広東語の魅力 第47回:香港トップ資産家列伝1 胡応湘・合和実業主席(前編)-田中素直

 5月12日に発生した四川大地震では、世界中に支援の輪が広がったが、香港の華人界も非常に高い関心を示した。特に際立っていたのが、地震発生日の翌日に香港の「李嘉誠基金会」が3000万元(約4億5071万円)の寄付を表明したことだろう。


 「李嘉誠基金会」は長江実業(集団)有限公司の李嘉誠主席の功績を記念して創設された慈善団体で、社会貢献を目的としている。李氏は米フォーブス誌が3月5日に発表した「2008年世界の富豪ランキング」では総資産265億米ドル(約2兆7862億円)で11位に入っており、アジアを代表する富豪として有名である。

 李氏と李嘉誠基金会の震災支援活動への迅速な支持表明は、5月14日付の中国情報局のニュースでも報道されているが、その大胆さと賢さ、そして社会貢献へのこだわりに感銘を受けた人も少なくないだろう。

 今回からは、香港に軸足を置き、アジア全域,果ては世界の隅々まで影響を与える香港の富豪たちを特集していきたいと思う。

 栄えある1人目は合和集団(ホープウェルグループ)を率いる胡応湘(ゴードン・ウー)氏(=写真)である。

 胡氏は1935年香港生まれで、1958年に米国プリンストン大学の土木科を卒業している。帰港後は、土木の知識を生かし香港政府で技師などをしていたが、1969年に実業家だった父親の支援を受け合和実業を設立。80年代には香港を代表する大手デベロッパーの一つに数えられるまでに成長させた。インフラ整備や不動産開発などを得意とし、土木系出身である胡氏自身のバックグラウンドとよく一致する。

 合和実業の名がよく知られているのは、香港島の主要商業地区である湾仔(ワンチャイ)地区にそびえる「合和中心(ホープウェルセンター)」の存在が大きい。

 ホープウェルセンターは216メートルを誇る超高層ビルで1980年に完成。当時香港一高かった中環(セントラル)にあるジャーディンハウスを抜いて、1990年に中銀タワーが完成するまで香港で最も高いビルとして君臨した(なお、中銀タワーはアンテナ部まで含めると367.4メートルもあり、ホープウェルセンターの記録を一気に150メートルも更新している)。


 ホープウェルセンターは、副都心化し高層ビルが多く建つ以前のワンチャイ地区のシンボル的建物であった。面白いのはその形状で、真円柱型をしており、ビルの最上部は360度回転する展望レストランである。森村誠一氏の小説「人間の証明」では、同じく回る展望レストランを持つホテルニューオータニを麦わら帽子に例えていたが、ホープウェルセンターは背が高いのでさながら「魔法瓶」といった感じである。

 なお、さらに興味深いことに、この独特の形状をしたホープウェルセンター、他でもない胡應湘氏自身の設計である。

 ワンチャイは胡氏が幼少時代を過ごした場所であり、特に思い入れが強い場所と言われている。そこに自らが一代で築き上げた大財閥の本社ビルを、しかも自身の設計によって建ててしまうとは、男性ならずともなかなかのロマンを感じるのではないだろうか。(執筆者:田中素直・株式会社ユニオール代表取締役)

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