日英伊の3国による「次期戦闘機」開発の政府間機関を設立する条約が結ばれ、開発が具体化してきました。日本で開発を担う三菱重工も準備を着々と進行中。

その拠点になるのは「戦闘機の聖地」ともいえる場所です。

次期戦闘機計画「GCAP」3か国の防衛相がコマを進めた

 日英伊の3国共同で進める日本の「次期戦闘機」開発がいよいよ具体化しそうです。木原 稔防衛大臣は2023年12月14日、イギリスのグラント・シャップス国防大臣、イタリアののグイード・クロセット国防大臣と東京で防衛相会談を行い、「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)政府間機関の設立に関する条約」への署名を行いました。

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航空自衛隊のF-2戦闘機(画像:航空自衛隊)。

 GCAPは航空自衛隊が運用するF-2戦闘機と、イギリス、イタリア両空軍が運用するユーロファイター・タイフーン戦闘機を後継する新戦闘機を共同で開発する計画です。今回の条約に基づき、3国は開発を一元的に管理する政府間機関「GIGO」(GCAP International Government Organisation)を設立します。

 防衛省や外務省からは制式な発表はなされていませんが、2023年12月13日付の読売新聞によると、GIGOの本部はイギリスに設置され、3か国で数百名規模の政府職員が勤務する組織となるとのこと。防衛省は2024年に開催される通常国会で、職員派遣に伴う法律の改正案を提出すると報じられています。

 GIGOの正式な立ち上げは2024年を予定されていますが、その一方で開発に関与する民間企業の共同事業体制の構築も進められています。

 GCAPの機体開発は日本の三菱重工業、イギリスのBAEシステムズ、イタリアのレオナルド、この3社が主導することが決まっています。

 3社は2023年9月に、GCAPの長期的な作業、およびそのコンセプトと能力要件の明確化に関する議論を継続することで合意しており、3社の代表者は、会談と条約への署名を終えた日英伊3か国の防衛相との意見交換も行っています。

 各企業の開発の作業分担は、日英伊3か国の財政的・技術的貢献の度合いに応じて決まることになりますが、三菱重工業は開発開始に向けた準備を着々と進めています。

 同社は2023年11月22日に東京都内の本社で防衛事業説明会を開催。その席でGCAPの開発の本格に備えて、同社の小牧南工場に開発棟を増設する計画が明らかにされています。

アメリカ軍機の修理から始まった小牧南工場

 小牧南工場は愛知県豊山町に所在する、三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所の工場の一つです。1952(昭和27)年に設立され、軍用機を作り続けてきました。

 第二次世界大戦に敗北した日本は、独立を回復した1952(昭和27)年まで、日本を占領していた連合軍最高司令部(GHQ)の定めた、いわゆる「航空機禁止令」によって、航空機の開発製造はもちろん、航空科学に関する教育や研究も禁じられていました。

 このため第二次世界大戦前から戦時中に零式艦上戦闘機の開発と製造などを手がけ、日本を代表する航空機メーカーのひとつとなっていた三菱重工業も、スクーターなどの民生品を製造して糊口をしのいでいました。

 しかし当時の玉井喬介社長は航空機産業の将来性を見通し、批判を受けながらも独断で航空機工場の施設や航空機開発に携わる人材を同社に残すことを決断。1952年にアメリカ軍から返還され、羽田空港と伊丹空港を結ぶ定期便の運航が開始された小牧飛行場(現県営名古屋空港)に隣接するエリアに、温存していた施設と人材を活用して工場を立ち上げました。これが小牧南工場のはじまりです。

「戦闘機の聖地」飛躍へ 日英伊の「次期戦闘機」いよいよ具体化 “日本の拠点”に
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中央が小牧南工場。奥は県営名古屋空港の滑走路(画像:Google earth)。

 設立当初の小牧南工場はアメリカ軍機の修理を主な業務としていました。

当時の三菱重工業はGHQからの指令により、三菱日本重工業、三菱造船、新三菱重工業の3社に分割されていましたが、そのうちの一つである新三菱重工業が1956(昭和31)年に航空自衛隊向けのF-86F-40「セイバー」戦闘機の最終組み立て(ノックダウン生産)を開始。第二次生産分からは国産部品も使用するライセンス生産を行い、F-86F-40の生産で中心的な役割を果たした小牧南工場は、航空自衛隊向け戦闘機を製造する工場としての地位を確立しました。

F-35Aではロッキード・マーチンの下請け

 その後の小牧南工場は、アメリカ製戦闘機のF-104J/DJ「スターファイター」、F-4EJ「ファントムII」、F-15J/DJ「イーグル」のライセンス生産や、純国産超音速練習機のT-2、T-2をベースに開発したF-1支援戦闘機の開発と生産を手がけており、航空自衛隊が戦闘機を整備する上で、なくてはならない工場となっています。

 現在、航空自衛隊が運用しているF-2戦闘機はロッキード・マーチン(当初はゼネラル・ダイナミクス)との共同開発機ですが、小牧南工場で日本が分担した部分の製造が行われました。

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GCAPで開発する次期戦闘機のイメージ(画像:防衛省)。

 しかし現在、航空自衛隊が整備を進めているF-35A「ライトニングII」戦闘機は、最終組み立てこそ行われているものの、防衛省からの元請けではなく、ロッキード・マーチンからの下請け事業であり、小牧南工場の重要性は以前に比べて低下を余儀なくされています。

 前に述べたGCAPの開発棟はエンジニアとコンピュータなどを収容する建物で、本格的な製造施設の建設はまだ先の話ですが、開発棟増設は、小牧南工場の重要性を再び高めるための第一歩になるものと筆者(軍事ジャーナリスト:竹内 修)は思います。