「ヤバい実家」(文藝春秋、1650円)は、「家」にまつわる本当にあった怖い話を6編、収めた“ヤバい”書籍だ。YouTube登録者数38万人以上を誇る2人組ユニット「都市ボーイズ」のはやせやすひろ氏(37)のもとに集まったさまざまな恐怖体験を、作家のクダマツヒロシ氏(38)がつづった。
あなたの実家は大丈夫だろうか。本作には、はやせ氏が体験者から直接聞いた実話をクダマツ氏が生々しく書き起こした5編が収録。はやせさん自身の「家にまつわる話」のコラムも掲載されており、担当編集者さえ「怖くて夜に読めない」と恐れお氏ののく内容となっている。
はやせ氏(以下、は)「僕は怖い話が好きなわけではなく、聞いた話を不思議な話として伝えるのが好きなんです。事実ベースで話を披露しているだけ。それをクダマツさんがくみ取って、うまく文章にしてくれました。読み返すたびに、聞き取りした体験者の顔も生々しく浮かぶので、クダマツさんを選んで本当に良かったと思いますね」
クダマツ氏(以下、ク)「僕自身は霊感もないし、不思議な体験もしたことがありません。極度の怖がりなので心霊スポットにも行きません。この本も、自宅で深夜に1人で書いているときは本当に怖かったので、午前中の作業に切り替えました。一方で怖がりだからこそ、怪談話でも文章でも純度高く伝えられるのかな」
怪談界では有名な2人。
は「僕は話をしてくれる人のトラウマを掘り起こして語っているわけですから、基本的に『信じてあげたい』という気持ちで接しています。もちろん、聞いた話の中には『それは妄想じゃないか』と思うこともあります。だから『信じたい』と『違うかも』の両方の目のを持つようにしています」
ク「基本的に怖い話は『あったもの』として聞いた後、自分の中でイエス・ノーを判断します。文章化する際には俯瞰(ふかん)して書くことが大切ですからね」
近年は空前の「怪談ブーム」。YouTubeには無数の怪談チャンネルがあり、「怖い間取り」や「近畿地方のある場所」などのホラー小説もベストセラーになっている。
は「映画『リング』がヒットした1999年はノストラダムスの大予言がありました。不安なとき、怖いものを求めるのが日本人なのです。今ならコロナですよね。日本には地震や台風など天変地異が多く、常に不安にさらされている。だから、日本人には『恐怖遺伝子』、恐がることができるという遺伝子を持っているそうなんですよ」
恐怖話の歴史は古い。
は「南北朝・室町時代には、弱者が主役の見世物が多く作られました。
では、怪談関係は時代を問わず儲かるコンテンツ…
は「それは別です。怪談で食べていける人なんて、ほとんどいませんよ」
ク「だからこそ私は、話せて文章も書ける存在を目指しています。こうして本作に携われることは幸せです」
はやせ氏は現在、妻と2人暮らし。事故物件に住み、日本・海外の呪物(じゅぶつ)を約100体ほどリビングに置いて暮らしている。奥様が心配になりそうな環境だが…。
は「最初は怖がってすぐに実家に帰っていましたが、いまは文句を言いません。僕が呪物に水やお酒をあげて愛(め)でていたら、『かわいいものだ』と思ってくれるようになりました。いまでは僕よりもかわいがっていますよ」
妻も一度だけ引っ越したいと言ったことがある。
は「大声をあげるので駆けつけたら、寝室の窓に指の手形がびっしりついていました。外から掃除してついたのかと思ったけど違う。
現在は…。
は「濃いめのカーテンで隠しています。引っ越しは契約更新直前に済ませたので無理。あと3年は住まないと」
妻とはいまだにお風呂に一緒に入るなど、仲が良い。
は「髪も乾かしてもらい、服も靴下もはかせてもらっています。彼女の過去の履歴書の写真、穴の開いた免許証も常に持ってます」
想像の斜め上の仲良しぶり。
は「妻が抜いた親知らずも2本あって、1本は家に保管。もう1本は財布に入れて持ち歩いています。今日インタビュー前に緊張して大きい仕事をしたので、触ったりしました。時々口のなかにも入れてますよ。彼女が生きるためにかみ砕いていた歯だと思うと可愛く感じるんです」
ク「こうした奥さんの話は、はやせさんファンには周知の事実ですが、私は何回聞いても理解できない領域です。だからこそ逆にめちゃくちゃ好きですね。
奥さんへの行動、人智を超えるという意味ではオカルト的ですな…。
は「イヤ違います。ただの愛です」
◆はやせやすひろ 1988年、岡山・津山市生まれ。37歳。テレビ番組のAD、放送作家を経て、岸本誠と怪奇ユニット「都市ボーイズ」を結成。YouTubeチャンネル登録者数は38万人超え。呪物コレクターとしても知られ、2022年から3年連続で開催された「祝祭の呪物展」は3万人以上が来場した。
◆クダマツヒロシ 兵庫県神戸市出身。会社員として勤務するかたわら、2021年から怪談を語る活動を開始。並行して執筆活動も行い、24年に初の単著「令和怪談集 恐の胎動」を刊行した。幼少期から現在に至るまで怪談蒐集をライフワークとしている。