◆世界陸上 第7日(19日、国立競技場)

 女子やり投げ予選が行われ、昨年パリ五輪覇者で日本女子初の2連覇を目指した北口榛花(27)=JAL=が決勝進出を逃した。全36人が出場した予選で突破の上位12人に残れなかった。

2組に分かれたA組のトップバッターで登場し、1投目に60メートル31、2投目は60メートル38と伸ばしたが、最終3投目は58メートル80と60メートルラインに届かなかった。6月から右肘のけがに悩まされ大会直前まで不安が残っていた。ここまで競技力向上のため、異種目異競技チャレンジし、様々な角度から成長を測ってきた。今年2月に新しく取り組んだのは、発声練習。指導したオペラ歌手の笛田博昭さん(46)が、発声とスポーツの親和性や北口のレッスンについて語った。

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 競技力向上のために北口は様々なことにチャレンジする。ヒントを得て「どう組み合わせていくかは自分の作業」と取捨選択しながらやり投げに落とし込んでいくのだ。物を前に投げるやり投げは、発声にも通ずる部分があると考え、数年前から腹圧を高めるために声を出して投げることに着手。その中で「声を出すのにもちゃんとした出し方がある。やりを前に投げるのに、自分の声が後ろに引っ張っていたら力的にロスになる」と考察。オペラ歌手の笛田さんにレッスンを依頼し、今年2月に実現した。

 スポーツ選手に教えることは、笛田さんも初めてだった。

北口のことは「もちろん知っていましたよ。圧倒的に外国人が強い投てき種目で、こんなに強い日本人が出てきたんだなあって、うれしかったです」とはにかむ。笛田さんは新潟・越後湯沢出身で幼少期は水泳、野球、冬場は「ほぼ毎日」スキーをしていたというスポーツ少年。これまでの経験はオペラ歌手に生きていると考えており、「僕らは体が楽器。もちろん歌を歌うことで一番鍛えられますが、プラス要素であると思っています」とうなずいた。

 声の出し方のコツは、「自分の後ろに壁を作る」こと。「壁を作って、それを反響板にして声を出す。そうしないと声が前に響いていかないから、すっぽ抜けるみたいになってしまいます」。やり投げは、前に物を投げる競技。「無駄なエネルギーを後ろに逃がさないようにする」と伝授した。最初の声出しで北口の声を聞くと、一般の人よりも大きめな声が出たことに驚いた。途中、体が固まってしまったときは「歩きながら声を出してみましょう。

力みません」とアドバイス。約1時間のレッスンで、より柔らかく、前に声を出せるようになり、北口も「声を前にどう響かせるか学べた」と充実の表情だった。

 明るく前向きな北口と交流し、笛田さんも刺激を受けた。「僕もまだまだ頑張ろうって元気をもらいました。歌は体のケアなど本人がきちんと向き合っていけば、60歳を過ぎても変わらず歌い続けることができます。だから、そうありたいなって思っています」。

 新たな取り組みを経て迎える世界陸上へ「やっぱり金メダルをとって、あの満面の笑みで『わー』って言っている姿が見られたら最高ですよね」と笛田さん。多くのエールを受け北口はまた陸上界の歴史を変えた。

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