2026年アジア競技大会開催のため、約5年間の改修期間に入っていたパロマ瑞穂スタジアム。そのリニューアル工事が終わり、名古屋グランパスJリーグ発足から使っていた“聖地”に戻ってきた。
それが19日に行われたJ1百年構想リーグ・アビスパ福岡戦。“レジェンド”ドラガン・ストイコビッチ氏が来場し、2万8924人もの大観衆が集結する中、メモリアルマッチを勝利で飾る必要があった。

 しかしながら、序盤から入りは重かった。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が「私が名古屋に来てから、最もひどい前半だった」と苦言を呈した通り、丁寧なビルドアップができず、思うように前線にボールが供給できない。逆にリスタートと縦パスをカットされてカウンターから2失点。名古屋はシュート1本にとどまり、指揮官も選手たちも強い危機感を覚えたことだろう。

「ハーフタイムにはロッカーで少し厳しい言葉を含めながらミーティングをしました」とミシャ監督は話したが、「このままではいけない」と誰もが感じたに違いない。そのタイミングで浅野雄也や菊地泰智を投入。さらには杉浦駿吾、小野雅史、森壮一朗といった面々も送り出して、猛攻を仕掛けたところ、後半38分に浅野が値千金のゴール。反撃の狼煙を上げる。そして後半アディショナルタイムに体を張り続けた木村勇大が同点弾をゲット。2点差を追いつくという“瑞穂劇場”を見せたのだ。


「2−2になった時点で、若干『よし、来た来た』と思ったんで」とPK戦突入を前向きに受け止めたのは、名古屋の絶対的守護神シュミット・ダニエルだ。この直後には、今季から福岡でプレーしている若き大型FW道脇豊の強烈シュートをビッグセーブ。チーム全体に大きな勢いを与えた。「正面に飛んできたんですけど、そんなに慌てず対応できた。僕は真ん中にいましたけど、サイドにもDFがいたんで、誰か止めてくれるかなという雰囲気はあったので」と冷静に対処。案の定、PK決着となった。

 名古屋の大サポーターの熱気を背後に感じながらのPK戦は、2人目が終わった時点で2−2。3番手の道脇が出てきたところで、シュミットは多少なりとも「イケる」という感触をつかんだのではないか。というのも、直前の決定機を封じていた上、道脇とはベルギーで懇意にしていた間柄。「僕の子供も沢山遊んでもらったんで」とも語っており、「いい兄貴が後輩のシュートを受ける」という構図になったのだ。

 次の瞬間、道脇はゴール右側を狙ったが、シュミットは迷わず反応。豪快にジャンプし、両手で弾いたのである。
「コースが甘かったですね」と悔しがる道脇に対し、「ちょうどいい高さだったし、久々にあんな気持ちいいPKセーブをしましたね」と守護神は振り返る。この1本が決め手になり、名古屋が勝利。勝ち点2を上乗せして、WEST3位に躍り出た。シュミットはチームの救世主として、確固たる存在感を示したと言っていい。

「PKは運の要素も大きいし、どこに飛んでくるかにもよるので。今日はことごとく読みが外れていたんで、もうちょっと相手に圧をかけられるようなPK戦に持っていけたのかなという反省もあります。PK戦に入る前にはナラさん(楢﨑正剛GKコーチ)から情報はもらいましたけど、『最後は自分で決めて、思い切ってやって』と言われた。そのアドバイスが結果となって表れたのはよかったです」と本人も新たな瑞穂での第一歩を白星で飾れたことに、安堵感をにじませた。

 この日は日本代表の森保一監督が視察する中でのプレーだった。シント・トロイデン時代の移籍に関するゴタゴタ、ヘントでの苦境、名古屋入り以降の相次ぐケガなどで、2023年9月から日の丸をつける舞台からは遠ざかっているものの、カタールW杯で共闘した指揮官に前向きな印象を残せたのは大きかっただろう。

 昨年、負傷に苦しんでいた時も、楢﨑コーチから「もう1回、代表を目指そうよ」と声をかけられていたというだけに、シュミットは大舞台を諦めてはいない。もちろん北中米W杯行きの可能性は低いものの、名古屋で結果を出し続け、「PK戦で大仕事のできるGK」というインパクトを残せれば、再び代表でプレーするチャンスも巡ってくるかもしれない。
彼はどんな時を高みを追い求めることできる男なのだ。

「今日の試合中はさほど悪くなかったとは思いますけど、ビルドアップの部分はもっとうまくできたところはあった。もっとやっていかないとミシャの要求には答えられないんで、練習します」。常に謙虚でひたむきなシュミット。こういう人材がフル稼働していれば、名古屋はもっと強い集団になれるに違いない。彼にはプロキャリアでまだ手にしていないタイトルを貪欲に狙い続けてほしいものである。

取材・文=元川悦子
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