AIや業務支援ツールで仕事は効率化しているはずなのに、なぜか前より忙しい――。そんな“多忙感”に追い詰められる会社員が増えている。
会議、報告、通知、チャット、リマインドに絶えず脳を揺さぶられ、気づけば仕事をしているのに何も終わっていない感覚に陥る。管理職として現場と部下対応に挟まれ、ついに心療内科に通い始めた男性の証言とともに、令和の現代人を蝕む「忙しさの正体」を探った。

“働きやすい”環境整備が進んでいるのに忙しいと感じる人が増加

AIで効率化したはずが「前より忙しい」と感じるのはなぜ?タス...の画像はこちら >>
働き方改革に、リモートワーク化、生成AIを活用した業務支援ツールの数々で“働きやすい”環境整備が進んでいるのに、「なぜかクソ忙しい」と感じる人が増えている。

セイコーグループが発表している「時間白書2025」によると、すべての年代の64%が「時間に追われている気がする」と回答し、「もっとゆっくり過ごしたい」と回答した人は約8割に達している。専門商社で部長代理を務める与田幹雄さん(仮名・48歳)も次のように話す。

「社員200人の中小企業なので、部長代理といっても現場仕事も兼務するプレーイングマネジャー。それでも、月曜日は全社会議に加えて長時間の部長級会議があるので、ほぼ一日が潰れる。毎朝行う部下との全体ミーティングに、プロジェクトごとの進捗確認、上長への経過報告、さらに今の時期は新入社員教育やコンプラ研修が重なるので、自分の業務なんて手がつかない。

業務効率化を目的に昨年からAIツールの導入が進んで、議事録や報告書の作成は確かにラクになったけど、部下が上げてくる報告書までAI任せなので、その内容のチェックのために、一人ずつ呼び出して個別事案の確認をするという余計な手間が生じている。それでいて、AI導入1年でどれだけ生産性が上がったか数値化しろという指令も出たので、しばらく残業続きとなるのは間違いない……」

現場仕事もこなす管理職の負担は増すばかり

20年以上、現在の会社に勤める与田さんは「電話でアポ取りして営業して、帰社したら口頭で上司に報告するだけ、という点で昔はもっとシンプルだった」と話す。

だが、今では一つの営業先を回るにしても、仕組み化の下に導入されたフレームに沿った提案書の作成、営業管理Excelへの書き込み、営業支援システムへの入力、Slackでの情報共有など、無数のプロセスを踏む必要があるという。そのため、現場仕事もこなす管理職の負担は増すばかり。

「それでいて、役員になったかつての直属の上司からは、個別に、『AIの使い方教えて』などと連絡が来る……。どれだけ忙しくさせれば気が済むんだと怒りを覚えて、情緒不安定になってきたので、2月には初めて心療内科のお世話になりました」

脳疲労と“外乱”で現代人の負担が増加

AIで効率化したはずが「前より忙しい」と感じるのはなぜ?タスクは増える一方、通知やチャットの“外乱”に脳が悲鳴
[なぜかクソ忙しい!]の正体
このように多くの人が抱える「多忙感」は、今や現代病とも言える。長く脳のリハビリテーションに従事し、現在はその知識を生かして企業研修にも取り組む作業療法士の菅原洋平氏は次のように話す。


「多忙感の原因はタスクの増加による脳疲労と、それに追い打ちをかける脳への“割り込み処理”とも言えるデジタル由来の“外乱”にあります。マルチタスク化という幻想の下、多くの仕事を並行処理する能力を求められながら、各種業務支援システムの浸透で会議の際にはリマインドやアラーム、メッセージアプリでは未読を知らせる表示、カレンダーアプリからは予定のプッシュ通知など、仕事の手を止めて対応しなければならない作業が増え続けている。この外乱が、人の予定をたびたび狂わせるため、常に時間に追われている感覚を抱いてしまうのです。

こうして多忙感が進行すると、イライラが募り始め、しまいには脳がショートしてぐったりする。これまで数多くの企業研修を任されてきましたが、対象者のほぼ全員が多忙感に襲われている状況で、その半数は危険水域にありました。個別に診断した人のなかには、多忙感を解消できぬまま過ごしてしまい、うつ病や適応障害を患ってから問題に気づく人もいます」

多忙感の解消策は…

背景にはSNSの浸透やリモートワーク化もある。

「スマホを開けば情報が氾濫し、スクロールするだけで無数の広告が目に入る。さらに、リモート会議になると、デジタル情報として処理されるので、脳への負荷が増す。あらゆるものがデジタル管理されるようになって、脳は悲鳴を上げているのです」(菅原氏)

そのため、脳の負担を軽減することが多忙感の解消策となり得るという。

「私の知る企業のなかには、全社的に電話応対をしない時間を設けるところもあります。そうして時間を区切って並行処理するタスクを減らしているわけです。公に方針を打ち出せば取引先からの不満も限定的。結果、大幅に生産性が向上したため、1年以上もその会社は電話応対ナシ時間の取り組みを続けています。
一方、経営者で多いのは、帰宅後は玄関にスマホを置いて翌日まで見ないという人。私の場合は、スマホをモノクロ画面にすることで、情報量を減らすと同時に見る気がしない状態にしています」(同)

多忙感に悩まされている人は、まずはプチ・デジタルデトックスから始めよ!

心を蝕む「多忙感」チェックシート

AIで効率化したはずが「前より忙しい」と感じるのはなぜ?タスクは増える一方、通知やチャットの“外乱”に脳が悲鳴
[なぜかクソ忙しい!]の正体
□いつも時間に追われていると思う

□返信して数秒後にメールをチェックすることがある

□メッセージやメールの通知が来たら即反応する

□やるべきことはわかっているのにボーッとしてしまうことがある

□タスクを片付けても「やりきった感」がない

□休んでいると罪悪感にとらわれる

□仕事の用語や相手の名前が思い出せないことがある

□予定を詰め込みすぎて一日の終わりにぐったりする

□会議や打ち合わせ後は頭の中が散らかって切り替えができない

□休んでいたわけではないのに「今日は何もしなかった」と感じることがある

□生成AIの処理待ちに別の作業を始めてかえってやることが増える

□休日も予定に追われる感覚がある

10以上ある人は危険!

1~3つ:多忙感がほぼなし

4~6つ:軽度の多忙感を覚えている状態

7~9つ:脳に負荷がかかり多忙感が定着しているので要注意

10以上:深刻な多忙感に襲われており危険信号

※菅原氏が著書『多忙感』に掲載したチェックシートに、2つのチェック項目を追加して作成

【作業療法士 菅原洋平氏】
国立病院機構で脳のリハビリに従事した後、睡眠外来や脳の仕組みに基づく企業研修を行うように。近著に『多忙感』(サンマーク)
AIで効率化したはずが「前より忙しい」と感じるのはなぜ?タスクは増える一方、通知やチャットの“外乱”に脳が悲鳴
作業療法士の菅原洋平氏
※2026年5月5日・12日合併号より

取材・文/週刊SPA!編集部

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