第107回全国高校野球選手権決勝で、西東京代表の日大三は沖縄尚学に1-3で敗れはしたが、チーム力を結集しての快進撃で鮮烈な印象を残した。強さの秘密はどこにあるのか。

同校のエースとして2023年夏の甲子園に導き、同年秋には侍ジャパン高校日本代表としてU-18ワールドカップの初優勝に貢献した安田虎汰郎投手(早大2年)に聞いた。(加藤 弘士)

 頂点にこそあと一歩、たどり着かなかった。だが、安田は「誇らしいですね。準優勝、本当に素晴らしいと思います」とたたえ、名門の強さのポイントとして3つの要素を挙げた。

【1】練習量

 小倉全由前監督の時代から、現在の三木有造監督になっても「練習はうそをつかない」が同校野球部の合言葉だ。

 「三高は量をどこよりもやっています。特に今年の代は本当に量をこなした代なんです。厳しい練習に耐えて、乗り越えてきた選手だと思います」

 日大三の名物といえば「冬合宿」。高校野球ファンにとっては「地獄」として知られるが、安田にとってはどんな時間だったのか。

 「逃げ出したいと思いました。『人がやることじゃない』と思うぐらい。前が見えないんです。

苦しくて、真っ暗(笑)。冬合宿では就寝後、自分は12分間走を夢の中でも走っていました。起きたら、『ああ、夢だったのか。現実はまだ走っていないのか…』と気づいて、毎朝絶望していました(笑)。寝ているときにも、三木さんにノックを受けている夢を見ている仲間が『三木さん! 三木さん!』って寝言で呼んでいる。取りつかれているんです(笑)」

 凍てつく寒さの中、朝5時からのランメニューやジャンプトレーニングなど尋常ならざる体力強化メニューをこなす。仲間で励まし合い、己の限界を突破する。

 「今年の代は僕らの時よりもやったと聞いています。冬合宿の成果は、一番はメンタルなんです。夏の大会で三木さんが試合前に『お前らと相手のチーム、どっちが苦しい練習を乗り越えてきたか? 絶対俺たちだよな! 負けるわけないよな!』って、話すと、みんな全身から自信がみなぎってくるんです。気持ちが強くなると思います」

【2】スマホなしの寮生活

 ハードな練習の一方、寮生活は先輩後輩の垣根がなく、アットホームなのが日大三の伝統だ。安田も言う。

 「小倉監督の時に築かれた、『3年生は下級生を大事にして、憧れられる存在になる。下級生は先輩たちのためにも、と頑張る』文化が今でも継承されているのは、うれしいですね」

 注目のポイントは、スマホ持ち込みがNGなことだ。

 「スマホがないので、練習するしかないんですよ。連絡は常に公衆電話です(笑)。全然、生活できますよ。いい環境だと思います。三高の選手の場合、野球に懸けている思いが違うんだと思います。みんなそれを承知で来ている。そういう環境で粘り強く頑張ったと思います」

 個人的な話になるが、記者が高校3年だった90年代初頭はスマホはおろか、高校生が携帯電話を持つなんて考えられなかった。私は北関東の県立校に通う劣等生だったが、志望校に合格するために脇目も振らず、猛勉強に励んだ。もしあの当時、スマホがあったら…。サクラ咲く、となったかは疑わしい。

青春時代、自らを律して一つの目標に突き進むのも、意義深いと思う。引退後はいくらでもスマホ、触れますし。

【3】チームの熱い絆

 三高に入学してくる選手には、どんな傾向があるのか。

 「ハングリーな選手が多いです。『もっとうまくなりたい』『だから三高でやりたい』と思う選手です。どうしても三高で、小倉さんや三木さんと野球がしたいという気持ちが、誰よりも強い選手が集まっています」

 そして、こう続けた。

 「自分は千葉のド田舎の、下手っぴな中学生でしたが、三木さんが『一緒にやろう』と受験を勧めてくれた。引退後のある日、『何であんなに下手クソだった僕に、声をかけてくれたんですか?』と聞いたことがあるんです。『お前の顔を見たら、3年間ウチで一生懸命にやってくれて、いい影響を及ぼしてくれると思った。まさかエースになるとは思わなかったよ。頑張ってくれて、ありがとう』と。厳しさの中にも愛があって、僕らの成長をいつも見守ってくれているんです」

 先輩と後輩の絆。

指導者らチームスタッフと選手の絆。ナインと支えてくれるマネジャーの絆。野球部と、応援してくれる吹奏楽部、チアリーダー、一般生徒との絆…それらは全て強固で、熱い。

 「チームの和こそ三高の一番いいところだと思います。『三木さんを甲子園に連れて行こう』『三木さんを男にしよう』と、誰かのためにやるんだと思えば、すごい大きなパワーを発揮できる。今年は特にそんな『つながり』を感じたチームでした」

 先輩たちの涙は下級生のエネルギーになって、新たな挑戦が始まる。代が変わっても、一生懸命に取り組む「SANKO PRIDE」は不変である。

 ◆安田 虎汰郎(やすだ・こたろう)2005年5月27日、千葉・鴨川市生まれ。20歳。日大三では2年秋からエース。3年夏の甲子園では1回戦の社戦で完封勝利。16強に進出。

侍ジャパン高校日本代表に選出。祖父・正二さんは千葉・安房小湊で伊勢エビ漁を営む。好きな有名人は玉置浩二。好きな投手は小山正明、村山実、稲尾和久。特技は歴代内閣総理大臣の暗唱。早大ではリーグ戦通算15試合に登板し、2勝1敗、防御率2・11。176センチ、77キロ。右投左打。

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