MAO的コラム 中国語から考える 第91回-相原茂

 このあいだ中国の小説を読んでいたら子供が“雑貨店”zahuodianに“黄油”huangyou(バター)を買いに行くという話が出ていた。

 “雑貨店”は「雑貨店」と辞書にはある。
だが、日本の雑貨店にはバターは売っていないだろう。中国の“雑貨店”はお菓子やタバコ、お酒、卵など食べ物や飲み物も売っている。バターや醤油もある。横町などにある、ちょっとした便利ななんでも屋みたいなものだ。

 こういう日中同じ漢字のものはつい油断してしまう。“湯”は「お湯」でなくて「スープ」のこと、“手紙”は「レター」ではなく「トイレットペーパー」などという日中同形語は有名で誰でも知っているが、誰にも知られず誤解されているものはまだまだありそうだ。

 体操に「床運動」というのがある。床は日本語だと「ゆか」であるが、「起床」ともいうから「ベッド」という意味もある。中国語では「ベッド」の意味が第一義だ。単に“床”chuangといえば「ベッド」だと思う。

 そこで“床運動”chuang yundongなら「ベッドでの運動」だからだれしも想像するのは男女のことだ。日本にいる中国人はこの名前にみんな驚く。
驚き、次は笑いの種にしている。「昨日、“床運動”しただろう」なんて具合だ。

 こういう名前を決めるときに、何も隣国のことを気にしろとは言わないが、もう少し漢語の素養があればと思う。もうここまで普及してしまったものは仕方がない。「ゆか運動」と平仮名にするか。

 中国語は漢字しかない。外来語も漢字で表す。それでいいこともあるが、どうかねえという時もある。

 日本語には「駆け足」という語がある一方で「ジョギング」という言葉もある。似たようなものだが、微妙に違う。「毎朝ジョギングしています」を「毎朝駆け足しています」というと、なにやら奇妙だ。ところが中国語では“paobu”一語しかない。
これで「駆け足する」も「ジョギングする」も表す。

 同じような例だが、“笑話”xiaohuaは「笑い話」でもあり、「ジョーク」でもある。日本語ではこの二つ、やはり明らかに違う。こういうところは日本式がいいなあと思う。しかし、中国式に惹かれるときもある。

 たとえば冬季オリンピックの種目名。片仮名が多くて、何がなんだかよく分からない。「モーグル」と「エアリアル」、どっちがどんな競技だったか、私などなかなか覚えられない。「ボブスレー」と「リュージュ」、舵のあるのはどっちだったか、アナウンサーの言うのを何度も聞いているのに忘れている。こんなとき中国語でどういうかを見てみる。

モーグル  雪上技巧 xueshang jiqiao
エアリアル 空中技巧 kongzhong jiqiao

ボブスレー 有舵雪橇 youduo xueqiao
リュージュ 無舵雪橇 wuduo xueqiao

 ごらんのように、中国語でなら一目瞭然。競技内容もよくわかる。


 スポーツのトーナメントなどでよく強豪チーム同士がぶつからないように「シードする」ことがある。この「シード」とは何か。これまで気にしたことがなかった。ところがこの語、中国語では“種子”zhongziと言うのである。シードチームは、だから“種子隊”zhongziduiだ。seedが「種子」というのは当たり前といえば当たり前だ。

 しかし、「種子」と書いてあると、なぜ「タネ」なんだろうと考えさせられる。たぶん、タネだから、やがて芽を出し、育ち、花を咲かせ、実がなる。そうなることが期待されている。だから、早いうちに淘汰されて消えないように、タネが立派に育つように、タネ同士は少し離して蒔いておく、そういう意味合いがこめられての「タネ」だろう、というぐらいの想像をする。あるいは想像をかき立てられる。

 しかし片仮名の「シード」では、そこまで発想というか、連想が動かないのではないか。
私がついこの間までそうであったように。

 片仮名語による命名は、「ジョギング」や「ジョーク」のように、新しいコンセプトの語をもたらしてくれる良さがある。しかし、時にそれは言葉のブラックボックスにもなる。欧米系の外国語に通暁していて、その意味用法がよく分かる人はいいだろう。しかし、そうでなければ言葉の上でも格差が拡大されるのである。(執筆者:相原茂 編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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