◆世界陸上 第2日(14日、国立競技場)

 女子マラソンは世界大会初出場で早大サークル出身という異色の経歴を持つ小林香菜(24)=大塚製薬=が粘り強い走りで、2時間28分50秒で7位入賞を果たした。同種目の日本女子としては、2019年ドーハ大会7位の谷本観月以来、3大会6年ぶりの入賞で28年ロサンゼルス五輪の代表選考会「グランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場権も獲得。

サークルから世界への扉を開いたニューヒロインは、自国開催の世陸から勢いをつけ、夢の五輪舞台も射程に捉えた。

 自国開催の大舞台で新たなヒロインが生まれた。左拳を突き上げ、国立競技場に帰ってきた小林は「うれしいです。本当に最高」と満面の笑みでゴールラインを駆け抜けた。早大「ホノルルマラソン完走会」から直談判で大塚製薬に入部し、2年足らずで代表入りしたシンデレラガール。「絶対、コテンパンにされるんだろうなと思って、もうヤダなヤダなって思っていたんですけど、練習を信じて頑張りました」。あふれ出す喜びの涙を何度も拭った。

 高温多湿の厳しい条件下でも最後まで粘った。「自分のペースで」とスタートすると、自然と集団の前に出た。メダル争い圏内を位置取りながら20キロを4番手で通過。だが、後ろではエチオピア勢の集団がペースを上げており「鬼ごっこみたいな感じ」と約24キロで一気に抜かれて10位後退。それでも「ここからは自分が追いかけよう」と諦めず、持ち前の超高速ピッチ走法を駆使して7位まで上げた。

 経験したことのない緊張感だった。「精神面が一番きつかった」と代表の重圧を抱えながらも、今大会へ向けて懸命に足を磨いた。「走っていると無心になれる」と7月の月間走行距離は1300キロに到達。約3週間前からは母・美絵さんとも連絡を取らなくなるほどの緊張感で「早く終わってほしい」とも思った。

 誰より努力した自信もある。「サバイバルレースで戦える状況ではある」とコースは早大時代の生活圏内で、幾度も走った場所だ。「誰よりもこのコースは知っている」。沿道からの絶え間ない大声援に気持ちは徐々にほぐれ、「今までのレースとは比べものにならないくらい歓声が大きかった」と初の世界舞台を楽しんだ。

 自国開催の世陸では91年東京大会の有森裕子、山下佐知子、07年大阪大会の土佐礼子らに次ぐ5人目の入賞。過去の4人中3人はその後の五輪にも出場した。小林は今回、27年秋開催のロス五輪の代表選考会、MGCの出場権も獲得し「世界の舞台を経験できたのはかなり大きな強み。無駄にしないようにロサンゼルス五輪に向けても準備していきたい」と頼もしく言った。

伝統のバトンを受け継いだ24歳は、次なる目標へ大きな一歩を踏み出した。(手島 莉子)

 ◆経過 日本勢は小林が積極的な走りで7位に入賞した。仕掛けた米国勢を追って10キロ過ぎに先頭集団から抜け出す。24キロ付近でアフリカ勢につかまり、一時は11番手まで後退したが、粘り強く巻き返した。後方からレースを進めた佐藤はじわじわと追い上げ、13位。安藤は12キロ手前で集団から遅れ、挽回できずに28位。優勝争いは28キロ付近からジェプチルチルとアセファの一騎打ちがトラックまで続いたが、最後の直線でスパートしたジェプチルチルが制した。

 ◆MGC 日本陸連が21年東京五輪の男女マラソン日本代表選考会として新設した、マラソングランドチャンピオンシップの略。従来行われていた複数の選考会に代わり、予選に相当する大会で、定められた基準を満たした選手らが一発勝負でレースし、上位2選手は即時内定。28年ロス五輪へ向けては、27年秋の開催を予定している。

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