◆第107回全国高校野球選手権大会第14日 ▽準決勝 日大三4―2県岐阜商=延長10回タイブレーク=(21日・甲子園)

 県岐阜商の生まれつき左手の指が欠損している横山温大外野手(3年)は2回、一度は同点に追いつく犠飛を放つ活躍で、大観衆を沸かせた。

 やり切った。

直前に2点を奪われ、迎えた延長10回2死一、三塁。横山は最後の打者がアウトになるのをベンチから見届けると、静かにグラウンドへ走った。「悔いはない。みんなで胸を張って家に帰りたいと思います」。表情は晴れやかだった。右手で砂を集め、聖地に別れを告げた。

 執念の一打だった。初回に1点を先制され、迎えた2回無死一、三塁のチャンス。「絶対に追いつくぞ」。内角低めの変化球をすくい上げ、右犠飛で同点とした。

 生まれつき左手の指が欠損しているハンデを抱えながらも攻守で活躍する姿は、世間から大きな注目を集めた。「周りの人たちに勇気を与えられるようにという思いでプレーしていた」。

準々決勝まで4試合連続安打。懸命なプレーは、多くの人々に希望をもたらした。

 簡単な道のりではなかった。今春の県大会では準々決勝敗退。河崎広貴主将(3年)は、何をすべきか必死に考え、一つの答えを導き出した。「応援されるチームにならないと」。3年生らを巻き込み、毎朝校内の掃除を始めた。「学校のお手本になる野球部が目標だった。掃除を始めてから、応援してくれる人も増えた」。この日も同校三塁側アルプスには多くの生徒、関係者たちが集結。周りから応援される、強いチームに成長した。

 横山も「ここに立てているのは自分のおかげではなく、サポートをしてくれた人たちのおかげ」と周囲への感謝を惜しまない。

今後は大学に進学し、野球を続ける予定だ。「どこまで行けるか分からないですけど、行けるならプロまで頑張っていきたい」。ヒーローの夢は、まだ続く。(北村 優衣)

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