「後ろに人が並ぶと焦る」店ごとに違うタッチパネル
「最近、大手牛丼チェーン店のタッチパネルが『目的のメニューがものすごく探しづらい』とSNSで話題になりました。ですが、僕の場合は、どの店舗のタッチパネルも平等に苦戦しています。いろいろな牛丼屋や飲食店を利用しますが、店ごとに機械のボタンの位置や操作方法が違うから、目当ての商品を見つけるのにすごく時間がかかるんですよ」
「券売機でモタモタして順番待ちの人がズラリと並ぶこともしょっちゅうあって、『早くしなきゃ』って焦るんですよね。自分のせいで待たせるのは申し訳ないし。これなら、普通に店員さんへ注文するほうが気楽ですよ……」
説明を受けるくらいなら「直接注文を聞いてくれれば…」
飲食店ではほかにも、テーブルに置かれたQRコードをスマホで読み取り、スマホ端末から注文する方式も増えている。立花和雄さん(仮名・69歳)がよく行く近所の居酒屋も、今年に入って店員への直接注文から、QRコードでの注文形式に変更された。「初めてだったので、使い方がまったくわかりませんでした。一緒に店を訪れた妻もITにはからっきし弱いので、店員さんを呼んだら、横でつきっきりで教えてくれました。でもそれなら『その時間で普通に注文を聞いてくれたらいいのに』と思いましたね。QRコードを導入することで、人為的な注文ミスが減るなど、店側のメリットがあることは理解できます。
セルフレジで大渋滞「機械が変わるたびにあたふた」
「ある休日、混雑するドン・キホーテのセルフレジで、手持ちの旧旧500円玉(側面に『NIPPON』と刻まれている最初期のタイプ)を使おうとしたところ、機械が反応しなかったんです。そのときはそれしか現金がなかったので支払いができず、僕のところでレジが大渋滞してしまいました。お釣りでは旧旧500円玉が出てくるのに、支払いで使えないのはやるせないです」
何より困るのは、セルフレジの操作方法が統一されていないことだという。
「機械が違えば、お金を入れるタイミングも場所も違うし、スキャン方法や操作方法も違う。セルフレジに遭遇すると、毎回ビクビクしながら買い物していますね……」
「AIを使えば仕事が早くなる」と言われても…
「こっちの指示の出し方が下手なのか、毎回トンチンカンな回答が返ってくるんです。AIの回答に『違うよ』と説明して、また返事が来て……というラリーを何回も繰り返す。使いこなせれば便利なんでしょうけど、今のところ余計な仕事が増えています」
生成AIでは、AIに与える指示や質問文を「プロンプト」と呼ぶ。欲しい答えを得るためには、目的や条件、出力形式などを具体的に伝える必要があり、その組み立て方によって回答の質も大きく変わってしまうのだ。
そんな山内さんの苦労は、上司自身にも理解されていないそうだ。
「上司からすれば『AIを使えば仕事が早くなる』くらいの認識なんですよ。それなのに仕事のスピードが上がっていないものだから、『なんで仕事が遅いんだ』と思われるのが、一番しゃくですね」
ユーザーの側だけが悪いわけではない
券売機、セルフレジ、生成AI……。「2020年の新型コロナ禍以降、対面接客を避けるためにタッチパネル注文やセルフレジなどが急ピッチで導入されだしました。急遽導入したためにシステムが詰められず、使いづらいまま利用が始まったものも多いんですよね。アメリカの大手スーパー・ウォルマートは万引き件数の増加を理由にセルフレジを撤廃し、有人レジへの回帰を進めています。使いやすく改善を進めるなど、今後は、店側にとって不利益を生むテクノロジーについて方針が変わるケースも出てくるでしょう」
「強い」「弱い」のように、ITへの習熟度は最初から決まっているもののように語られやすい。しかし、年齢に限らず「わからないことを調べる習慣」があるかどうかという面も大きく関わっていると速水氏は指摘する。前出の山内さんが苦戦していた生成AIについても、それは同じだ。
「ChatGPTを使いこなしている人は、初めからそうだったわけではなく、それなりに時間をかけて使い方を調べています。仕事が速くなるのも、自分の思い通りにやりとりができるようになってからのことです」
新しい技術が登場するたび、ユーザーの側には「使えないと取り残される」と焦りが生まれやすい。しかし、速水氏は言う。
「『追いつかなきゃ』と考える必要はありません。
わからなければ調べる、必要なければ使わない。すべてのハイテクを無理に使いこなそうとしないことも、“IT弱者”にならないための一つの付き合い方なのかもしれない。
速水健朗(はやみず・けんろう)
コンピューター系の雑誌の編集者を経て2001年からフリーランスに。ショッピングモールや東京論、世代論など幅広い分野で活動。NHK、TOKYO FMなどでコメンテーターやパーソナリティーを務める。最近はポッドキャスト番組『これはニュースではない』を自主制作。主な著書『ケータイ小説的。』『ラーメンと愛国』『東京どこに住む』『1973年に生まれて』など
取材・文/松嶋三郎
【松嶋三郎】
浅く広くがモットーのフリーライター。紙・web問わず、ジャンルも問わず、記事のためならインタビュー・潜入・執筆・写真撮影・撮影モデル役など、できることは何でもやるタイプ。X(旧Twitter):@matsushima36
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