昨年の初来日公演でも話題を集めたシカゴ拠点のシンガー・ソングライター/プロデューサー、ジア・マーガレット(Gia Margaret)が最新アルバム『Singing』をリリース。8年ぶりのボーカルアルバムが生まれるまでの過程、歌えなかった歳月から学んだこと。


「言えなかったことすべてが、あまりに長く沈殿していく」──4月24日にジャジャグウォーからリリースされるニューアルバム『Singing』の冒頭を飾る「Everyone Around Me Dancing」の、穏やかで一定した鼓動のようなリズムに乗せて、ジア・マーガレットはそう歌う。アルバムのタイトルは、率直な宣言であると同時に、一種のコメディ的な安堵感をも孕んでおり、たった一語で完結した文章としても成立している。そして現在38歳の彼女にとって、それは静かな啓示でもあった。2018年にデビューアルバムをリリースして間もなく、彼女は喉を痛め、歌うことができなくなってしまったのだ。その余波の中で、彼女は2020年に瞑想的なアンビエント作品『Mia Gargaret』、次いで2023年にはインストゥルメンタル作品『Romantic Piano』を制作した。そして今、彼女は再び「言葉」を携えて戻ってきた。そう、『Singing(歌うこと)』という名のアルバム共に。

「アルバムのタイトルの案は他にもいくつかありましたが、どうしてもこの言葉が頭から離れなかったんです。苦しみの中には、いつもどこかユーモアが漂っているものですから」と、シカゴの自宅スタジオからZoomで取材に応じたマーガレットは語る。「シンガーでありながら歌えないということは、自分の中で起きている物事を伝える手段を、文字通り失ってしまうということでした。ここ数年の間、私は文字通り沈黙を強いられているように感じていました。それは私にとって、ある種の『エゴの死』だったと思います」

『Mia Gargaret』や『Romantic Piano』の制作過程で直面した制約は、意外にも表現の広がりをもたらした。
歌詞に頼れない状況が、作曲やプロダクションにおけるより緻密な側面を深く掘り下げるきっかけとなったからだ。「歌詞がない分、曲の隅々にまで真剣に耳を傾けなければなりませんでした」と彼女は言う。「再び歌うこと、そして歌詞のある曲を書くことに戻ったとき、以前は気づかなかった細部にまで注意を払っている自分に気づいたのです」

最新アルバムのリリースに伴い、初期2作品『Theres Always Glimmer』『Mia Gargaret』も日本のみCDとして再発

『Singing』は彼女にとって大きな前進を象徴する一枚だが、アルバムの端々には、都会の生活や若かりし日々への温かな回想が散りばめられており、過去の記憶に物憂げに浸る彼女の姿が浮かび上がる。「自分の声を取り戻すことは、もっと若かった頃の自分と再会することでもありました」と彼女は語る。「制作中、10代の頃に聴いていた音楽をたくさん聴き返していたので、今作の音楽にはそうしたノスタルジーも反映されているように思います」

彼女は『Singing』の音の世界を形作る助けとなったアーティストを数名挙げている。フル・フル(Frou Frou)、デヴィッド・グレイ、ザ・ポスタル・サーヴィス、スターズ──その中には、今作と偶然の繋がりを持つ者もいる。エイミー・ミラン(スターズとブロークン・ソーシャル・シーンの両方に所属)が「Cellular Reverse」で歌い、フル・フルのガイ・シグスワースはアルバム中の3曲をプロデュースした。本作はコラボレーションの安息の地でもあり、デイヴ・バザン(ペドロ・ザ・ライオン)やザ・ウィーピーズのデブ・タランもバックボーカルで参加している。

「こうしたコラボレーションがなければ、『Singing』の制作を始めることさえなかったかもしれません」と彼女は言う。「人前でボーカルをレコーディングすることなんて、まだ無理だと感じていました。体調は良くなっていても、『もう何年も誰の前でも歌っていないのに』という感じだったんです」。

ボーカル・プロセッシングを多用し、きらめくシンセや重なり合うレイヤーを駆使することで、マーガレットは「思考から抜け出し、身体感覚を取り戻す」のに十分な程度に、自身の声をあえて曖昧にしている。


「ボコーダーを通して歌っているときは、声の細かなニュアンスを気にする必要がありません。完璧であるかどうかも考えなくていい。ただ声を一つの楽器として扱い、メロディとハーモニーのことだけを考えるんです」と彼女は説明する。「歌うことのあらゆる感覚、あの心地よい振動や感触を味わいながらも、自分の声に対して過度に批判的にならずに済みました」

幸いなことに、マーガレットはインストゥルメンタル音楽を完全に捨て去ったわけではない。アンビエントな「Ambient for Ichiko」(昨年ツアーのオープニングアクトを務めた日本人ミュージシャン、青葉市子に捧げられた曲)や、「Guitar Duo」(デブ・タランとのデュエット)、そして「Rotten Outro」(数年前に父から譲り受け、車の中に置いたままだったイタリア語学習CDをサンプリングしたもの)といった楽曲がそれを証明している。また、自分自身に向けた言葉のメモを録音した、ノイズ混じりのテープ音を織り交ぜるなど、アンビエントの感性は『Singing』の至る所に今も息づいている。

一聴すると、『Singing』の楽曲の多くはラブソングとして書かれたように聞こえるかもしれない。それはあながち間違いではないが、2020年から2025年の間に書き溜めたこれらの曲について、マーガレットはこう語る。「自分自身に向けて書いたのは、今回が初めてだったと思います。これまでは常に誰か対象となる人物を念頭に置いてきましたが、今作は本当に、自分のためのものだと感じられました」

『Singing』からは、心洗われるような誠実さが放たれている。真に音楽的な喜びに満ちており、声高に主張せずとも悟りを感じさせるような、統一感のある心地よい楽曲群だ。マーガレットにとって、このアルバムが存在すること自体が一つの勝利である。
「人生の中で、こんなアルバムを作ることはないだろう、二度と歌うことはないだろうと思っていた時期がありました」と彼女は言う。「振り返ってみて、あきらめずに挑戦して本当に良かったと思っています」

From Rolling Stone US.

Gia Margaretが語る、静謐なシンガーソングライターが「自分の歌声」を取り戻すまで
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