・ジャクソンなんて、1枚のアルバムでいろんな人が作曲していますよね。それでもちゃんとマイケルのサウンドになっているし、マイケルという強力なプロデューサーが中心にいるから、彼ならではのトータルで美しい芸術が完成すると。今は僕もそういう感性でやりたいなと思っているんです。
ー今作に参加したプロデューサーの人選はどのように決めたんですか?
HYDE カッコいい音を作る人というのがまず基本で、そこからどの曲を作ったかをチェックして。それこそデモ音源で「こういうのをやったらどう?」とか作ってくるプロデューサーもいるので、そんな中からいい人を選びました。
ーそれは常にアンテナを張っていないと気づかないことも多いですよね。
HYDE そうですね。ただ、僕がいいと思った人ってすでに、CrossfaithとかONE OK ROCKとか日本のバンドと仕事していたりするんですよ。ああ、僕が一番じゃないんだって(笑)。だから、だいたいみんな探しているところは一緒なんでしょうね。
ー最新でカッコいいものを作れる人となると、みんなそこにたどり着くと。
HYDE みたいです。プロフィールを見るたびに「ああ、もうやってるわ」って思うことが多かったし(笑)。
ー1曲1曲を聴く限りでは各プロデューサーのカラーが強く表れたサウンドになっていますが、アルバムとしてまとめるときにはHYDEさんがトータルバランスを見るわけで、最終的には一貫性のあるものになるかと思います。そのトータル性は、1曲1曲を作る際には意識しているんでしょうか?
HYDE そこは単純に僕が好きかどうかだけです。それが一番大きいかな。もちろん、ジャンル的には微妙にばらけた雰囲気はあるかもしれないけど、単に僕が好きかどうか、そこでジャッジしてます。あとは、自分が目指している方向としてある程度ハードじゃないとダメだし。そういうところかな。
ー完成したものを全部通して聴いたとき、どう感じるのか今から楽しみです。
HYDE どうしても「このプロデューサー、やたらとドラムの音がデカイんだよな」というのが何曲かあるんですけどね(笑)。
ーよく海外のプロデューサーはリズムを強調する方が多いと聞きますが。
HYDE そうなんです。「MAD QUALIA」は日本でミックスしたんですけど、海外でミックスした他の曲と落差があったらいけないから「ドラムをちょっと大きめにしておいて」と伝えていて。そうしてもらったにも関わらず、アメリカでミックスした音源と聴き比べたらやっぱりまだ小さかったんですよ。いかに日本とリズムの解釈が違うかを、そこで思い知りました。
ー最近はK-POPもそうですけど、洋楽における低音の鳴り方にはそれ以前と違ったものがありますし。
HYDE そうですね。基本的に国民性の違いも大きいと思うんですよ。例えば、日本ではそこまでやろうとしないとか、これで十分だから必要だと思わないんじゃないですかね。ライブでも日本人が作るとちょっと腰高なサウンドになるし、海外のエンジニアがライブでPAをやると腰がドーンと落ちるんです。だから、欲しいところが違うんでしょうね。極端な話、日本のそういう音を聴くとただ音がデカイだけで、「耳が痛い」という声も結構多いし。
ー以前、ある国内アーティストが海外でツアーをしたときのエンジニアを日本に連れてきたことがあって。同じ会場で日本のエンジニアとその海外のエンジニアがPAを担当したライブを観比べたときに、音の鳴りがまったく違ったんです。海外のエンジニアが担当した公演のほうは音が大きいのに、まったく不快さがなかったんですよ。
HYDE そうなんですよね。でも、それは本当にあると思いますよ。
ー日本とは違ってヘヴィな音楽に対して歴史が長いからこそ定着している、そういう違いがあるんでしょうか。
HYDE たぶんあるんじゃないかな。アメリカではそれが当たり前だから、みんなそれを普通にやっているわけで。日本も一緒で、それを当たり前にやっているから、海外とのズレが生じるんでしょうね。でも、そこは僕ら日本人のアーティストからすれば狙い目ですよ。だって、海外のエンジニアを日本に連れてくれば、ほかのアーティストと違うサウンドを示すことができるわけですし。面白いから、やれる人はやったほうがいいですよ。
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実数は大きいからこその可能性
ー日本のチャートではまだそういう現象は見られませんが、海外ではチャート上位にロックと呼ばれるジャンルの楽曲が入ることが少なくなっています。2000年代に入ってからも数千万枚売り上げるようなロック・アルバムは存在しましたが、ここ数年そういった元気さが海外のチャートからは伝わってこない。その一方で、ロックフェスをやれば数万人というお客さんが集まる事実もあるわけで。そういった海外の風潮は、HYDEさんにはどう映りますか?
HYDE 確かにシーン全体で見たときには全然ダメですよね。でも、アメリカは国がデカイから、何百分の1であってもその実数はデカイわけですよ。フェスにしても、メタルフェスだけでどれだけあるんだ?と思いますし(笑)。結局、それだけ好きな人がいるんだなとは思いますよ。僕が今海外でやろうとしているのも、そういうところが理由です。もちろん、メインのフィールドでは勝てるとは思ってないし、だからこそロックのコア層に届けたいんです。
ーそのコア層も、アメリカとヨーロッパとではちょっとずつ嗜好が異なるんじゃないかと思います。HYDEさんはそのへんも肌感覚で、我々以上に感じてるんじゃないでしょうか?
HYDE ヨーロッパの中でもイギリスは英語圏なのでまた特殊だと思うんですけど、全体的にアメリカよりは受け入れ態勢があるんじゃないかな。ヨーロッパは言語が英語じゃないところもすごくいいですよね、こちらの気持ちをわかってくれるというか。逆に、アメリカは国が広いぶんバンドもたくさんいるし、一番アウェイを感じます。
ーそのアウェイ感というのは、サウンドに対してなんでしょうか? それとも国籍に対して?
HYDE 両方じゃないですかね。日本人が作るサウンドに対して興味がないという。だからこそ、一番高い壁だと思ってます。
ー状況も環境もまったく異なるので一概に比べることはできないかもしれませんが、HYDEさんが90年代に音楽活動を始めた頃と比べても、今は厳しいと感じるわけですか?
HYDE 僕自身、90年代は特に海外に向けて活動していたわけでもなかったので、あまりそこにはリアリティはなかったんですよ。もちろん鎖国していたわけではないけど、LArc~en~Cielの場合はアニメファンなのかヴィジュアル系ファンなのかわからないけど、そういう面が大きかったので成功してマディソン・スクエア・ガーデンまで行けたと思うんです。それは素晴らしいし凄いことだと思うんだけど、かといってそれが向こうの一般的なロックファンが聴いて好きなものかというと、そこはまた別の話だし。でも、僕がやりたいのは、現地の普通のロックファンにも好きになってもらうこと。だからこそ、すごくハードルが高いなと思ってるんです。まあでも、可能性はゼロではないと思ってるし、ヨーロッパで受け入れられている日本のアーティストぐらいの感じをアメリカでも目指したいですね。
ーなるほど。それこそVAMPSでは『DOWNLOAD FESTIVAL』に出演したりと、海外展開をかなり意識的に続けてきましたよね。そういったVAMPSでの活動が今、アドバンテージになっていることもあるんでしょうか?
HYDE もちろん。あれがなかったら、これからの活動が何年も前に逆戻りになるだろうし。ただ、海外でも活動しているほかの日本のアーティストがアプローチしているのを見ると、ある程度地位がわかりますよね。そこで日本人がやったらどうなるのかが参考になるから、すごく大きいし。これが10年前はわからなかったぶん、今はもうちょっとリアルに見えてきたかな。彼らがこうやっているんだから僕には無理だな、とかいろいろ参考にもなります。もちろん、VAMPSでの活動がなかったらさらに想像がつかなかっただろうし。あの経験があったから、アメリカでどうやればいいかとか、僕なりにいろいろ仕組みがわかったし、今は海外のスタッフにも確信を持って意見を言える。以前は言われるがままにやることもあったけど、今はそれじゃダメ。ここからこういう道で行かないとダメって、僕の考えが正しいと思えるようになりました。
ーある種そういうゲームをサヴァイヴしていく力がないと、海外で成功することは難しいでしょうし、その基盤はVAMPSでの経験が活きていると。
HYDE まさにそうですね。
ーまた、海外で活動するにあたって、お客さんにしても業界の人にしてもコミュニケーション力が問われる場面も多いと思います。
HYDE そういいながら僕、英語が苦手なので、次のツアーに向けてもうちょっと喋れるように今勉強しているところです(笑)。そもそも、基本的にあんまり社交的ではないんですよ。日本語も話さないのに英語でどうやってコミュニケーションするんだ?っていう疑問もあるんですけど(笑)。でも、うちのバンドメンバーは英語が話せる人が多いので、そこは任せようかな(笑)。
ーでは、レコーディングなど制作のときに海外のプロデューサーとやりとりをするときは?
HYDE 日本語と英語、両方できるスタッフが多いので間に入ってもらってます。なので、そこも困らないですね。
ー実際、向こうのスタッフとのクリエイティヴなやり取りは面白いですか?
HYDE 日本とは全然違うし、本当に面白いですよ。プロデューサーしかりエンジニアしかり、一人ひとり個性の塊ですから。あるエンジニアはギターとベースのレコーディングのとき、全部の音を出さずに録っている単音だけを聴くんですよ。普通、いろんな音を鳴らしながらベースなりギターなりを録るじゃないですか。でもそのエンジニアはベースの音、ギターの音しか出さない。そういう人もいれば、びっくりするぐらいモニターの音を小さくしてミックスする人もいたり。その人曰く「デカイ音がカッコいいのは当たり前、いかに小さい音でカッコいい音を作るか」だと。でも、そういうやり方をするのはその人だけなんですよね。僕のヴォーカル録りでも、例えばワンセンテンスだけをずっとループさせて僕が何十回も歌ったり。それも初めての経験だったし、いろいろなやり方があって本当に面白い。
ーとなるとアーティストとして今、新鮮な発見も多いのでは?
HYDE もちろん。日本人はどうしても外(海外)にあまり出ないから、もっと出たらやり方も変わるんだろうね。
以前は新しいものに興味がなかった
ーちょっと話題は変わりますが、HYDEさん自身も音楽や映画など海外カルチャーからいろんなものを得ていると思います。そういう刺激って、今の海外カルチャーからも得られているんでしょうか?
HYDE あるかなあ……特に刺激はないかもしれないですね。ただ、最近はなるべくほかのアーティストのライブに行くようにしています。僕はこれまで人のライブにあまり興味がなくて、ほとんど行ってなかったんですけど、最近は「ああ、面白いことしてるな。僕にはこういう発想はなかったな」と感じることも多くて。やっぱり井の中の蛙になりがちだから。オリジナルの世界観はできるかもしれないけど、人のライブを観たほうが「自分より面白いことをやっているな」と気づけるし、そういうことが重要だと思うのでなるべく観るようにしてます。
ーそうだったんですね。ちなみに、最近観て面白かったアーティストっていますか?
HYDE こないだブリング・ミー・ザ・ホライズンを観てきました。フィーヴァー333がサポートに付いていて、そのへんのバンドは面白いなと思いました。
ーその2バンドって今のヘヴィでラウドなジャンルの中でも、まさに一歩先を進んでいる感の強い存在ですよね。
HYDE 確かに。新しいことをしようとしている感じが伝わりますよね。逆に僕はそういうことに対して、まったく興味がなかったんですよ。新しいことをやるよりも、単にいい曲があればいいんじゃないの?っていう。でも、最近はそこも重要なんだなと思うようになって、自分で曲作りをしていてもなるべく普段自分が選ばないようなメロディとかを考えるようになりましたね。それこそ一昨年、MIYAVIと作品を作ったんですけど(2017年発売の『SAMURAI SESSIONS vol.2』収録曲「All My Life」)、彼もそういうことを言ってたんですよ。たぶん僕が出したアイデアが普通だったんでしょうね。僕は普通でも曲が良ければいいと思っていたんですけど、MIYAVIは「もっと新しいことがしたい」って貪欲だったので、アーティストは本来はそうあるべきなんだろうなって気づかされました。それもあって、最近は自分が聴いたことのないようなメロディを探すようにしています。
ー最近だと「ZIPANG」あたりから感じるテイストはまさにその一環なのかなと、今のお話を聞いて感じました。余談ですが、HYDEさんは先日、Twitterでモトリー・クルーの映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』に対してリアクションしていましたよね。それこそ最近はクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』含め、こういうロック映画が増えていますが、ああいう作品は観られたりしますか?
HYDE もちろん観ますよ。やっぱりそのへんはバンドが持つストーリーがドラマチックだから、「あれって実はどうだったの?」みたいにワイドショー気分で観たいというか(笑)。ドキュメンタリーですけど、それこそX JAPANの『WE ARE X』もドラマチックだったし。事実は小説よりも奇なりというか、リアルだから面白いんです。あれがフィクションだったら大したことないと思います(笑)。最近、TVを観ていても、ニュース以外はあんまり興味がないんですよね。そういうリアルなものが刺さるわけで、モトリー・クルーもその歴史がドラマチックだから観ていて面白いのかなと。
ーかなり破天荒なバンドでしたし、どこまで表現されるのかも楽しみですよね。
HYDE ですね。でも、日本だったらドラッグとかそういった類のネタはダメでしょ。アメリカだとそこもスパイスというか、そういうところがいいですよね。
ー仮にもし、HYDEさんご自身の半生が映画化されるとしたら……。
HYDE 僕のはつまらないと思います(笑)。全然ドラマチックじゃないし、面白くないですよ。
ーでも、この先に大きな山となる出来事があったとしたら?
HYDE それは面白いかもしれない(笑)。自分の力でソロでマディソン・スクエア・ガーデンまでできたらカッコいいよね。そうしたらドラマになるし。
Photo by Tim Gallo for Rolling Stone Japan
開拓せずにはときめきは得られない
ー改めてツアーの話題もしましょうか。ちょうど3月末からアジアツアーが始まり、5月にはアメリカツアー、6月からは日本国内を回ります。以前VAMPS時代にお話を聞いたとき、とにかくライブをやりたいとおっしゃっていたのが印象に残っていて。その気持ちは今も変わっていませんか?
HYDE CDというコンテンツがなくなりつつある昨今、ライブだけは生きていますよね。アメリカでもレコード屋はなくなっても楽器屋はなくならないし。やっぱり、みんな音楽が好きなんですよ。ライブはダウンロードではなかなか伝わらないし、そこは残された音楽の表現する大切な場所なんじゃないですかね。実際、そこで真価が問われるわけだし。アルバムは作り込めば誰でもある程度まではできると思うけど、ライブではその人と成りがバレてしまう。僕らも次のアメリカツアーではイン・ディス・モーメントのサポートに付くけど、本当にアマチュアバンドみたいなものですから。メインアクトがセッティングした機材の前に僕らの機材をセッティングするわけで、しかもお客さんはメインアクトを観に来る人がほとんどだから、興味がない人たちにアピールするわけですよね。そこで一番真価が問われるし、いかにカッコいいショーができるかだから。僕も最初の頃、モトリー・クルーのニッキー・シックスがやっているシックス:エイ・エムと一緒にアメリカを回ったときは怖かったですもん。
ーHYDEさんでも怖く感じるものなんですか?
HYDE もちろん。たぶんビビってたんでしょうね、普段よりも痛々しいライブをしていたと思うし、感情を外に出すのではなく内に入っていくような感じでした。でも、そういったツアーを繰り返すことで自分なりに「そうじゃない」と気がついたこともあったので、たぶん次はうまくできると思います。今度のアメリカツアーで一緒に回るイン・ディス・モーメントとはVAMPSのときにも一緒にライブしているけど、今度はHYDEとしてライブをするわけで、以前を知っている現地の人からすれば「VAMPSではないんでしょ? じゃあレベルダウンだよね」と思うわけですよ。だからこそ、そういうところからもう一度再スタートするわけで、またチャンスを掴んでいかないといけないですよね。
ー海外ではいわば新人なわけですものね。かたや、国内ではHYDEさんの名前はロックファンの間で知らない人はいないわけで。そういったメジャーな存在ならば、例えばZeppクラスの会場での”籠城型”ライブではなく、大箱でライブをして回数を減らすこともできると思うんです。なぜそうせず、30本前後ものツアーを続けるんでしょう?
HYDE 理想を追い求めてるんだろうけど、ライブハウスでやってる映像が好きなんですよね。もっとカッコよくなりたいと思って繰り返してるんだろうな。アメリカの壁を壊したアーティストになりたいというのも。それは海外で人気者になりたいとかそういうことだけではなく、そこを目指さないとやりがいがないというか。ただ日本で音楽を作ってCDを出してライブをして、それを繰り返すことにときめきを感じなくなっているのかもしれない。
ーときめき、ですか?
HYDE どこか開拓心というか……日本で開拓しようと思ったら、ヒットチャートを狙うとかですかね?もっと売れ線の曲を作ったり違う方向に進まないと難しいですよね? でも、今の僕にはそれは興味ないしHYDEって固定概念があるから何をしても冷静な評価がないんじゃないかと思うんです。それがアーティストとしてつまらないな~って感じてます。
ーそれは最初に話したタイムリミットもあるから?
HYDE はい。だから、僕の夢としてそういった開拓をやらずには、ときめきが得られないんですよ。なので、海外ではアマチュアバンドみたいなことをしながら、少しずつ夢に近づいていこうと。もちろん、今回のアルバムでどこまでいけるかわからないですよ。あと2、3枚出して何も起こらなかったら、アメリカ進出はもうやめようと思いますし。
ー結果は1枚だけでは見えにくいものがありますし、むしろその次に1枚目の成果が見えてくるわけですから。海外ではそういうケースが多いですよね。
HYDE 僕もそう思います。なので、この次のアルバムがいわゆる核になると思うし、いかにもというものを散りばめて、どこまでチャートアクションを狙えるか。2020年に次のアルバムが出るとして、それまでに今回のアルバムでどこまでいけるかですよ。それまではアメリカのロックファンを攻撃し続けたいですね。
ーなるほど。では、年齢というところではいかがでしょう? 今やっているような激しい音楽をこの先どこまで続けられるのかも重要になると思いますし、その一方で静かな方向性を強めた見せ方、聴かせ方もあるわけで。現在はそこに関してはうまくバランスを取りながら活動していると思いますが、いわゆるタイムリミットが過ぎた後、HYDEさんの中でどういう音楽活動、どういう音楽人生を考えていますか?
HYDE 日本の売れ線を狙います(笑)。まあそれは冗談ですけど、好きなことをやって、好きな音楽を作ってファンとともに暮らします。そういう方向で、キャパを広げるのではなく小さなところで好きなことをやって、芸術性を高める作業ができたら最高ですよね。
ーそのためにも、ここから数年の活動が重要になってくると。そういった意味では、今度のアルバムは本当に楽しみです。
HYDE これまでで一番ヤンチャなアルバムになっていると思いますよ(笑)。楽しみにしていてください。
『ANTI』
HYDE
Universal Music
発売中
HYDE
1994年7月にLArc-en-Cielのメンバーとしてメジャーデビューを果たし、数々のヒット曲を生み出す。2001年に初のソロ活動をスタート。LArc-en-Cielとは異なる独特の世界観を提示した。2008年には、ロックユニットVAMPSを始動。日本のみならず、ワールドワイドにライブ活動を展開。2017年12月にVAMPSの活動休止を発表し、2018年6月にソロとしては12年半ぶりのシングル「WHOS GONNA SAVE US」をリリースし、同月よりライブハウスツアーを行う。その後、8月に「AFTER LIGHT」、10月に「FAKE DIVINE」、2019年2月に「ZIPANG」、3月に「MAD QUALIA」と積極的な新曲シングルリリースを続けている。6月に13年ぶりとなる通算4作目のオリジナルアルバム『ANTI』をリリースした。
https://www.hyde.com/
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