◆男子プロゴルフツアー ロピアフジサンケイクラシック 最終日(7日、山梨・富士桜CC=7424ヤード、パー70)

 トップで出た22歳の長野泰雅(たいが、福岡地行)がツアー初優勝を飾った。4バーディー、2ボギーの68で通算10アンダーに伸ばし、初日からトップを守る完全Vを果たした。

 最終18番、決めれば優勝の1メートルのパーパット。長野の手は震えていた。2年前のプレーヤーズチャンピオンシップ・サトウ食品最終日の18番で同じ距離から外し、プレーオフの末に谷原秀人に敗れた悪夢がよぎった。「緊張してる。外しそう…」。隣にいた山本凌平キャディーにそう告げると、返ってきた言葉は「絶対に大丈夫。今までやってきたことを信じてやろう」。ウィニングパットを決めきると、相棒とガッチリと握手をかわした。

 20歳だった23年9月に山本キャディーと初タッグを組んだパナソニックオープン。首位で最終日最終組に入ったが、2番でダブルボギーをたたいてV争いから脱落し、4位に終わった。「絶対にリベンジしよう」。2年前に交わした2人の約束が果たされた瞬間だった。

長野は「8歳上だけど、距離が近くて友達みたいな感じで接しやすい。仲が良いのもあって、八つ当たりもしちゃうけど、優勝したんで、大目にみてほしいですね」とニヤけた。

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 奈良県出身、29歳の山本キャディーは大阪経済大でゴルフ部に所属し、卒業後に証券会社に就職。だが、「自分の好きなことをやりたい」と、5年前に脱サラしてキャディーの道へ進んだ。最初は女子プロ、次第に男子プロのバッグを担ぎ、当時19歳の長野と同組で回っていた時に「横から見て、なんでそこからそんなに狙うねん。無茶しすぎやろ…」と感じた。ホールアウト後、長野に「実力があるのに、もったいないよ」と告げると、「(キャディーを)やってくださいよ」と熱いオファーを受けた。

 当時の長野は抜群のショット力が光った一方で「ゴルフがすごく荒かった」と山本キャディー。状況に応じて無理してドライバーを持たない、あえてグリーンを狙わないことなどを伝え、スコアメイクのためのマネジメントを構築した。「ここ2~3年で本人も『ここは奥はダメ、こう打とう』とか、ショートのティーショットも『最初から手前に打つわ』とか賢くなった」と言う。

 一方で「攻めのスタイルが俺のスタイル」と言い放つ、長野の強気な姿勢は尊重した。

 この日は、15番パー4で第1打を左の林に曲げたが「前が奇跡に開いてた」。

横に出さずにグリーンを狙うと相棒に伝えると、「おまえが行けると思うなら行こう、あかんかったらしゃーない」とGOサインを受け、果敢にフックをかけてグリーン奥へ運んでパーで切り抜けた。17番はカラーからのアプローチをパターでなく、得意なチップショットを選び「これが長野泰雅スタイルや」「好きに打って」。2人の軽妙なやり取りがいくつもの好ショットを生んだ。

 今大会は選手の賞金の10%がキャディーに贈られ、山本キャディーは165万円を獲得。「(大会特別協賛の)ロピアさんでお買い物します」と声を弾ませた。長野の初優勝を支え、キャディーとしても自身初V。そして、もう1つ待ち遠しい優勝があった。「阪神がすごい好き。タイガとタイガースが優勝。優勝できたら一生忘れない。寝られないですね。賞金で阪神グッズを買いたい」。

表彰式の数時間後、プロ野球・阪神が2年ぶりのリーグ制覇を決め、山本キャディーの3つの歓喜が重なった。

 長野の次の目標は、10月の日本オープン(栃木・日光CC)優勝で出場権を得る海外メジャー、マスターズ出場だ。自身の名前の由来となったタイガー・ウッズ(米国)が5度制した夢舞台。山本キャディーと悲願の優勝をつかんだ大きな自信を胸に、新たな野望へ突き進む。(星野 浩司)

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