4棟(120戸)の団地の理事長経験者である筆者が自身の団地の老朽化、高齢化、単身化をぼやく本連載。今回のテーマは「住人の他界」。
今回の主人公は、親の持ち家を相続したC君。これまで親世帯が担ってきた階段理事を、初めて一人で務めることになり、やらされ感でいっぱいでした。自身の仕事についても家族についても多くを語らない……そんなC君が初めての理事会で住人の超プライベートに関わる事態に直面したのでした(※階段=同じ階段を共用する10世帯のこと)(イラスト/てぶくろ星人)
階段理事とは、1階段=10世帯を1単位とし、毎年持ち回りで選出される代表者のこと。月に一度開かれる「理事会」に出席します(イラスト/てぶくろ星人)
管理組合の理事会に顔を出さないC君
そもそもC君は、就任当時、自身が暮らす階段の前任者から「仕事が多忙で不在がち」という申し送りがあり、理事同士が初めて顔を合わせて担当理事を決定する“役決め”の場にも顔を出しませんでした。
私自身もそうでしたが、こうしたケースではズルズルと欠席が続きがちです。
その先に待ち受けるのは「階段内の連絡業務が滞る」という事態。このような状況では団地内に人脈が築けず、自分自身の居場所も狭くしかねません。
会議の後、机の上にポツンと残されたレジュメを見て、ポンコツ理事長(私)は決意しました。
「C君に渡してあげよう、という人が誰もいないなら、私が渡してあげなくちゃ」
その晩、仕事帰りのC君をつかまえて、「理事会は10年に一度のご近所づきあいだよ」と伝えました。会議の資料を渡し、回覧板の回し方などをひと通り説明するうちに、C君の警戒心も少し和らいだようでした。
初めての理事を「正直面倒くさい」と思う気持ちも理解できます。「階段の代表として、顔を出すだけでもいいから」とお願いしました(イラスト/てぶくろ星人)
理事会に初出席のC君、いきなり深刻すぎるテーマを持ち込む……
こうして迎えた7月の第二回理事会。ついにC君が出席してくれました。
理事会の進行役はポンコツ理事長です。
私「じゃあ、次はC君。C君の階段で何か変わったことはありましたか?」
C君「はい。実は先日、うちの階段の住人が亡くなって……」
全員「え!」
C君が初出席にしては深刻すぎるテーマを持ち込みました。香典については、前理事長からの引き継ぎで、「辞退されるケースもあった」「お金がもったいない」などの理由で出金を控えたと聞いています。さて、私たちの理事会メンバーはどう感じるでしょうか?
話し合いの結果、皆さんご遺族には同情的。前年度とは方針が異なりますが、管理組合から香典を出すことになりました。理事長の仕事として、まず会計担当理事に香典(1万円)と香典袋の出金と手配を指示。香典袋には薄墨で表書きを、とお願いします。
私「準備が整ったら、持っていくのは階段理事のC君やで!」
と言いたいところでしたが、親の代から居住している団地とはいえ、本人が理事を務めるのは初めて。
聞けばC君も「今は単身世帯」とのこと。確かに私が代行すればスムーズでしょうが、それでは本人のためにならない。折衷案としてC君の後ろから私が付いてゆくことにしました。
住人の他界は寂しい知らせで、その寂しさに寄り添うことも大事ですが、気持ちの他に居住者の把握や管理費の入金といった管理面の問題もあります。そこで私は理事会に同席している管理会社のS君の知恵も借りることにしました。
私「管理会社的にはどんな手続きが欲しいん?」
S君「組合員の死亡にあたって、手続きはご本人から直接、管理会社へ『相続』『名義変更』『口座変更』の3種類の書類を提出願います」
<S君の「住人死亡時」対応講座>「遺族にお願いする3つの手続き(相続・名義変更・口座変更)と注意点」
今回は「子どもがすでに独立している高齢夫婦のみの世帯」で、夫が他界。妻が相続する、というケースでした(イラスト/てぶくろ星人)
●相続:
物件を入手する手段には大きく分けて「相続」「売買」があります。
●名義変更:
「相続」により、誰が持ち主になったかを明記します。
●口座変更:
管理費の引き落とし口座が故人(今回は夫)だった場合、まず管理会社へ新しい口座(今回は妻名義の口座)を届け出ます。銀行に他界を知らせるのは、管理会社の手続きが完了してから。でないと夫の口座が凍結され、管理費の未払いとみなされてしまいます。
すでに連絡済の場合も、遺族が振り込み処理をすることは可能。
遺族を訪問。先にお参り、次に香典
5つのツールを持って、悲しみに暮れるお宅を訪ねました。
●香典
●相続届
●名義変更届
●口座変更届
●返信用封筒
仏壇のある応接間に、妻、この日のために隣県から駆け付けた長男さん、「たまにお隣とあいさつするくらい」と言うC君、ぽっと出の理事長の私……故人が引き合わせてくれた4人が座っています。
私「まずお参りを……」
長男さん「ありがとうございます。(さっとロウソクに火をつけて)お願いします」
私(数珠を手に焼香し頭を下げる)、C君(さっと隣に来て私に倣う)
私「これは管理組合からです」(香典を供える)
妻・長男さん「わざわざありがとうございます」
その後、お茶が振る舞われ、故人をしのぶ温かな時間が過ぎました。「しのぶ」といってもなにしろ全員がほぼ初対面ですから、どちらかというと自己紹介のような形になりました。
私「お宅に伺うのは初めてですね」
遺族の妻「最初からお住まいなの?」
私「はい。途中、結婚していた時期は外に出ていたのですが」
C君「僕は中学生の頃、引越ししてきて」
遺族の長男さん「(C君の亡くなった)お父さんが引越しのごあいさつにいらしたのが昨日のことのようです」
私「(C君のお父さんは)イケメンやったって聞いてるで~」
C君「態度がでかいだけで(笑)。亡くなった今もこうして覚えていただいてるなんて」
遺族の妻「C君のお母さんは早くに亡くなられましたね」
C君「はい。57歳でした」
私「え?! 今の私と同い年……(複雑な心境)」
正直、私だって重苦しい任務に気乗りしていませんでしたが、実際に訪ねてみると、その場はゆったりとした癒やしの空気にあふれ、新しいつながりを実感できたように思います。
また「階段の交流はない」と言っていたC君を、階段の人たちが「C家の次男坊」として温かく見守っていてくれている様子が見てとれたことも収穫でした。
竣工(1981年)当初は30歳代、40歳代の働きざかりだった親世代も、今や70歳代、80歳代になりました。相続か、売却か、決断を迫られるお宅も目立つようになっています。
自主管理から一部管理委託へ舵を切った当団地。親世代から第二世代へ、果たして当団地の管理組合の世代交代はうまくいくのだろうか……そんな心配も頭をよぎる中、C君の一件は、第二世代が階段のコミュニティーの一員として成長していく道筋を照らす希望の光のように思えたのでした。
C君が心のマスクを外し、初対面の猫をあやしています。私は50代で急逝したC君のお母さんの心情に思いを馳せました(イラスト/てぶくろ星人)

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