◆第107回全国高校野球選手権大会第9日 ▽2回戦 仙台育英6―2開星(14日・甲子園)
仙台育英(宮城)が開星(島根)に勝利し、出場4大会連続で16強入りを決めた。1点リードの5回無死一塁、中前に抜けそうな打球を二塁手の有本豪琉(1年)が逆シングルで捕球し、遊撃手の砂涼人(1年)にバックハンドでグラブトス。
その瞬間、誰もが仙台育英の1年生二遊間の“戦闘力”の高さに目を奪われた。2―1の5回無死一塁の守備。開星の1番・小村拓矢が中前に抜けそうな打球を放った直後。二塁手の有本が二塁ベース後方まで回り込んで逆シングルで捕球し、二塁ベース上の遊撃手・砂にグラブトス。砂はその場でクルッと回転。華麗に一塁に送球し、2人で「アライバ」級の守備を見せ二ゴロ併殺打を完成させ、2万8000人の観衆を沸かせた。
甲子園がスーパープレーを生み出した。須江航監督(42)は鳥山明さん(故人)の人気漫画「ドラゴンボール」を例に出し、説明した。「甲子園は倍速どころか、1日に1年分の経験を積める。ドラゴンボールだと『精神と時の部屋』、1日で1年分の修業ができる。まさにそういうスピード感で成長している」とうなずいた。
実は有本は練習試合ですらグラブトスで併殺打を完成させたことはなかった。聖地でぶっつけ本番の大勝負に出た。「ギリギリの球際の練習はしていたけど、バックトスしかゲッツーの選択肢がなかった。反応というか流れに任せた感じです」。宮城大会から二遊間を組む相方・砂とは毎朝共にノックを受けてきた有本は「ショートが同級生の砂で安心してプレーができた」と言えば、砂も「有本が捕ってくれることを信じて二塁ベースに入った」と信頼感があった。指揮官も「抜けていたら、もう一つ拮抗(きっこう)した試合になったか、ゲームを落とした可能性もありますね」と流れを変えた1年生コンビのビッグプレーを絶賛。その後は追加点を重ねPL学園に並ぶ歴代5位の大会通算48勝目を挙げた。
須江監督はこの日の午後から翌15日いっぱいを仙豆(ドラゴンボールで疲労を回復する豆)代わりのオフにすることも明かした。「最後はストレスフリーで試合をすることが最も大事」。休養を挟んで17日の沖縄尚学戦に向け再始動する。困難を乗り越えドラゴンボールを集めた孫悟空のように、仙台育英が深紅の優勝旗をつかみにいく。(太田 和樹)