しばしば、「金(ゴールド)は株価指数が下落した時の受け皿になる」という話を耳にします。金(ゴールド)価格の動きは株価指数の動きと密接、という話です。

本レポートでは、本当に「受け皿」なのかについて考察します。


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同じように動く金(ゴールド)と株価指数

 図1は、S&P500種指数(以下、S&P500)とNY金(ゴールド)先物の価格推移を示しています。1980年代半ばから1990年代後半までは、相関係数がマイナス0.60と、逆相関(逆の動き)をする傾向がありました。


図1:S&P500、NY金(ゴールド)先物の価格推移(日足終値)
エビデンス投資「金(ゴールド)」の本当の買い方(短・中期投資編)
出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 しかし、2010年ごろからは、相関係数が0.82と、同じように上がったり下がったりするようになりました。


 相関係数は、マイナス1.0と1.0の間で決定し、マイナス1.0に近づけば近づくほど、二つは逆に動く傾向があることを(逆相関)、1.0に近づけば近づくほど、二つは同じように動く傾向があること(順相関)を示す目安とされています。


 このことから、2010年ごろ以降は、「株と金(ゴールド)は逆相関」という、金(ゴールド)市場に伝わるナラティブ(物語)は、実態とは言い難いといえます。


図2:エビデンスとナラティブについて
エビデンス投資「金(ゴールド)」の本当の買い方(短・中期投資編)
出所:各種資料を基に筆者作成

 図2のとおり、ナラティブはエビデンス(証拠)よりも、伝播力が高く、消費者や投資家の行動に大きな影響を与える傾向があります。このことが、2026年になった今でも「株と金(ゴールド)は逆相関」というナラティブが支配的である理由です。


 そもそも、投資活動は、消費活動と異なります。消費活動であれば、ナラティブが優先されることは往々にしてあると思います。インターネットやテレビなどの広告では、ナラティブを深めることが何よりも重視されています。


 しかし、投資活動という、大切なご資金を金融商品に投じた上で、それがもたらす損益を受け入れる行為において、ナラティブが優先されることは、筆者としてはできれば避けた方がよいと考えています。


 もたらされた利益や損失を受け入れるためには(自己責任の世界ゆえ、受け入れなければならない)、合理的な思考が必要だからです。

合理的な思考は、分かりやすさや雰囲気、有名人の言葉に頼っていては、生じ得ません。


 だからこそ、投資活動においては(金投資に限らず)、ナラティブから離れ、エビデンスを重視する必要があるのです。


近年、ショック時でも金(ゴールド)下落

 図3は、1980年以降のS&P500の月間平均の推移と、道中に発生した10度のショックを示しています。2010年ごろ以降、ショックの回数は増えていますが、それを跳ねのけるように、価格が大きく上昇してきたことが分かります。


図3:S&P500の推移(月間平均)と10度のショック
エビデンス投資「金(ゴールド)」の本当の買い方(短・中期投資編)
出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 価格の急落直前を起点、回復開始を終点とすると、ブラックマンデーは1987年10月から1987年12月まで、S&L(貯蓄貸付組合)危機+景気後退は1990年7月から1990年10月まで、ITバブル崩壊は2000年3月から2003年3月まで、リーマン・ショックは2007年10月から2009年3月までです。


 また、欧州債務危機・米国格下げショックは2011年5月から2011年10月まで、チャイナショックは2015年5月から2016年2月まで、コロナ・ショックは2020年2月から2020年3月まで、インフレ・利上げショックは2022年1月から2022年10月まで、トランプ関税ショックは2025年2月から2025年4月まで、イラン戦争ショックは2026年2月から2026年3月(継続中)までです。


 図4は、10度のショック時の、S&P500とNY金(ゴールド)先物の騰落率を示しています。2010年ごろ以前は、まさに「逆相関」だったことが分かります(株安・金高)。しかし、それ以降は、株と同様、金(ゴールド)も下落したケースがあることが分かります。


図4:S&P500の10度のショック時の騰落率(NY金先物とともに月間平均ベース)
エビデンス投資「金(ゴールド)」の本当の買い方(短・中期投資編)
出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 2010年ごろ以降のショックにおける期間は、欧州債務危機・米国格下げショックがおよそ5カ月間、チャイナショックは同9カ月間、コロナ・ショックは同1カ月間、インフレ・利上げショックは9カ月間、トランプ関税ショックは同2カ月間、イラン戦争ショックは同1カ月間です。


 こうした、短・中期的な期間において、株と同様、金(ゴールド)も下落したケースがあることは、これからの金(ゴールド)投資において、大変に重要な意味を持ちます。金(ゴールド)が株価下落時の受け皿にならない可能性を示唆しているからです。


近年、景気回復期でも金(ゴールド)上昇

 図5は、10度のショック時「以外」の、S&P500の上昇・堅調期を示しています。2010年ごろ以降、上昇・堅調期の上昇幅は、それ以前を大きく超える規模です。


図5:S&P500の推移(月間平均)上昇・堅調期(ショック期以外)
エビデンス投資「金(ゴールド)」の本当の買い方(短・中期投資編)
出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 図6は、上昇・堅調期の、S&P500とNY金(ゴールド)先物の騰落率を示しています。2010年ごろ以前は、多くのケースで「逆相関」だったことが分かります(株高・金安)。しかし、それ以降は、株と同様、金(ゴールド)も上昇したケースがあることが分かります。


 トランプ関税ショック前、イラン戦争ショック前の上昇時、金(ゴールド)の上昇率がS&P500の上昇率を上回ったことは、「逆相関」とは言い難いことを示す象徴的な動きだといえます。


 冒頭で、2010年以降のS&P500と金(ゴールド)の相関係数が大変に高いことについて触れました。そのことを、この図6で再確認することができます。


図6:S&P500の10度の上昇・堅調期の騰落率(NY金先物とともに月間平均ベース)
エビデンス投資「金(ゴールド)」の本当の買い方(短・中期投資編)
出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 図3、4、5、6より、2010年ごろを機に、株と金(ゴールド)の関係性に重大な意味を与える変化が生じ、その結果、株と金(ゴールド)が、同時に上昇したり下落したりしているといえます。


 資金が株か金(ゴールド)のどちらかに流れる、という逆相関を念頭においた考え方が、すでに通じなくなっていると考えなければなりません。


短・中期視点は「金融政策・伝統的有事」

 図7は、株と金(ゴールド)の値動きにおける過去と現在です。2010年ごろから、右の「現在」が常態化しています。中央銀行の金融政策や、伝統的有事の中でも行き過ぎた有事・不安が、短・中期視点の「株高・金高」「株安・金安」の要因となっていると考えられます。


図7:株と金(ゴールド)の値動きにおける過去と現在
エビデンス投資「金(ゴールド)」の本当の買い方(短・中期投資編)
出所:筆者作成

 過去は、景気動向を起点とした、好景気(不景気)→株高(株安)→金(ゴールド)安(高)でした。株が高い時は金(ゴールド)が売られ、株が安い時は金(ゴールド)が買われるという、株が主、金(ゴールド)が従の関係でした。


 しかし、2010年ごろ以降、実際の値動きやそれらをもとに計算された相関係数が示すとおり、株と金(ゴールド)は同じように動くようになりました。2008年のリーマン・ショックをきっかけに注目されるようになった主要国の「金融政策」が、その一因になっていると考えられます。


 例えば、2022年2月にウクライナ戦争が勃発しましたが、その翌月の2022年3月と翌年の2023年2月を比べると、NY金(ゴールド)の価格は下落しました。


 戦争が勃発したのに、なぜ金(ゴールド)価格は下落したのでしょうか。主要国で、戦争勃発を機に悪化する懸念が大きくなったインフレを退治するため、利上げが行われたためです。


 足元、イラン情勢が悪化する中、金(ゴールド)価格が上昇しない背景に、米国がインフレを嫌気し、利下げをすることができないことが挙げられます。こうした引き締め的な金融政策は、戦争勃発時でも金(ゴールド)相場を押し下げたり、上値を抑えたりするのです。


 また、2020年の新型コロナ・ショックや2026年のイラン戦争勃発直後、短期的に金(ゴールド)価格が株とともに急落しました。この時は、「行き過ぎた不安」をきっかけとした、現金化を急ぐ「有事のドル買い」が背景にありました。


 2010年ごろ以降、金(ゴールド)相場を取り巻く環境は、以前の「エビデンスとナラティブ「金(ゴールド)」の本当の買い方(長期投資編)」で述べたとおり、以下の状態になっていると考えられます。


▼あわせて読みたい

エビデンスとナラティブ「金(ゴールド)」の本当の買い方(長期投資編)


図8:ドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージ
エビデンス投資「金(ゴールド)」の本当の買い方(短・中期投資編)
出所:筆者作成

 同レポートで述べたエビデンス(証拠)を伴う「土台」が中長期・超長期的な価格上昇を支え、その先端部分で、本レポートで関連事項を述べた、伝統的な有事、代替資産(株との関係)、代替通貨(ドルとの関係)の三つが、短中期的な値動きをもたらしているというイメージです。


 しばしば、「金(ゴールド)は株価指数が下落した時の受け皿」という話を見聞きしますが、2010年ごろ以降は、受け皿ではなく、攻めの要素が強くなっているといえます。


 金(ゴールド)投資は、短・中期であっても、長期であっても、ナラティブ(物語)に頼ってはいけません。データを伴ったエビデンス(証拠)をもとに行うべきだと、筆者は考えています。


[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立

純金積立・スポット購入


投資信託

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)


中期:関連ETF

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:商品先物

国内商品先物
海外商品先物


短期:CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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