人気時代劇「必殺仕事人」の組紐屋の竜役でおなじみの俳優・京本政樹(66)は、長嶋茂雄さん(享年89)と30年以上親交を深めた。第2次長嶋政権下では、巨人のピンチに“必勝仕事人”を務めたことも。

京本が見た長嶋監督の勝利への執念、選手への思いやりを、思い出の品とともに明かした。(取材・構成=水野 佑紀)

 幼少時代に「巨人、大鵬、卵焼き」世代だった京本にとって、長嶋さんは「憧れ中の憧れ」だった。2人が出会ったのは1993年、TBS系ドラマ「高校教師」の卑劣な英語教師役が話題を集めた頃。意外な組み合わせかもしれないが、憧れの人と過ごす時間は、夢のようで急速に仲を深めていった。

 今なお色濃く残る記憶は、神宮球場での95年9月29日のヤクルト戦。この日負ければ、長嶋さんのライバル・野村克也監督率いるヤクルトが優勝する。大一番の昼下がり、京本は長嶋さんとホテルの中華料理店で食事をした。

 「監督がふと、『京本君が来た試合は負けたことがないよね? 今日の試合来て』と。僕は言われて初めて気づきましたが、監督は把握されていた」。仕事があったため、いったんは断ったが「それでも来てほしい。(チケットは)僕が何とかするから。なるべく早く来てね」と依頼された。

 京本が球場に駆けつけると、試合は1回裏。ヤクルトが先制していた。長嶋さんが用意してくれたチケットは、夫の胴上げを心待ちにする野村沙知代さんが陣取るヤクルト側だった。

 「僕の近くに座っていた方たちが『ヤクルトが好きだけど、長嶋さんは大好き』って言うんですよ。応援チームは関係なく、皆さんから愛される人だと、改めて実感しました」

 1点差の7回、松井秀喜が同点打。広沢克己(現・克実)が勝ち越しタイムリー、原辰徳がとどめの2点二塁打を放ち、5対2で逆転勝ちした。

 その日の夜、長嶋さんから電話があった。「今日はありがとう。勝たせてもらったよ。京本君、明日はどう?」。残念ながら都合が合わず、翌30日、巨人は0対5で敗戦し、優勝を許した。(テレビ画面越しの)長嶋さんは野村監督の胴上げを見向きもしなかった。

京本は「最後まで勝ちにこだわる。『巨人の星』の人だなと思いました」と、憧れのまなざしを向けた。

 監督として選手を立てる一面も目撃した。東京・紀尾井町の旧赤坂プリンスホテル近くにあった有名ファッションブランド店へ、2人で買い物に出かけたときのこと。「待ち合わせ場所に向けて歩いていたら、監督が『堂本君! 堂本君!』って。いつもは『京本君』って呼んでくれるのに、あれはネタだったのかな~」。このエピソードを思い出す時は、つい笑ってしまう。

 2人で店舗に入ると、偶然にも巨人のルーキー選手がテレビ局の取材を受けていた。「監督は『ちょっとここで立って見てみよう』と言って、片隅から見守っていたんです。しゃしゃり出ないんですよ」。テレビカメラを向けられて横顔を撮られたが、選手を気遣うミスターの姿に感激したという。

 「光を失った」「大きなともしびが消えた」。

約35分にわたって言葉を振り絞った京本。取材後、全国の長嶋ファンのために、と思い出の品を披露した。

 そのうちの一つがサイン色紙。受け取ってすぐに長嶋さんが病に倒れたため、巨人関係者から「右手で書けた最後のサインかもしれない。大事にしてください」と声を掛けられた。刻まれた文字は「野球というスポーツは人生そのものだ」。今も家宝のように大切にしている。

 ◆京本 政樹(きょうもと・まさき)1959年1月21日、大阪・高槻市出身。66歳。79年NHKドラマ「車輪の一歩」でデビュー。NHK大河「草燃える」、フジテレビ系「銭形平次」などに出演。85年テレビ朝日系「必殺仕事人5」で組紐屋の竜役を演じ、不動の人気を得た。

主な出演作に「家なき子」「平清盛」「ちりとてちん」など。

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