東京六大学野球リーグ・法大のマネジャーからこの春、tbc東北放送に入社した上中咲葵アナウンサー(23)が、新天地で奮闘中だ。公式戦の場内アナウンスでは神宮の杜を彩り、美声でファンから愛された。
アナウンサーの“デビュー戦”は「初鳴き」と言われる。上中アナの「初鳴き」は5月15日、午後1時からの5分間のラジオニュースだった。
「原稿を初めて読んで、アナウンサーになれたんだな、と実感しました。情報を間違えて伝えてはいけないので、読み間違えないように-と意識して、丁寧に伝えることを心がけました」
tbc東北放送はラジオとテレビの兼営放送局。5月31日のお昼前には、初めてテレビでニュース原稿を読んだ。
「冒頭の部分は顔を上げて、前を向いて読むことも意識しないといけません。読むことに必死になってしまうと、それが画面に映ってしまいますので…毎回、常に緊張しています。毎日、一日が終わるのがあっという間で、すごく刺激的です。大変ながらも、すごく楽しいです」
今春の東京六大学野球リーグ戦は休日を利用し、母校の試合を同期の元マネジャーと観戦した。在学中はブレザー姿でアナウンス業務や、カメラを手にしての広報業務に従事していた。
「内野席で1試合まるまる見たことが今まで、なかったんです。周りには法政大学野球部を応援して下さる方がたくさんいて、お話しする機会もあって。あらためて法政大学野球部の歴史ってすごいんだな、と感じました。引退してより、東京六大学野球の歴史や伝統を感じています」
この春、社会人となった同世代のほとんどがそうであるように、上中アナもまずは仕事を覚えるために、全力投球を続けている。仙台に移っても、癒やしの時間が野球であることに変わりはない。
「帰宅途中から楽天の試合をチェックしています。休みの日があれば、球場に行くようにしています。チケットを買ってスタンドで一緒に応援することで、球場人気の高い選手や、ユニホーム着用率の高い選手も知ることができます。観客席だからこそ感じられることがあるんです。楽天モバイルパーク宮城はもちろんですが、森林どりスタジアム泉にファームも見に行っています。実際に自分の目で見て、プレースタイルも知りたいと思っています。
法大マネジャー時代は、ロッテの場内アナウンスを33年間務めた谷保恵美さん似の声が評判だった。夢はプロ野球中継に携わること。幸運なことに、tbc東北放送は楽天のホームゲームをほぼ中継している。
「アナウンサーになりたかったきっかけが、プロ野球のベンチリポートなんです。旬な情報を届けることで、視聴者の方々にワクワクしていただきたいと、アナウンサーを目指し始めました。プロ野球チームがある県でアナウンサーになれたことは、本当に感謝しないといけないと思っています」
目指すべきアナウンサー像について、こう言葉を紡いだ。
「ずっと高校、大学と野球部のマネジャーをしてきて、主役の方を支える仕事をしてきました。今後のアナウンサー生活においても、自分が主役になる場面はほとんどないと思っています。一つ一つのお仕事の中で、『今いちばん大切に伝えなくてはいけないことは、どんなことだろう』としっかり考えて、やっていきたいと思っています」
入社以来の研修と“実戦”を経て、神宮を彩った伸びやかで優しい声が徐々に「プロ」になっていることに気づく。
◆上中 咲葵(うえなか・さき)2002年5月9日、埼玉・入間市生まれ。23歳。小、中学時代は吹奏楽部でクラリネットを演奏。西武学園文理では野球部マネジャーとして、20年夏の埼玉大会の代替大会準決勝で西武ドームにてアナウンス。法大では2年秋のフレッシュリーグで神宮デビュー。3年からは春秋のリーグ戦、明治神宮大会でも美声を響かせた。