◆第107回全国高校野球選手権大会第6日 ▽1回戦 県岐阜商6―3日大山形(11日・甲子園)

 広陵(広島)の出場辞退から一夜明け、甲子園に爽やかな風が吹いた。春夏計4度の日本一を誇る名門・県岐阜商が日大山形に逆転勝ちし、16年ぶりの夏白星。

生まれつき左手の指が欠損しているハンデを抱える横山温大(はると)外野手(3年)が「7番・右翼」で出場。同点打を含む4打数2安打1打点の活躍を見せ、決勝のホームを踏んだ。「自分のような子どもたちに、勇気や希望を与えられるような存在に」との思いを胸に聖地で躍動した。

 胸に刻む思いを、甲子園で大きな力に変えた。生まれつき左手指がないハンデを抱える県岐阜商の横山が、初めての夢舞台で躍動した。

 「こういう体でもできるんだぞっていうのを証明していきたいし、自分のような子どもたちに、勇気や希望を与えられるような存在になりたい」。5回に同点打を放ち、勝ち越しのホームを踏んだ。県岐阜商、唯一のマルチ安打。16年ぶりの初戦突破に貢献したヒーローは「ここに今いるんだって実感が湧いて、すごくワクワクしたし、とても楽しかった」と笑った。

握力68キロ右手で 1点を追う5回1死二塁。左打席に立った横山は、握力68キロの右手でバットを操り、チェンジアップを捉えた。「左手で最後まで押し込めるよう、練習から意識してきました」。

指のない左手で押し込み、右前へ同点打。その後に勝ち越しのホームを踏み、勝利の立役者となった。

 岐阜大会は19打数10安打、打率5割2分6厘のチーム首位打者。8回には外角直球を左前にはじき返した。左翼手がファンブルする間に、50メートル走6秒2の俊足を飛ばして二塁へ。藤井潤作監督(53)は「人より倍の相当な訓練、練習をしてきたと思う」と目を細めた。

 聖地に立つために努力を重ね続けてきた。「右打席だとバットが重くなると振り抜けない」と父・直樹さん(49)に助言され、小学校に上がる前に左打者になった。守備時の左手の感覚を大切にするため、小学4、5年で義手を外した。毎日2キロの米を食べ、左手に特殊なチューブをつけて筋力トレーニングも欠かさなかった。守備では右手にグラブをはめて捕球し、1秒足らずで左脇に抱きかかえ、右手で送球。「何回も練習してコンマ何秒でも早くできるようにしました」。

生まれつき右手首から先がないハンデを抱えながらメジャーで87勝した左腕ジム・アボットを参考に、鍛錬を重ねて名門のレギュラーをつかみ、3度の守備機会を無難にこなした。

 岐阜大会以降、SNSにハンデを持つ人々からメッセージが届くようになった。「『横山さんに勇気をもらった。自分も頑張ろうと思いました』って」と明かし、「やってきてよかったな」と感慨深げに話した。「練習して、次の準備をして、まだまだできるんだぞって示したい」。憧れの甲子園から、不屈の精神を全国に届けていく。(綾部 健真)

編集部おすすめ