宮本和知氏(61)=スポーツ報知評論家=は、現役最後の5年間を長嶋監督の下で戦った。2023年から巨人女子チームの初代監督を務める同氏は、1997年引退試合での“幻の采配”や、おしゃれなミスターとの秘話を明かし、故人をしのんだ。
現役最後の日、宮本はバットを振っていた。97年9月28日の中日戦(東京D)。引退試合の真っ最中に、ブルペンでティー打撃を繰り返していた。胸の中は長嶋監督への感謝でいっぱいだった。
「引退試合の日にティーバッティングをやった投手は僕くらいじゃないかな(笑)」
試合終盤に現役ラスト登板の予定だったが、想定外のことが起きた。先発のガルベスがヒットを打たれないのだ。5回、6回…。7回まで無安打投球を続け、大記録に迫った。引退登板はなしか―宮本が覚悟したその刹那、長嶋監督の指示が飛んだ。「川相のところで代打で行くぞ!」―。
「うれしかったなぁ。本当にありがたい話だよね。
ガルベスは8回1死から初安打を許し、引退試合の「代打・宮本」は幻になった。9回2死から打者1人を抑え、有終の美を飾った。試合後、右翼席へのあいさつを終えベンチ前に戻ると、あの笑顔が目に飛び込んできた。
「監督が、みんながベンチ前に整列して待っていてくれたんだ。そして、監督は僕を熱く抱擁してくれてね…。忘れられないよ」
スーパースターだった長嶋監督の下、97年まで5年間プレー。宮本にとって、思春期に戻ったような日々だったという。
「監督と選手の関係だけど、毎日ときめいていたんだよね。『あっ、長嶋監督だ』『長嶋監督、今日は声をかけてくれるかな』って、毎日ね(笑)。
引退後も救われた。キャスターとして目に留まろうとピンクのジャケットを着て東京Dに取材に行くと、定岡正二さんに「何だ、その格好は」と注意された。定岡さんが近くにいた長嶋監督に「監督、こんな格好で球場に来させていいんですか?」と同意を求めると、ミスターは言った。「いいんだよ~。俺も持ってるよ~。“魅せる場”なんだから、それくらいじゃなきゃダメよ」。定岡さんが逆に怒られた。
「最高のお墨付きだよね。長嶋監督がOKなものは野球界はOKだから(笑)。長嶋監督って、めちゃくちゃオシャレでしょう? 現役時代のプレーも、監督としても、普段の格好でも魅せることを考えていらっしゃった」
常にファンを意識するミスターには、周囲の人間もまた魅了された。2023年。本格始動した巨人女子チームの監督に就いた宮本は、初年度のスローガンを「2023“START UP” 魅せる!」に決めた。
◆宮本 和知(みやもと・かずとも)1964年2月13日、山口県生まれ。61歳。下関工から川鉄水島に進み、84年ロサンゼルス五輪で金メダル。同年ドラフト3位で巨人入団。通算66勝62敗4セーブ、防御率3・60。97年引退。2019年から21年まで巨人投手チーフコーチなど。23年から巨人女子チーム初代監督。左投左打。