前回、「日経平均」と「先物」には「裁定取引」が働くため、両者の値動きが連動するという話をしましたが、大事なところなので、もう一度確認しておきましょう。

 先物には、日経平均の値から計算できる「理論価格」があり、下記の式が成り立ちます。


 先物の理論価格=日経平均+金利分-配当分

 「理論価格」と「現実の先物価格」が一致すればいいのですが、日経平均あるいは先物のどちらかが動くと、理論価格と現実の価格はズレてしまいます。そのような「ズレ」が生じないように、すなわち上記の式が「現実の」先物価格においても成り立つように、先物あるいは現物株に裁定取引が入ってきます。したがって、この式が成り立っている状態を保つように、日経平均と先物が連動するのです。

 では、日経平均と先物の値動きが連動するとして、どちらが先に動くのでしょうか。日経平均の値動きにつられて先物が動くのか、それとも、先物につられて日経平均が動くのか、という質問です。

 タイトルを見ると、「先物主導で日経平均が動く」と書いてあるし、先物が先に動きそうな感じがします。しかし、答えは「日経平均」と「先物」のどちらの場合も考えられるのです。

 まず、現物株が先に動く場合です。

 ここで言う「先物」は、現物株225銘柄で構成される日経平均の先物です。したがって、現物株の幅広い業種に買いが入るような時、例えば日本株の大規模な投信の設定後などには、現物株、すなわち日経平均が上がるので、裁定取引により先物がついてくるようなかたちを取ります。

 逆に、現物株が売られれば、先物も裁定取引によって売られることになります。

 以上のような場合は、現物が「先に」動いているのですが、動きがゆっくりなので、むしろ同じように動いているように見えるかもしれません。


 次に、先物が先に動く場合です。

 ザラ場中に、株式市場にとって非常に良いニュースが出た時などには、真っ先に先物が買われる傾向があります。例えば、予想を大幅に上回る経済指標や利下げのニュースなどが出た瞬間、先物が買われ、現物株が後から追いかけてくるようなかたちになります。

 これは、日経平均が上がる場合だけでなく、下がる場合も同様です。急に悪いニュースが出た場合などには、真っ先に先物が売られます。現物株を買い持ちしている機関投資家が、現物株の下げによる損失を先物の売りによる利益でカバーする目的で、先物を売るからです(「ヘッジ取引))。また、短期売買を得意とするヘッジファンドなどが、悪いニュースに便乗して仕掛け的に先物を売ってくる場合もあります。

 こうなると、先物は暴落します。悪いニュースが出れば現物株の実需売りも出てくるのですが、現物株「225」銘柄が売られるスピードよりも、日経225先物(期近物)という「1」銘柄の方が身軽で、下げのスピードがはるかに速いのです。すると、裁定による現物の売りが発生し、日経平均は先物を追いかけるように下がっていきます。したがって、あたかも「先物主導」で日経平均が下がっていくように見えるのです。

 ここで、「先物」が相場を動かしていると誤解している方もいるようですが、常に「先物」が「日経平均」を主導できるわけではありません。


 確かに、超短期的な値動きだけ見れば、先物への買いあるいは売り仕掛けによって、日経平均が多少動かされてしまうことはあります。しかし、例えば誰かが先物に売りを仕掛けても、現物株への積極的な買いが続けば、日経平均は上がってきます。先物を「大量」かつ「永久に」売り続けない限り、先物だけで日経平均を下げ続けることはできないのです。

 1990年の株価暴落を契機に、「先物悪玉論」が台頭するようになりました。今でも、先物イコール悪物だと思って、先物を毛嫌いしている個人投資家も多いようです。

 しかし、先物市場では、投機的な取引だけが行われているわけではありません。様々な投資家が、様々な目的で、先物市場に参加しているのです。現物株を長期保有している個人投資家が、先物によって自分の資産を守ることもできるのです。

 次回は、現物株を買い持ちしている投資家が、日経平均の先物を使って、2008年のような下げ相場を乗り越える方法を紹介したいと思います。先ほど、ちらっと出てきた「ヘッジ取引」のお話です。(執筆者:塙麻紀子・シンプレクス・インスティテュート)

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