◆JERAセ・リーグ 広島0―2阪神(13日・マツダスタジアム)

 らしさ全開の13球だった。阪神・石井大智投手(28)は2―0の9回に登板。

先頭・中村奨、ファビアンから連続三振を奪い、小園に中前打を浴びるも、最後は末包を151キロ直球で空振り三振だ。21年・平良(西武)に並ぶプロ野球記録の39試合連続無失点に到達。「記録的に残るのはうれしいけど、全然監督には及ばない」。現監督の藤川球児(06年、38試合)を超え、笑顔でツーショットに収まると「この先、まだ試合があるから頼むな」と激励された。

 NPB史上唯一の5年制高専卒業選手。四国IL・高知を経て、20年ドラフト8位から成り上がってきた。マウンドでは豪快な投球スタイルでも、素顔は控えめで目立つことを嫌う。侍ジャパンに選ばれた今も、独立リーグ時代のパーカーを愛用。「華がある方じゃないから」と私生活は大きく変わることはないが、夢を見せる時もある。

 4月6日。高知の主催試合で現役プロ野球選手としては異例の冠試合を開催した。100万円を自腹で負担。

チームスポンサーも務めており、総額は数百万円にも及ぶ。「年俸が上がればいいことあるぞ、ってね」。古巣のウェートルームにはスポンサー料で購入された中古の器具が並ぶ。筋肥大で頂点を見た右腕に続けと、恵まれない環境で血気盛んな後輩たちが汗を流す。

 今季は6月に打球が頭部を直撃。離脱中にトレーナーを通じて毎日コンタクトを取っていた藤川監督は「本当に誇らしい」とたたえた。チームは今季24度目の完封勝ちで、同最多タイの貯金24。マジックは2つ減って「26」となった。節目の記録にも「いつも通りです」と表情を変えなかった石井。どんな逆境にも打ち勝ってきた男が、歴史を変える。(直川 響)

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