建設・運営を行う香港鉄路公司(MTRC)によると、広州-香港間高速鉄道は広州市番禺区の石壁から香港の西九龍までを結ぶ142キロメートルで、うち26キロメートルが香港区間となる。深セン市の福田、竜華、東莞市の虎門を経由する。開通すれば広州-香港間の所要時間は現在の1時間半余りから48分に短縮。深セン・福田-香港間はわずか14分である。香港区間は07年の施政報告で10大インフラプロジェクトに盛り込まれ、行政会議は昨年4月、建設費は政府が出資しMTRCに50年間の経営権を与えることを決め、今年1月から詳細設計が始まった。年内着工、15年の開通を予定。建設中に約1万1千人、開通後に1万人の雇用が創出される。
行政会議(閣議に相当)で承認を得た計画案によると、建設費は537億ドル。物価上昇などによって昨年見積もった354億ドルから約50%オーバー。香港-広州間の運賃は180ドル。
この高速鉄道計画はルート確定など数年間にわたって物議を醸したが、依然さまざまな障害が立ちはだかっている。同鉄道は材料価格の高騰などから建設費が当初予測から大幅に跳ね上がるため、公民党と民主党は暫定的に建設を支持しないと表明。政府が利用者数の見込みなどについて根拠を示さなければ建設に反対する構えだ。
公共専業連盟は10月7日、政府案より建設費を抑えたルートを提案。同案はMTR西部線の錦上路駅を香港の起点とし、エアポートエクスプレスを青衣駅から延伸して同駅に乗り入れさせるもの。建設費は250億ドルで済むという。政府は香港の中心部に乗り入れる必要性を主張したが、同案を支持する公民党は、政府が同案を受け入れない明確な理由を説明しなければ建設を支持しないと表明している。
立ち退き問題でももめた。緊急停車駅と車両基地を建設する新界石崗の菜園村では、昨年末から住民が当局に抗議を始めた。菜園村では180万平方フィートの土地を接収するため約150戸の住民が立ち退きを迫られている。政府は最高60万ドルの現金補償や公共住宅の優先割り当て、農地・住宅所有者には補償額を一律最高ランクで計算するなど、土地収用コストは約20億ドルに達する見込みだ。約2万平方フィートの農地を持つ住民が1400万ドル余りを受け取ることになるなど、破格補償の前例となることも懸念されている。
本土側より5年遅れ
同高速鉄道の広州-深セン間は05年12月に着工し、今年12月には全線がレール敷設の段階に入る。早ければ来年7月から段階的に開通する見通しだ。本土側の路線はすでに建設が進んでいるのに対し香港側ではプロジェクトが停滞していたため、開通は5年も遅れることとなる。
特区政府は当初、高速鉄道計画にあまり積極的でなかったため、MTRCの前身である九広鉄路公司(KCRC)が香港区間の計画案を特区政府に提出したのは広州-深セン間の着工とほぼ同じころだった。計画案は2つで、1つは西九龍からMTR西部線の路線を利用して深センとのボーダーから本土の高速鉄道に乗り入れる案。もう1つは西九龍からボーダーまで専用路線のトンネルを造り、西部線を経由せずに本土に乗り入れる案だった。
専用路線案は共用案に比べると総工費が1.5倍、工期も1-2年余計にかかるため、いったんは西部線との共用案に落ち着いた。
中国で現在建設が進められている高速鉄道網は1万6千キロメートルに達し、完成すれば国内の輸送能力は格段に向上する。広州-香港間高速鉄道の建設は、それによってもたらされるチャンスに対応するものである。南北の幹線鉄道である北京-広州線は石壁駅に、沿海部の主要鉄道となる杭州-福州-深セン線は竜華駅に乗り入れる。広州-香港間高速鉄道はこの2駅に乗り入れ国内主要鉄道に連絡する。開通すれば香港が中国南部の玄関としての地位を確立できる。
06年の経済サミットは、本土との一体化を図らなければ香港は発展する中国から取り残されていくという危機感から提唱されたものである。高速鉄道計画が依然物議を醸しているのは、この危機感がまだ香港社会の共通認識となっていない表れでもある。(執筆者:香港ポスト 編集部・江藤和輝 編集担当:水野陽子)
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