◆JERA セ・リーグ 阪神2―0広島(7日・甲子園

 甲子園のど真ん中で阪神・佐藤輝明内野手(26)がもみくちゃになった。「このためにやってるようなもん。

いい活躍ができた」。この日も5回に二塁打を放ったMVP最有力男。あふれる興奮を抑えられなかった。

 昨秋、藤川監督にリーダーを託された。「姿勢を背中で見せてくれ」。歴代指揮官から取り組みや態度に苦言を呈されてきた主砲。真っ先に期待を口にしてくれた新監督の思いに「応えたかった」。直後の秋季キャンプ、いつもは端にいたアップで中心に立った。「もう5年目。周りにも影響する」。男の覚悟だった。

 4月8日のヤクルト戦(甲子園)で今季初のベンチスタート。

実は体調不良で立つのもやっと。ベンチ裏にはベッドが特設された。試合中は横になったが「出られます」と直訴して代打で出場した。同期で選手会長の中野は「あの姿を見ると、若手はついていこうと思う」と回想する。2年前はスタメン落ちした試合での態度が一因で2軍落ち。輝が変わった―。マイペースな男のがむしゃらな姿勢は、周囲の見る目を変えた。

 他人に干渉しないが、動いたこともある。8月、判定や凡打に感情を出す森下を諭した。「気持ちの浮き沈みを見せてはいけない」。自らも経験したから、弟分の姿がもどかしかった。思い返したのは入団時の矢野監督の言葉。

「子どもたちの見本になるような野球をしよう」。ファンにあるべき姿を届ける責任感も増した。

 人間的成長に比例するように、潜在能力を発揮できずにいた打撃も開花。ステップ幅にテイクバック…。向き合い続けた先にあったコンパクトな新フォームで覚醒した。36本、89打点はリーグ断トツで、バース以来となる球団39年ぶりのホームラン王は、ほぼ確実。昨季は12球団ワースト23失策の守りも5失策と改善した。

 甲子園のお膝元・西宮で育ち、幼少期から幾度も通った本拠地。かつての自分と同じように声を張り上げてくれる虎党と歓喜をともにした。「本当に最高です!」。最後の最後まで大きな背中を見せた。(直川 響)

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