―[メンズファッションバイヤーMB]―

 メンズファッションバイヤー&ブロガーのMBです。洋服の買いつけの傍ら、「男のおしゃれ」についても執筆しています。
連載第569回をよろしくお願いします。
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GUCCIの売り上げは3年ほどでほぼ半減

「Gucciは八方塞がり」「Nikeは迷走中」ほとんど知られていない“世界最高峰ブランド”の窮地
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「GUCCI」というブランドの評価、皆さんいかがでしょうか?

「成金、金持ち御用達」「スーツ、財布、バッグ」さまざまなイメージがありますが、皆さん共通して「高級ブランドの代表格」として認識されているのではないでしょうか?

 ケリンググループを代表するイタリアが誇る世界最高峰のブランドが「GUCCI」。リセールバリューも高く、富裕層受けもよく、SNSでも見かけ人気があるGUCCIが……実は今ちょっとピンチなんです。

 まずファクトベースでGUCCIの売り上げはわずか3年ほどでほぼ半減しています。2022年の約105億ユーロをピークに2025年では59億9200万ユーロ。現在は多少回復していますが、先行き不透明な景況が続きます。

1つめの理由は新興市場の不調

「Gucciは八方塞がり」「Nikeは迷走中」ほとんど知られていない“世界最高峰ブランド”の窮地
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 王者GUCCIが堕ちた理由について、まず1つが新興市場の不調です。下降トレンドの欧州市場を補うために中国市場に注力したGUCCI。世界のラグジュアリー消費の30~40%が中国系となり、「爆買い」なんてキーワードも生まれたのが2020年ごろ。GUCCIは中華系戦略としてロゴの打ち出しを強化、加えてモデルも中華系に寄せSNSはweiboなどを意識した打ち出しを行い大成功しました。

 中国には欧州と違い「ラグジュアリーファッションの蓄積」がない新興市場です。欧州はディープかつマニアックな需要のある客単価の高い“貴族層”が多くいますが、中国は新興ゆえに感度がヨーロッパほど高くなく「ロゴ」などのわかりやすい記号を求める“富裕層”が多い。GUCCIはそれに合わせて提案を組み立てることによりピークとなる売上である100億ユーロ超を記録したのです。

 しかしながら、中国経済の減退とともに現在は欧州に続き下降トレンド。
急速なスピードで中国富裕層の感度も鍛えられていき、「ロゴ打ち出しビジネス」にも天井が見えてきたのが昨今です。

中東投資をかなり強化したが…

 GUCCIなど多くのラグジュアリーは中国のマイナス分を補うべく、ドバイやサウジなど中東の新興市場を「ポスト中国」ターゲットにしていきました。LVMHやKeringもここ数年で中東投資はかなり強化しています。

 しかしながら、昨今の中東情勢があり政局不安定に。先行き不透明となり追い討ちがかかっている状況です。ドバイなどは平静・安全を装っていますが、観光資源が重要な収入源である国にとって治安の悪化・情勢不安を正しく報道するかどうかはいささか疑問です。実際に現地にでも行かなければわからない部分も多いでしょう。

 つまり下降トレンドの欧州などを補うために中国投資を進めたものの予想以上の経済減退と、さらに新新興市場として目論んでいた中東も不安定になってきて、八方塞がりになっている状態なのです。

2つ目の理由はデザイナー交代劇

「Gucciは八方塞がり」「Nikeは迷走中」ほとんど知られていない“世界最高峰ブランド”の窮地
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 またデザイナー交代劇が現在~今後のブランド運営をさらに不安定にするのでは、と私は考えています。

 ラグジュアリーがまるで「席替え」のようにデザイナーを大幅刷新したのは昨年あたりの話。セリーヌ、ジルサンダー、バレンシアガ、グッチ、ディオール、ロエベ……と枚挙に暇がないほど。ラグジュアリー全体が厳しい中、こうした「席替え」で顧客の印象を変える効果があったのか定かではありませんが……GUCCIは「成功」とは言えないようです。

 そもそもGUCCIの既存顧客が支持していたのは「色気・装飾・イタリア的官能性」です。GUCCIを再生させたデザイナーとして知られるトム・フォードはまさに色気の王者。
GUCCIはここ20年「官能性」の権威として君臨していた。光沢のあるスーツや煌びやかな素材色使いがGUCCIらしさとして捉える人も多いでしょう。

 ところがGUCCIは売上が下降トレンドとなり、デザイナー刷新を考え、新しくトップに迎えたのは何を血迷ったかイタリア的色気や官能性、ラグジュアリーとはまったく無縁な哲学的デザイナーだったのです。

ブランドとデザイナーの文脈はズレているようにしか見えない

 現デザイナーであるデムナはベルギーが誇る哲学的デザイナーの象徴、マルタン・マルジェラを師匠に持つ。反モード・反ラグジュアリーを標榜しストリートファッションをラグジュアリーに押し上げた立役者です。彼の今までの思想はGUCCIが持つ美しい官能性とは真逆である「醜いものに価値を持たせる」手法。

 ポテトチップスの袋にしか見えないバッグや、IKEAバッグをレザーで作ったり、ガムテープにしか見えないバングルを作り、ボロボロのクラッシュ加工をした薄汚い服をランウェイで披露したのがデムナです。

 これらは「アグリー(醜い)ファッション」と称され、今まで敬遠されていたストリートファッションをラグジュアリーの世界で再評価・再構成に成功しました。実験的かつ哲学的なプロダクトがデムナの持ち味です。時代を変えた素晴らしいデザイナーではありますが、クラシックかつ官能美を持つGUCCIにどうしてアグリーなデムナが合うのか。今の所ブランドとデザイナーの文脈はズレているようにしか見えません。

稀代の天才デザイナーの起用性は話題性十分だが…

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 また、デムナはロゴビジネスでバレンシアガをトレンドセッターに押し上げましたが、GUCCIは今新興市場の減退を受け「ロゴビジネスから脱却」しなければいけない立場のはず。

 稀代の天才デザイナーがGUCCIにということで話題性は十分ありましたが、実際プロダクトもGG柄を打ち出したものが多く今の所マーケットを読みきれていないとしか……。古い顧客を意識したクラシックなアイテムと新しい顧客を意識したストリートラグジュアリーとが混在し、結果両方を逃しているようにも思えます。


NIKEも迷走が続いている

 実はNIKEも株価3分の1、トレンドブランドの地位から完全に失墜しています。さらに卸業を縮小させ直営強化させた結果……市場からの声を十分に取り込むことができず、復刻モデルに終始したり「自身を否定するようなアンチスニーカーであるローファーモデル」を発売したりと迷走が続いています。

 GUCCI、NIKEとレジェンドブランドが没落しゲームチェンジが起こっているファッション市場とトレンド。次の覇権を取るところはいったいどこになるのか……。

―[メンズファッションバイヤーMB]―

【MB】
ファッションバイヤー。最新刊『ロードマップ』のほか、『MBの偏愛ブランド図鑑』『最速でおしゃれに見せる方法 』『最速でおしゃれに見せる方法』『幸服論――人生は服で簡単に変えられる』など関連書籍が累計200万部を突破。ブログ「Knower Mag現役メンズバイヤーが伝えるオシャレになる方法」、ユーチューブ「MBチャンネル」も話題に。年間の被服費は1000万円超! (Xアカウント:@MBKnowerMag)
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