◆世界陸上 第6日(18日、国立競技場)
男子400メートル決勝で、中島佑気ジョセフ(23)=富士通=が44秒62で日本勢過去最高の6位入賞を果たした。1991年東京大会での高野進の7位を上回った。
雨が降りしきる国立競技場に大歓声が響いた。大外9レーンから出た中島は、最終コーナーを8着で通過した。このまま引き離されるかと思われた最後の100メートル。大きくなる声援に押され、ペースがグッと上がった。「この歓声を背中に走れたって、本当に大きなこと」。力を振り絞って迎えたゴール直前、一気に2人を抜いた。日本勢過去最高の6位。「悔しい。
スタート前に頭に浮かんだのは「アップル社」の創業者スティーブ・ジョブズ氏の演説だった。「その時は何とも思わない経験も、点と点が結びついて成果になる」。これまでの努力がよみがえった。準決勝同様、力をためながらレースを展開。「(ペースを)抑えすぎた」が最後に見せた驚異の追い込みで「僕にとって英雄」という高野氏を抜き「うれしい」と笑った。
23年秋から、主に冬場の鍛錬期に単身で渡米。92年バルセロナ五輪男子400メートル金メダルのクインシー・ワッツ氏(米国)の指導を仰いだ。ワッツ氏からは最初の50メートルで加速したら残り200メートルまで「完全に脱力」と言われ、反復練習で走法を体に染みつかせた。
東京出身で、地元開催の世界陸上は「絶好のチャンス」とモチベーションになった。今季4月に右脚をけがしたが、「自分を信じて」と諦めなかった。
人間が無酸素運動できる限界は40秒と言われる。43~44秒で走るトップ選手はその域に達しており、レース後は数分以上、呼吸が大きく乱れる。過酷な競技を極めた中島は「まだまだ先は長い。メダル、金メダルを目指していきたい」と目標を掲げた。27年北京世界陸上、28年ロス五輪でのさらなる快挙へ、挑戦は続いていく。(手島 莉子)
◆1991年東京大会の男子400メートルVTR 予選で1次、2次、準決勝、決勝の4レース。30歳だった高野進は、1次予選を通過すると、2次予選は第1組2位で通過。準決勝は各2組の4着までが決勝に残るが、序盤から積極的なレースを展開し、3位で突破。1932年ロサンゼルス五輪男子100メートルで6位入賞の吉岡隆徳以来、日本短距離勢で59年ぶりの世界大会でのファイナリストとなった。
◇中島 佑気ジョセフ(なかじま・ゆうきじょせふ)
▽生まれ 2002年3月30日、東京都生まれ。23歳
▽競技歴 小学生から陸上を始め、立川第一中、城西高から東洋大に進学。22年オレゴン世界陸上は1600メートルリレーで過去最高の4位入賞。23年ブダペスト世界陸上は400メートル準決勝敗退。24年パリ五輪は1600メートルリレー6位入賞。今回の東京世界陸上400メートル予選で44秒44の日本新記録をマークした
▽両親 父はナイジェリア人、母は日本人
▽アイスがきっかけ 小学校の陸上クラブで、練習後に配られるアイスが楽しみだった。「それにつられて始めた感じ。アイスをくれたおじさんには感謝しない(笑)」
▽身長 192センチ