ポテトチップスの袋が、白黒になる。カルビーが一部商品のパッケージを順次、白黒に切り替えると発表し、驚いた方も多いかもしれません。

ただ、影響はポテトチップスだけではありません。スパゲティを束ねるテープが無地になったり、「カラフルな袋は今後難しくなる」と明かすハムのメーカーが出るなど、食品包装の現場で「インク不足」の影響が広がっています。

”色”は贅沢品?カルビーの白黒ショックの画像はこちら >>
<5月25日の週から順次「白黒パッケージ」に切り替えが始まるカルビー「ポテトチップス」。カラー印刷では緑の海苔の質感が食欲をそそります…>

原因は、インクや溶剤の原料になる「ナフサ」の不足と言われれています。では、実際の印刷現場では何が起きているのでしょうか。カルビーの委託先ではありませんが、お菓子の袋と同じプラスチックフィルムへの印刷を手掛ける、高知県の印刷会社「フソー化成」の丁野 務さんに伺いました。

足りないのはインクより「薄め液」

「フソー化成」丁野 務さん

まずインク買うときには非常に「濃いままの状態」で来ます。それを必要な濃度に希釈をしてから印刷をすると。これ、溶剤ですね、シンナー。薄めるためにシンナーが必要なんですけど、こちらの方がタイトです。

5月はなんとか入りました…入ります…?まだ入ってないのかな。6月についてはお返事がなかなかいただけないうような状況で、納入の確約と言いますか。当然お客さんからも「大丈夫ですか」と問い合わせがあるんですけど、確約ができない。

「絶対ですか?」と言われると、極端なこと言うと「入るまで分かりません」と。

ます私どもですね、調達するのが最優先なんで、仕入れ金額のこと全然私も目が届いてないですね。もう値段がなんぼでもいいから持ってこいって状況ですよね。

丁野さんによると、今とくに厳しいのは、インクそのものよりも、インクを薄めるための「溶剤」、いわゆるシンナーです。

フソー化成では、トイレットペーパーの袋などを月に何百万袋も印刷しています。使っているのは「グラビア印刷」。金属のローラーに細かい溝を彫った「版(はん)」にインクを流し込み、フィルムに写していく方法です。お菓子の袋のように、つややかで鮮やかな色を出せるのが強みです。

ただ、この印刷方法は、インクを薄める溶剤を大量に使います。その原料になるのが、石油化学製品のもとになる「ナフサ」。中東情勢の影響で、そのナフサ由来の資材が手に入りにくくなっているようです。

フソー化成で使う溶剤の量は、ひと月におよそ10キロリットル。

工場の地下には、ガソリンスタンドのような大きなタンクがありますが、3月に一時供給が止まりました。現在は必要量の7割ほどをなんとか確保している、綱渡りの状態とのこと。

インクは、機械のスピードや印刷する色に合わせて、現場で濃さを調整しなければなりません。最初から薄めた状態で買えばよさそうにも思えますが、それでは使い物にならない。水で薄めすぎた絵の具では、思った色が出せないのと同じです。

仕入れ値も上がっています。溶剤は1キロ200円ほどだったものが、260円ほどに跳ね上がったそうです。袋も、インクも、薄め液も、もとをたどれば石油由来。価格の高騰だけでなく、そもそもモノが入ってこないという現状に、丁野さんは頭を抱えていました。

「最悪、白黒にするか」が現実に

こうした中で、カルビーが打ち出したのが「白黒パッケージ」。実は印刷業界では、以前から冗談のようにこんな話が出ていたそうです。

「フソー化成」丁野 務さん

えーとね、これ3月末ぐらいから業界では冗談で言ってた話なんですよ。「絶対ないだろうけど、まあ最悪、白黒にするか」みたいな。

本当にやっちゃったみたいな。本当にやるかみたいな話です…。

2色にすることによって、確かに総使用インクとか、総使用有機溶剤は減ります。だいたい最低、5色印刷が必要です。赤、青、黄、白、黒の5色が必要です。まぁテレビ画面と一緒と思っていただいたらよいですけど、それが必要で、それを2色にすることによって総使用インクおよび溶剤は減ると思います。

本当にカラフルな袋が仕入れられなくなった時に慌ててやると出荷が止まっちゃうから、事前にやっておこうという感じがしますけど、やっぱりいろんなインパクトもありますでしょうから。

カラフルなお菓子の袋を印刷するには、一般的に複数の色を重ねていく必要があります。丁野さんによると、最低でも赤、青、黄、白、黒の5色。色数が多いほど、インクも溶剤も使います。

それを白黒の2色にすれば、使うインクと溶剤の量を減らすことができます。印刷の工程も減るため、結果的にコストも下がります。

もちろん、白黒のパッケージ自体が、これまで存在しなかったわけではありません。業務用の袋や大人用おむつなど、見た目の華やかさで選ばれにくい商品では、もともとシンプルな印刷も珍しくありません。しかし、スーパーの棚で目立つことが重要な「お菓子の袋」が白黒になるのは、業界にとっても異例です。

また、デザインを変えると、印刷用の「版」も新しく作り直す必要があります。金属のローラーに溝を彫るため、その分の費用はかかります。ただ、カルビーのように大量生産する商品なら、その費用を全商品でならすと、1袋あたりの負担はごくわずか。それよりも、インクや溶剤を減らす効果のほうが大きいとみられます。

白インクを省いて、使用量53%減

一方で、ただ色を減らすだけではなく、ナフサに頼るインクの使用量そのものを減らす技術で、この危機を乗り越えようという動きも出ています。香川県に本社を置く「北四国グラビア印刷」の森本 未沙さんに伺いました。

「北四国グラビア印刷」森本 未沙さん

私たちは「白いフィルム」を活用することによって、白インキを使用しない技術っていうのを確立しております。従来のものと比べると、白のインキの1色分が減るっていう形になるんですけど、白はインキの使用量がすごく多いので、6色のうちの白一色を省いたっていうだけでも、インキすべての使用量の「53%ぐらい」を削減できる。

あ、見た目はわからないと思います。

まずは、白を削減、半分以上削減できるのでっていうところで今はやっております。

もともと白いフィルムに印刷すれば、白インクを節約できる、というアイデアです 。

どうやって白くしているかというと、透明なフィルムの中に、目に見えないほど小さな空気の泡をたくさん閉じ込めているんです。この無数の泡に光が反射することで、真っ白に見える仕組みです 。去年の冬にできたばかりの技術。すでに冷凍食品や即席みそ汁、お菓子のパッケージで採用されているそうです。

ただし、万能ではありません。重たい商品には不向きで、完全に白くなるため中身を透明に見せたい商品にも使えません。それでも、今回のナフサ不足をきっかけに、こうした新しい技術への注目が高まっています。

(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)

編集部おすすめ