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新型コロナウイルスの影響が深刻化した4月から約5ヶ月が経とうとしている。世界を震撼させた新型コロナウイルスの危険は未だ続くものの、徐々に経済活動を再開していく動きがある。

そんな中、内閣府が8月17日に発表した2020年4~6月期四半期別GDP速報によると、2020年第2四半期のGDPは前年同期比で27.8%減少したことが判明した。1955年の統計作成以降で、最大の下げ幅になったことから分かるように、新型コロナウイルスによる経済的影響は、前例がないほど大きいことがわかる。このような状況で、国内スタートアップへの投資はどのような影響を受けているのだろうか?2020年上半期のスタートアップ投資動向に迫る。

2020年上半期国内スタートアップの資金調達状況

STARTUP DBが集計したデータから2019年と2020年のスタートアップ企業全体の資金調達動向を紐解いていく。

2020年上半期国内スタートアップ投資動向レポート

新型コロナウイルスの影響を受ける前の2020年1月が1,105億円と最も高く、月によって異なるものの、その後は減少していることがわかる。2020年1月は、登記簿からPayPayによる680億円、Inagoraホールディングスの53億円、H.I.Fの50億円などの資金調達もあり、その影響で資金調達金額が他の月に比べて突出したと考えられる6ヶ月間の資金調達金額合計で比較したところ、2019年は合計3,188億円、2020年は合計3,359億円となっており、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年のほうが資金調達金額合計では多くなっていることがわかった。

下の図は、2019年と2020年の資金調達を実施した企業数を比較した図である。

2020年上半期国内スタートアップ投資動向レポート

資金調達を実施した企業数の比較では、3月を除いた全ての月で2019年の方が多いことがわかる。6ヶ月の合計では、2019年が920社、2020年が745社となっており、175社の差がある。2020年は、資金調達実施企業数は2019年に比べて減少する一方で、1社あたりの平均資金調達金額は、2019年が3.4億円、2020年が4.5億円となり、増加している。

また、1社あたりの調達金額の2019年と2020年の上半期の比較図は以下のようになっている。

2020年上半期国内スタートアップ投資動向レポート

10億円未満の資金調達を実施した企業は2019年は488社、2020年が380社であり、2019年のほうが上回っている。

10億円以上の資金調達を実施した企業は、2019年は50社、2020年が58社となり、2020年の方が上回っていることがわかる。

また、2020年1~6月の資金調達金額ランキングが以下となる。

2020年上半期国内スタートアップ投資動向レポート
こちらにランクインしている上位3社をピックアップする。

VPP Japan


「オフグリッド電力供給サービス」を展開するVPP Japanは、2020年3月にみずほ銀行をエージェントとしたシンジケートローンにより総額100億円の資金調達を実施。2021年までに、国内の流通サービス500施設、累計100MW自家消費太陽光の導入を進めていく見込みだ。

APB


次世代の電池として期待されている「全樹脂型電池(All Polymar Battery)」の製造、販売をおこなう慶應義塾大学発のスタートアップ。2020年6月に、豊田通商を引受先とする資金調達を発表。また同社は同年3月に総額80億の資金調達も完了している。

この調達は全樹脂電池の量産工場設立を目的としており、全樹脂電池の量産技術の確立、製造販売の開始に向けての投資に充当する方針だ。

Looop


再生可能エネルギーを中心としたエネルギーサービスを提供するスタートアップ。2020年6月には、ENEOSNECキャピタルソリューションズ双日日本グリーン電力開発など全6社による28億3,000万円の資金調達を実施し、ENEOSとは資本業務提携を締結した。今後は新サービスの開発や、全国規模の営業規模を強化していく方針だ。

2020年上半期投資件数が多い投資家一覧

次に、2020年上半期に投資を実行した投資家に関してみていく。

2020年上半期国内スタートアップ投資動向レポート

上記の表は、2020年上半期に10件以上の投資を行っている投資家をピックアップしたものである。系統に注目すると、金融系VCと独立系VCが寡占していることがわかる。投資件数に着目していることから、シード系スタートアップに投資している投資家が多くなっているものの、大手銀行系VC3社が20件以上で上位を占めている。

また、13社のうち8社が独立系VCという結果となった。その中でも投資件数上位の金融系VCと独立系VCをピックアップする。

みずほキャピタル


1983年設立のみずほフィナンシャルグループにおける統合ベンチャーキャピタル。基幹ファンドである成長支援ファンドをはじめ、ライフサイエンスファンド、グロースファンド、Fintechファンド、事業継承ファンド、6次産業化ファンドなどの運用を行っている。2020年8月時点で、同社が支援した企業の累計上場社数は、843社に及んでいる。

SMBCベンチャーキャピタル


2005年に設立された、SMBCグループのベンチャーキャピタル。成長性の高い未上場企業に投資する基幹ファンド、産学連携ファンド、領域特化型ファンドなどの運用を行っている。アーリーステージの企業に積極的な投資を行っており、同社が支援した企業の累計上場社数は、2020年8月時点で403社となっている。

三菱UFJキャピタル


1974年設立の三菱UFJフィナンシャルグループのベンチャーキャピタル。メインファンドである基幹ファンド、ライフサイエンスファンド、創薬分野をターゲットとしたOiDE®ファンド、海外進出を目指す企業を支援する日台ファンド、東北6次産業化サポートファンドなどの運用を行っている。同社が支援した企業の累計上場社数は2020年8月時点で、883社となっている。

フューチャーベンチャーキャピタル


1998年設立で、京都に本社を置く独立系のVCであり、地方創生ファンドや事業会社とのCVCファンドの運用などに取り組んでいる。「開業率を高める創業ファンド」や「廃業率を下げる事業承継ファンド」、「地域に事業を創造するCSVファンド」の事業モデルを設計して、積極的に地域への展開をすすめている。また、アーリーステージの企業への積極的な投資も特徴としている。

ANRI


2012年に1号ファンドを設立以来、2019年10月時点で100億円以上を運用してきた独立系VC。2019年には200億円規模となる4号ファンドを設立。また、2020年4月には、Withコロナ時代に向けたオンライン完結型の投資を開始するなど、時代に即した投資を実行している。

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、2020年における資金調達金額や資金調達実施企業数は2019年に比べて減少傾向にあったものの、1社あたりの資金調達金額に着目すると2019年と2020年とではむしろ2020年の方が増加傾向にある。これらを鑑みると、スタートアップマーケットはコロナで下火になっていないことがいえそうだ。

今後もSTARTUP DB編集部では、公開情報を元に国内スタートアップにおける投資動向に迫っていく。