◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
昨年、野球殿堂の候補者に「宇佐美徹也」の名前があった。殿堂ノミネートは2度目で、今年は最終選考の3人まで残った。
私は記録室の担当だが、宇佐美さんとは数回会った程度。それでも、大先輩が監修の野球記録本「プロ野球全記録」のお手伝いを毎年させてもらったのは、ちょっとした自慢だ。
私の入社時の指導役で、宇佐美さんのまな弟子だった前藤衛さん(記録室OB)に、現役時代の王貞治さんにまつわる、ちょっとした逸話を聞いた。王さんの進退が騒ぎになっていた80年、宇佐美さんに「辞めるかもしれないから(原稿を)用意しておけ」と言われたという。まだ、王さんが結論を出してない時点で、引退するとにらんでいたそうだ。
その年の王さんは30発は打ったが、打率はリーグ最下位(・236)。もう1年続けると、通算打率が3割を切るかもしれないから、そうならないように辞めるのではないか、とにらんでいたようだ。結局、通算打率・301を守って王さんは引退。この見立てが当たっていたかどうか、王さんに確かめる機会はなかったが、宇佐美さんは後に王さんが「記録」にこだわった人だという話を聞いたという。記録という角度から選手を見る宇佐美さんの考え方には、なるほど…と思った。
記録に関して厳しい人だったそうだが、私の知っている宇佐美さんは、お孫さんと一緒だったこともあり、良いおじいちゃんという印象。孫弟子としては次回の殿堂入りに期待している。(野球担当・福山 智紀)
◆福山 智紀(ふくやま・とものり)2000年入社。プロ野球記録担当。